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《14》強面皇帝と帝国宰相1

 私は、フローレン・ルクセンロズ。


 ルクセンロズ公爵家の当主である。

 ゴールデンロック大帝国の宰相の職にあり、マクシミリアン皇帝陛下の右腕であると自負している。


 陛下の目指す豊かで平和な国を維持していくために、どんな難題であっても実現出来るように調整するのが私の役目。


 我がルクセンロズ公爵家は、初代皇帝の愛妻として嫁いだ歴史があり、賢帝の夫を支えた賢妃の実家として帝国の民からの信頼も厚い由緒正しき家柄だ。

 王家の縁戚、宰相輩出家、筆頭公爵家として王家、国の繁栄に力を注いできた。

 

 三つ下のマークは私とレックス、ルシアンにとって弟のような存在であり、親友であり物心付いた頃から側にいる。私が一生涯仕え、命をかけて守り抜くと決めた大切な人だ。


 幼い頃は、体も小さくて笑顔の絶えない人懐っこい可愛らしい子供だった。

 帝王学教育がはじまり、ありとあらゆる知識を詰め込まれ、剣術、魔術をくたくたになるまで学ぶ日々。

 休みなく幼少期や少年期を過ごしたが持ち前の明るさで楽しみながら成長していった。


 しかし、転機は十四歳のときだった。


 前々皇帝のマークの祖父による悪行のせいで、感情を押し込めるようになり笑わなくなっていった。


 いつの間にか冷徹、冷血、血も涙もない強面皇子。そう呼ばれるようになっていった。


 実際は自分に厳しく、他者には優しい。穏やかな性格で嘘が嫌いな実直な男。昔となんら変わりわない。周りには誤解されているだけ。


 いつも何かに怒っているような表情で何事も淡々とこなしていくようにみえるのは、喜怒哀楽の感情や表情を表すことが出来なくなってしまっただけだ。


 瞳が怒ってる、こわいと城下の子供たちに泣かれてしまったのを気にして前髪で隠すようになった。

 空色の瞳は宝石のようで美しいのに。隠す必要はないと常々思っている。

 

 戦場や政務に共に関わっている男らはマークの人となりの素晴らしさを知っている。その秘められた美しさも、、、

 まだまだ知らない者たちがこの国には沢山いるのが残念でならない。特に女性……マークは相手を裏切る行為は絶対しないし、愛されれば生涯大切にされるのが保証されているのに……勿体無い。


 なぜそこまで恐れられているのか。


 それは前々皇帝が流したよくない噂が原因である。

 傲慢で我儘で女にだらしがない男。思い通りにならなければ、女や子供も老体であっても、弁明の余地を与えず、裁き下す悪魔のような男だと噂を流した。


 それは、並外れた魔力を持つ孫を恐れた前々皇帝がマークを陥れるための戯言。

 民の総意だと帝国中心部から排除するかのように魔物退治の任を与えて僻地に送った。

 その時絶大な権力を持っていた皇帝の地位にいる祖父には誰も逆らえず、一年の大半を荒れた帝都外で過ごす。

 家族とも離れて暮らさなければならなかった。

 性格が歪まず真っ直ぐでいられたのはマークの心に強い信念があったからだろう。

 己に厳しく、他者には優しい。曲がったことは許せない性分のためかどんな人にも平等だった。



 マーク十八歳。

 適齢期を迎えても一向に相手が出来ないことを心配したマークの両親が皇子妃候補のご令嬢を行儀見習いとして集め、数カ月の選抜が行われたことがあった。

 自国、他国から王公貴族を選別しお相手を見繕う。


 婚約者を決めることもせず、女性に全く興味をしめさないまま成人の儀まで後二年。マークを心配するのと同時に、義父の前々皇帝が充てがった女を愛する息子の妻、義娘として迎えたくなかったからだ。


 大国の皇子の妃選びということで、かなりの人数が集まったが、当の本人は、戦場や魔物退治を理由に令嬢と関わることはなかった。城に戻らず三ヶ月が経った。


 元々、幼い頃に公式の場で姿を見せたのを最後にずっと僻地で過ごしていた為に、マクシミリアンの容姿は世間に知られていない。

 しかし、貴族や騎士職、軍人などに就いている男性連中からの支持はすこぶる高く評判が良い。

 その頃には不本意な噂は忘れ去られていたこともあり、容姿を知らなくても令嬢の父親や兄弟から聞く皇子の絶大な評価に期待は膨らんでいく。

 

 それに、皇子の両親の美男美女なのだから、息子であるマクシミリアンも王道の王子様であるに違いないと、美青年なんだろうな……と年頃の令嬢たちの想像は上をいく。


 マークが選びやすいようにと帝国記念日に盛大に舞踏会を開いたのだった。

 マークは様々な言い訳をして参加拒否しようとしたが、母親の願いに負け、一度だけ出席すると渋々承諾した。



 舞踏会当日。

 

 青年期真っ盛りの皇子の御披露目ということで、国内全ての貴族が出席。マークの妃候補たちも勢揃いしていた。

 見初められることを期待してなのか、国内の適齢期のご令嬢は瞳を輝かせ皇子の登場を今か今かと待ちわびた。


 マークの祖父は皇帝位を退いた後は、自身の後宮に閉じこもり女や酒に溺れた日々を送っている。

 特に本日の孫の晴れ舞台には死んでも出たくないらしい。

 後ろ盾などしてやるもんか!とあちらはあちらの派閥を集めて建国記念祝賀会、、もとい、華まつりと称して各国の名だたる舞妓を集めて乱れたお祝いを催していた。

 


 邪魔をするであろう前々皇帝な出席しない。

 ならば息子の晴れ舞台を完璧なものにと皇后(マークの母親)は主役を飾り立てる。


 厳つい体と無の性格を隠そうと準備された真っ白な燕尾服。

 光の加減でキラキラと反射する金糸の刺繍がこれまた見事な仕上がり。

 華やかさを身にまとい前髪をふわりと後ろに流して、空色の宝石様な瞳が露わに……

 まるで絵本から飛び出したかのような素敵皇子の出来上がり。

 息子の仕上がりに満足すると部屋から機嫌良く立ち去った。



 マークの深いため息は何度目だろうか。



 「はぁぁぁーーー………」



 また一つ落胆の溜息が部屋中に響き渡った。


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