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異世界捜索  作者: ンゴ
第四章
17/71

第17話 カマキリVSゴリラ

 喧騒が巻き起こる。

 席に留まっていた客が、サングラスの男の負傷をチャンスと捉え、一斉にフロアから逃げ出したのだ。


 当の本人は、敵意を剝き出しにしたジェシカと、視線を衝突させていた。

 肉食獣は、虫になど興味を示さない。

 何なら、フロアに残っている俺でさえも、蚊帳の外。


「ああ…今日の俺は、本当に不幸だ」


 嘆いた男は、折れた左腕をゆらり、掲げる。

 椅子の弾丸に折られて、もう使い物にならなくなったそれを、どうしようと言うのか。


 俺からしてみれば、これは当然の疑問。

 だがしかし、此処はグランシア大陸だ。

 銃の代わりに魔法が飛び交い、そんな奴らが剣で捻じ伏せられるような、別世界なのだ。

 常識の範囲内で、物事は進んでくれない。


「クソバーテンどころか、顔も知らねえクソ女にまで舐められるとはなァ!」   


「ヒィ!」


「危ねえ!」


 高圧的な物言いで声を荒げた男は、血迷ったか。

 負傷中の腕を鞭のように撓らせて、分厚いカウンターテーブルへと、叩きつけた。   


 巻き込まれるのを恐れ、思わず悲鳴を上げた、バーテンダー。

 すぐさま手を伸ばした俺は、プロの腕が傷物にされる前にジャケットを掴み、此方へと引き寄せた。

 運良く、木くずで汚れただけで済んだ彼は、戦地と化した勤務先から、大慌てで逃げ去っていく。


 憤怒の餌食となったカウンターは、大破。

 その代償として、既に限界を迎えていた男の左腕は、中で粉々に砕けて、其処彼処で折れ曲がってしまっていた。

 俺は人体があんな風に扱われているのを、初めて見た。

 

 普通、発狂していなければおかしい、大怪我だ。

 それなのに、男は何事も無かったかのように、ケロッとしている。


「…おいおい、神経通って無いのかよ!?」


 この男、頭の捩子が飛んでいる。

 戦慄した俺は、無意識に一歩身を引いた。

 同時に、固まっていた男は何かに気付き、研いだばかりのナイフの様な目を、バッと見開く。


「おい、腕がいてえじゃねぇかあああ!!」


「…は?」


 男は、今更悶え始めた。

 その間抜けさに、俺を侵食していた恐怖も、サーっと引いていく。


 痛みという、産まれ落ちたその時から人を縛る枷を超越した、非科学的な存在なのかと勘違いしていたが、実際に起こっていたのは、アドレナリンの過剰分泌。

 大虎になっていたのを咎められただけで、骨が粉末と化した事すら、どうでも良くなる程の激情が湧いてしまうのであれば、何らかの病気だ。

 危ない薬でも使用していないと、説明が付かない。


「お前、死んだぞ」


 ジェシカは隙を、見逃さない。

 残像すら見えそうな速度で接近。

 宣告を下し、男の腹をぶん殴る。

 

 しかし、またも奇襲に反応した男は、右手一本で拳の衝撃を殺してしまった。

 いや、それどころか、網のように長い指に、ジェシカが捕まっているではないか。

 最初の、椅子を用いた一撃への対処といい、大柄な容姿に受ける印象の、数倍は機敏だ。


「謙虚に生きていて欲しいもんだ…弱っちい女にはよォ!」


 ぐにゃぐにゃに曲がった男の左手に、ビール瓶。

 それは渾身の力で、ジェシカの側頭部へ。

 厚手の瓶が頭蓋骨に衝突して割れる音と、俺の叫びが重なった。


「ジェシカ!」


 足元まで飛んできた瓶の破片。

 付着している赤色は、ワインではなく、ジェシカの血液だった。

 致命傷になり得る一撃に、最悪の結果が過る。

 だが、そんな心配は、杞憂に終わった。


 ジェシカ・グリーンウッド。

 二つ名は、剛剣。

 豪快に頭を殴られようが微動だにせず、口角を釣り上げてさえいたのだから、本当に負けず嫌いな奴だ。


「…鍛え方が足りねえんだよ、グラサンカマキリ野郎!」


 頭から鮮血を流したジェシカは、網膜の上に赤い液体が覆い被さってくるのを無視し、空いていた右腕を、男の横腹に捻じ込む。

 勝利を確信していたからか、とうとう直撃を免れる事ができなかった男は、背後のテーブル席まで、盛大に吹き飛ばされた。


 鮫のように尖った歯の間から、ゴボッと噴き出した血混じりの胃液。

 落下した高級なグラスが絨毯を汚し、その破片の上に、脱力した長い腕が降ってくる。

 テーブルにもたれた男は、ぐったりと静かになった。

 酒をきっかけとした化物同士の喧嘩は、得物に頼らず、己の肉体だけで上回った、ジェシカの完勝で幕を閉じたのだ。


「ジェシカ!怪我は大丈夫か?」


 俺が駆け寄って安否を確認しても、ジェシカは暗い表情で、俯いたまま。

 後遺症や出血過多の可能性に焦った俺は、彼女の肩を掴んだ。

 すると、ゆっくりと視線を合わせた瞳には、悲壮感がたんまりと浮かんでいた。


「ユータの初めての酒が…台無しになっちまった。せっかく二人で街に出て、こんなの俺も、初めてだったのに…!」


 嘆くジェシカは、床へと泣き崩れてしまった。

 背中に垂れる赤い長髪も、しゅんと落ち込んでいる。

 初めて見る弱った姿に困惑した俺は、一度手を離してしまったが、泣きじゃくる彼女をどうにかして慰めようと、膝を突き、肩に触れ直した。


「大丈夫。あの酒の味、ちゃんと覚えてるから。後は宿に帰って、一緒に飲み直してくれよ」


「…おう」


 俺の頼みを聞いたジェシカは、ちょっとだけ、落ち着いてくれたようだった。

 まだ夜は長い。

 アルコール初心者の俺だって、カクテル一杯では流石に物足りないし、延長戦といこうじゃないか。

 

 ああ、この世界に来てからというもの、じいちゃん以外から与えられることのなかった、形の無い温もりを、幾度となく貰っている。

 今も目の前には、俺を想って、泣いてくれるような友達。

 このかけがえのない存在を、大切にしなければ。


 幸せを噛み締めた俺は、紅潮した頬を濡らす涙を拭おうと、人差し指を伸ばす。

 しかし、肌に触れる寸前、見えない何かに伸し掛かられる不可思議な感覚によって、俺とジェシカは、床へと叩き伏せられた。


「ぐあッ!?」


「何だよコレ…どうなってる!」


 ジェシカは目を白黒させながら呻き、俺は文句を。

 筋肉に力を込めても、体が思うように動かない。

 すぐそこに転がっていたワイングラスが、ステムだけを残して、無惨に潰れていた。

 

 馬車でジェシカの殺気を受けたときの、あの感覚に近いが、これは決して、心理的な圧力ではない。

 物理的な重圧が、俺たちを上から押し潰さんとしているのだ。


「…力を使うなと指図されていたが、もう、止めだ。俺一人だけがクソ不幸なまま、黙って居られるかよ」


 グラサン男が、ふらりと体を起こす。

 ずたずたになっていた左腕が、刺さったグラスの破片をスイカの種の様に吐き出しながら、元の形状へと再生していく。

 

 過去に、似た光景を目にした事がある。

 そう簡単に、忘れられるはずがない。

 怒りと悲しみが色濃く混じり合った、あの日の記憶を。


「外道が、人を喰いやがったな…!」


 人の道を踏み外した最悪を侮蔑し、強く睨み付ける。

 男の左腕の挙動は、ステナが有していた回復能力と、酷似していた。

 つまり彼は、転移者の心臓を取り込んだ、転移者。

 禁断の領域を侵犯した、悪魔だ。


「ほう、随分物知りじゃねえかクソガキ。まあ、知ってたところで、何になる訳でもねえがなァ!」


 男が叫べば、体の重さは更に増し、腕の力で持ち上がっていた上体が、ベタンと床へ。

 卑怯にも思えるような彼の特異魔法の前に、俺もジェシカも、頬を絨毯に擦りつける事しか、許されなかった。


 此方も特異魔法を撃って、抵抗しようか。

 ダメだ。

 出掛かりの炎が、降り注ぐエネルギーに負けて、消火されてしまう可能性がある。

 手の内を明かすだけになったら、目も当てられない。

 

 ジェシカの頑丈さを信用し、最善の一手を思案する俺の心を煽るように、男はゆっくりとした足取りで、此方へ近付いてくる。

 あまつさえ、その途中に転がっていた酒瓶を、蹴り飛ばしてきた。

 絨毯の上を滑って来た瓶は、ある地点で床に向かって押し付けられ、ネックから下がぺしゃんこに。


「その辺のゴミなら肺が潰れるか、最低でも、骨に罅が入って泣き喚くんだがなァ…。手前等、一体どんな鍛え方してやがる…とはいえ、だ。所詮、獣伐区のゴミ。ゴミ同然だろ?自覚、あるんだろ?魔法の才能が無いってのは、哀れなもんだなァ!」


 ペラペラと良く喋る男に対し、我慢ならなくなった俺は、唾でも吐いてやろうかと、精一杯の力で顔を上げる。

 すると、歩いているだけの男の額に、何故か大粒の汗が浮かんでいるのが、映った。

 

 視界情報は、目から脳へと到達。

 頭の中で、一つの仮説へと昇華されていく。

 息を呑んだせいで罵倒する事は叶わなかったが、代わりに手に入れた副産物は、まさに欲しかったものだ。


 重力。

 それは、恒常的に在る力だ。

 そのため、この男の特異魔法は、『見えないがそこにあるものの出力を、器用にコントロールし続ける』力である。


 魔素によって、イメージから物質や現象を作り出す訳ではなく、現実に存在する力の操作か。

 普段から、特異魔法を使用している俺だから分かる。

 さぞ、集中力を要するのだろう。

 さぞ、その精神は、キツかろう。

 

 たった今、彼を襲っている疲労感の原因は恐らく、急激な精神の摩耗と、魔力の消費。

 ならば、時間が経てば経つほど、チャンスが生まれる可能性は、高まる。

 その上、俺を獣伐区の人間だと勘違いしている彼に対して、一発目の魔法は、完全なる奇襲。

 命中させるのは、容易い。

 

 希望的観測と言えばそれまでだが、希望さえあれば、力が湧く。

 仮説と願望を根拠に、いつか訪れるであろう、男の集中の途切れ目を、虎視眈々と狙え。


「おい…無様だなァ、クソ女」


 足取り重く、気怠げに。

 ようやく側まで辿り着いた男は、ポケットから取り出した煙草を咥えた。


 彼は返事を待っているようだったが、瓶で殴られた上に重力の負荷が掛り、ジェシカの意識は朦朧としている。

 尋常ではない生命力を持つ彼女でなければ、とっくに気絶。

 もしくは、死んでいるだろう。


 限界が近いことを察した男は、ジェシカの周囲だけ魔法を解く。

 そして、彼女の首を長い指でがしっと掴み、軽々、持ち上げた。


「よくもさっきはぶっ飛ばしてくれたなァ…?」


「…俺とお前の喧嘩だ。こいつは関係ない。見逃がしてくれ」


 意識の糸を手繰り寄せたジェシカが、閉まりかけの喉から絞り出した声で、何を言うかと思えば。

 俺の命を、乞い出した。

 自信に満ち溢れていた彼女の弱弱しい声に、今も尚、機を待ち動かない己に対する嫌悪が、最高潮に達する。


 だが、奴を討ち損じれば、それこそ。

 大切な友達を失いかねない。

 俺は衝動に飲まれぬよう、奥歯を壊れそうな程に噛み締め、感情の波をせき止めていた。


「泣かせるねえ。だがな、お前には、極限まで不幸になってもらわないと気が済まねえ。お前を殺すのは、クソガキを始末してからだ」


 足元に投げ捨てられたジェシカ。

 彼女の血が、勢い良く絨毯に零れて、染み込んだ。


 絨毯が赤いのに、どうしてか、ジェシカの血痕だけは、ハッキリと認識できる。

 視力は良いが、別に、特別なほどではない。

 それなのに、何故。


 そうか、分かった。

 どれだけ友を甚振られたのか、忘れるわけにはいかないからだ。 

 最低でも、友が被った苦しみの十倍は、あの男を苦しめねば、気が済まないからだ。


「ゴミが歯向かうからこうなるんだ…。俺を不幸にする悪人は、皆殺しだァ!…あ?」


「行かせねえ…」


 愉悦の真っ只中。

 俺に手を下そうとした男は、足首に違和感を覚え、振り返る。

 最後の力を振り絞ったジェシカが、彼の足にしがみ付いていたのだ。

 

 尋常ではない握力で掴まれた男の足首から、血液が跳ね、メキメキと嫌な音も。

 ジェシカは俺を守るために限界を超え、命の全てを吐き出そうとしていた。

 

 そう、結局、俺が心待ちにしていた瞬間は、彼女がその手で掴み取ってくれたのだ。

 神経を駆け抜ける、想定外の痛みに気を取られた男が、間接視野から俺を外したその一瞬だけ、俺を閉じ込めていた忌々しい重力が、弱まった。


「お前、不幸だな」


 背後の声に、致命的なミスを自覚した、サングラスの男。

 彼が振り向いたその時にはもう、既に獲物は起き上がっていた。


 感情のダムが、決壊する。

 はち切れそうなくらいに膨らんだ感情は青い炎となり、一目散に溢れ出た。


 激しい炎に、根源の意思の高笑いが、過って。

 かたどられたのは、髑髏。

 カタカタと鳴る顎の骨が、男の背丈よりも大口を開けて、空腹をアピールしている。


「地獄の業火に焼かれても死ねないなんて、本当に不幸だ」


「このガキ…爪を隠してやがったか…!」


 洞察の甘さを後悔した男は、青い髑髏の口内へ、為す術もなく、ごっくん。

 咥えていた煙草も、塵と化す。


 これで終わりかと思われたが、最後の足掻き。

 炎の中から細長い腕が伸びてきて、俺の首を掻き切る。

 その寸前に、関節から燃え尽きていった。

 なんだ、髑髏がタバコを嗜んでいるみたいで、良いじゃないか。


「クソが…クソがあああ!」


 男の体は、骨になった部分から回復し、再度焼失していく。

 無限かと思える様な痛みの連続に、絶望した男の叫びが、ボロボロになったバーのフロアを包み込んだ。


 夢を見る度、この悲鳴を思い出すのだろう。

 生き残るために、ある程度覚悟していたことではあったが、いざその時が来ると、甘えた気持ちが芽生えてしまう。

 未だ俺の心は、人殺しという大罪を拒否していた。


「バルカン様!」


 男が八回目の蘇生を終え、再び燃え始めた時だった。

 窓を突き破り、一人の影が飛び込んできた。

 あれは、この店の入り口ですれ違った、黒いローブの男。

 躊躇なく青い炎の中に突っ込んでいった彼は、巨大な髑髏の口を、素手で無理やりこじ開けようと試みる。


 馬鹿な。

 一緒に死ぬつもりか。


「絶対に…殺させない!」


 意気を吐き、痛みを紛らわせた彼の、痩せた腕が。

 髑髏の中で頑張って、じわじわと、前歯の隙間を広げていく。

 中で藻掻いていたサングラスの男まで手を伸ばすと、遂には、引っ張り出してしまった。


「バルカン様、しっかりして下さい!」


「なんだ、くせえと思ったら、クソ奴隷か…」


 サングラスの男、バルカンの傷は、すぐには治らない。

 もう、貯め込んだ心臓が、尽きかけているのだ。


 逆恨みした彼が、ジェシカや俺の命を狙う可能性を考えれば、この場で殺しておくべきだ。

 殺しておく、べきだ。

 気絶したジェシカを置いて、バルカンへ止めを刺しに行こうとすると、ローブの男が、両手を広げて立ちはだかった。


「バルカン様に…近付くな」


 億劫に思った俺は、即座。

 言葉を遮るように、青い炎を発射した。

 顔の真横を掠めたのに、男は、動かない。


 燃やされたフードが脱げ、中から現れた、褐色肌。

 白髪の下に見える赤と青のオッドアイは、まるで人形の瞳の様で、その美しく幼い風貌に、俺は面食らってしまった。

 

 いや、戦場に、若いも何もない。 

 すぐに気を取り直した俺は、もう一度青年を睨む。


「…そんな奴のために、死にたいのか」


「この人の側に居られないのなら、死んでいるのと同然だ」


 問いかけに答える青年の瞳は、左右でちぐはぐな色をしていたが、真っ直ぐに同じものを見据え、戦っている。

 命を奪う事を恐れた情けない目とは、対照的だ。


 勝ち目の無い中で粘りはしたものの、とうとう俺が目を逸らす。

 様子を見ていたバルカンは、床に唾を吐いた。


「ったく、こんな甘えた奴に半殺しにされるとは…おい、名乗れクソガキ」


「…優太だ」


「ユータ…?バ、バルカン様…!もしかしてこいつ、あの化け物の()()()()()じゃないですか!?」


 敗北感で言いなりになった俺が渋々名乗ると、青年が、ガクガクと震え出した。

 青年だけではなく、あのバルカンですらも、若干の冷や汗だ。

 コイツも、恐ろしいだとか、そういう気持ちになることがある、所謂人間なのだという、実感が湧く。


 とはいえ、そもそも話が分からない。

 奴らは、一体何に怯えている。


「成る程、確かに報告と同じ力だ。勢い余ってこのガキ殺したら、人生終わってた訳か。…俺にしては、珍しく運が良いじゃねえか」


「お気に入りって何の事だ!…いや、聞きたいのはそれだけじゃねえ。賢者についても、全部吐いて貰うぞカマキリ野郎!」


 会話についていけない俺は、やけくそになって要求する。

 しかし、相手は友達ではない。

 バルカンたちが、真面に答えるわけがなかった。

 その代わりに、一つ、忠告。

 

「クソガキ、どうやらお前は馬鹿じゃねえし、()()()()に来たってのらりくらりやっていけるだろうよ。…だがな、その舐めたスタンスは、命取りになる。取られる命が、お前自身のものとは限らねえがな」


「説教なんて、頼んでねえんだよ!」


 語気を荒げた俺に対し、見世物を愉しむかのように、バルカンがニヤリと笑った。


 子供扱いしやがって。

 いつでも火葬してやれるんだ、立場を弁えろ。

 どうせ殺しなんかできやしないのに、俺はそんなようなことを考え、昂っていた。

 

 しかし、突然。

 脆くなっていた天井が、崩れる。

 瓦礫の落下地点には、ジェシカが、意識を失ったままだ。


 スイッチをオンにして、歯茎が露わになるくらいに走った俺は、彼女を抱きかかえた勢いで、身を滑らせる。

 ギリギリのところで救出には成功したが、積み上がった瓦礫によって、バルカンたちと分断されてしまった。


 この邪魔な壁が、偶然建造されたものであるわけがない。

 魔法によって破壊されたのは、明白。


「クソ野郎、逃げんのか!」


「お友達が大事なら、さっさとルーライトから出ていくこった。…あばよ、クソガキ」


 青年に肩を貸りたバルカンの姿が、白煙に溶けていく。

 またも指の間からすり抜けていく手掛かりに、追い縋るように手を伸ばしても、虚しく空を切るだけで、何一つ掴めなかった。

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[良い点] ジェシカの見どころ満載で大変満足です
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