ep.29 ゲームチェンジャー
ボギーはパワードスーツの接合部を、バールの先で力ずくで広げようとした。
「ぅぅぅぅぅおりゃああ──やっぱプロが作るのは、なんか違うなぁ、はがれろぉぉぉ」
ガキッと音がして少しの隙間が開くと、ボギーはバールを放り投げた。
「よっしゃ! じーちゃんたち、馬鹿力貸してー!」
ボギーの両腕がみるみる黒く太い獣のようになり、指は黒い毛で覆われ、鋭い尖った爪が現れた。
ボギーは隙間に指を突っ込み、掴んだパーツをバキッと音を立てて剥がした。
「見えた! バッテリーは背中!」
ボギーが分厚い背中のパーツを剥がすと、内側に付いていたバッテリーが見えた。そこでパワードスーツはようやく停止した。
ボギーは手にした欠片を握りながら、
「やっぱりじーちゃんたちでも噛み砕けないね。何でかわかる?」と言った。
《うーん……》
辨野は動かなくなったパワードスーツを調べ始め、他の接合部分を調べていた。
「バールを持って行くって聞いた時は、冗談だと思ったけどな」
「工業科の連中が作ったロボットの解体、よく頼まれたんだよね。パワー系の奴らと手伝ってた。バールはじーちゃんたちが噛み砕いちゃうからさ、そこは自力でやらないといけなかったし。久しぶりにやれたわー」
既に場地たちも到着しており、その間も5人で攻撃を捌いていたので、レジーが叫んだ。
「やり切った感出してんじゃねーよ! まだまだいるっつーの!」
「ごおめん! で、撤退する? それとも全部のバッテリー引っぺがす?」
ボギーは辨野に近づいて来たパワードスーツの腕を捕まえ、
「オリャッ、引き落としっ!」と床に倒した。
「──鉱物が何で私たちに作用してるのか、ずっと龍神様たちが探ってるんだけど……それよりもこの人たちを何とかしよう。全員停止させて、病院の前に放り出したい。ここに放置しても、ちゃんと処置してくれるかどうか」
「了解! ビリー、押さえててー! じーちゃんたちは引っ込んでー!」
《忙しないなぁ……》
ケルベロスはボソッと呟いた。
ボギーはまたバールを掴んで、パワードスーツの脇の継ぎ目に思いっきり突き刺した。
辨野はパワードスーツの足先まで全部調べると、
「溶接してるわけじゃないが、脱がせる設定になってないな。はめ合わせて終わり」と言った。
「着せっぱなしか。やっぱり捨て駒なんだな」と場地が言った。
ボギーとビリーはパワードスーツの装甲を剥ぎ取った後、何度か欠片を握ってみた。
「ビリーの守護神も、やっぱこの鉄は溶かせない?」
「うん。めっちゃ抵抗感あるって言ってる」
チャコは天井に付いている監視カメラの一つを、チラ見して言った。
「『レアムーン』って結局何だろう。イエツナくん、“あちら“は解ってやってるっぽい?」
イヤホンからイエツナの声が聞こえて来た。
『はいはいチャコさん、レアムーンの正体はあちらも解明して無いと思われますよ。ただ硬度や性能が別格だったという事で、こちらに仕向けたようです。チャコさんたちの特別な力に対抗出来た結果は、あちらには思いがけない僥倖だったようです。ラッキー! と喜んでいるのでは』
レジーがパワードスーツを羽交締めにしながら叫んだ。
「調子にのんじゃねー! 機械野郎が! オラ、バール持って来てさっさとこっちも解体しろ! ザッキーたちもまだわかんねー?」
《──今まで戦った事の無い違和感、としか言いようがない》
朱雀の困惑した言葉が皆にも聞こえた。
ボギーもケルベロスに聞いた。
「ふーん。じーちゃんたちも違和感?」
《俺たちは、嫌な圧を感じるな──例えばうちのハデスやゼウスのような重苦しい圧で──ああ、あれだ──》
《──────》
《────》
「マジで?」
ボギーが最後の1機を床に倒した時、
「ジャイアントスイングしちゃ駄目?」と言って足を持とうとした。
「駄目に決まってんだろ!」と場地が言った。
「そんなの俺だってやりてえよアホ!」とレジーが叫んだ。
「いつもはじーちゃんたちが、すぐ噛み砕いちゃうからさ、投げ技が出来るなら──」
「アホな事言ってないでさっさとやれ」
「そんでさっさと病院に運んでもらおう」
「僕が頼んでおいた」
ビリーがそう言うと、脳天使と大天使たちが姿を現した。
「お願いします」
チャコは天使たちに向かって言った。
《引き受けた。この人間たちは、元々こちらの管理下のようだ》
麻薬中毒者たちがいなくなって、各々がいつものように破壊出来ない事を、確認していた。
「やっぱり溶かせねーなー。マジで何なん」
レジーはまた少しイラつき始めた。
チャコがため息をつきながら言った。
「バッテリーがあって単独で動くなら、人間を中に入れる意味は──私たちに抵抗感を持たせるためでしょうね」
キャンティは冷酷な目で監視カメラを見た。
「前に言っといたけどな。俺ら関係ないって」
レジーは「ハーやれやれ」みたいな仕草をした。
「一般人の命なんて知ったこっちゃねーし、ゾンビなんてもっと知ったこっちゃねーよ」
ビリーは少しフッと笑い、
「それは……『双子限定』って解釈されてるかも……」
そう言うと、ボギーが「わかるー」と言った。
「あ?」
その時の監視カメラは、照準器のサークル内に、談笑するボギーの姿を捉えていた。
そしてボギーの情報が一つ追加された。
【要注意 ゲームチェンジャー】
『皆さん皆さん、イエツナですけど、“試作品”が成功したと判断されたようで、“完成品”がそちらに向かっているようです』
「“完成品”か。重機ロボかな」
ボギーが呟いた。
『現状、皆さんの脳筋パワーはいつもと変わらずですが、『レアムーン』に対しての破壊力だけを封印されているとお見受けします。やはり一度撤退がよろしいかと。筋力のゴリ押しだけじゃ対抗出来ない程の、ゴッツイのが来ると予想されますので』
「イズモを攻撃かと思ったが、俺たちをまとめて一気に畳みかける方で来たな」
場地は少しホッとした様子で言った。
『それと、ウイルスや細菌の心配もありますから、チャコさんはまず検査をしてください。生物兵器で二重攻撃も、あり得なくはないですからね』
「そうだったね。了解」
『本当はパワードスーツを分析したいところですが、追跡されそうですから、持って来なくて結構ですよ』
そこでボギーが、先程のケルベロスの話を思い出した。
「あ、そういえばさ、じーちゃんたちが────」
『あの、私の話、聞いてます?』
ボギーの話を聞き、全員黙って目を合わせた。
それから各々、守護たちと相談を始めた。
『聞こえていますか? 何で誰も喋らないんですか?』
『無視しないで。ひどい』
【ゲームチェンジャー(流れを変える人)】
AIユニット側にとってはただのあだ名ですが、属性とかクラスとかスキルとか、考えてると楽しいです。




