第28話 限界突破とエースへの渇望
「うおおわあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
練習している先輩達までがついつい見てしまうほどの祐輝の叫び声。
高田コーチはひょうひょうとしているがやっている事は過酷そのものだ。
祐輝は捕球姿勢のまま耐えているがだんだんとしゃがみ込み始めた。
「あー止めますか!? いいですよー。 そんな気合じゃエースになんてなれません! 先輩達はこれぐらい簡単にこなしてたぞー。 帰りますー?」
「うわああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
かれこれ10分は経っただろうか?
永遠にも感じる苦痛の中で祐輝は考え始めた。
苦痛の事を考えるよりも精神を統一させて何か別の事を考える方が少しは楽になった。
(戦国時代にもし自分がいたとすれば・・・何をする? 織田信長に本能寺が起きる事を言うか? いや。 あれは実は秀吉が仕組んだ事だ。 そうに違いない。 秀吉だけが得をした。)
大好きな歴史の事を考えると気が楽だった。
かつての先人達が生きた壮絶な人生はこの灼熱の中の捕球姿勢なんか比にならないほどに過酷だった。
誰かに鍛えてもらってエースになる事を期待してくれている。
日陰で休む健太やエルドだって期待している。
何よりも母の真美だ。
一生懸命働いて野球をやらせてくれている。
それなのに。
特訓がキツいから逃げるのか・・・
そんな事できるものか。
「はーいオッケー。 休憩。」
すると高田コーチの声が聞こえて祐輝はその場に崩れ落ちた。
5分だけ休むと高田コーチは突如外野に走っていった。
そして手招きしている。
「走るぞー! 俺に勝ったら練習参加オッケーでーす!!」
祐輝と高田コーチは外野の端から端まで走った。
練習に参加できるというチャンスをものにするために祐輝は死物狂いで走った。
しかし5メートル以上も差をつけられて完敗した。
疲労困憊の足に加え高田コーチは24歳で大学野球を終えたばかりのアスリートだった。
勝てるはずもなかった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「はいお疲れでーす!! じゃあ捕球姿勢もう一回!!!」
なんと初日はそれで終わった。
結局健太だけが復帰してエルドは1日中休んでいた。
宿舎に戻ると放心状態の祐輝は着替える気力もなかった。
先輩達はジャージに着替えて食堂に向かっている。
ユニフォームを着たままの祐輝は健太に手を引っ張られて食堂へ行った。
そこで待っていたのは高田コーチだ。
「お疲れーい!! 一杯食えよー!」
高田コーチは祐輝の茶碗にご飯をよそい始めた。
その光景に祐輝は唖然とした。
牛丼の丼ぶりの様に大きな茶碗に山盛りになっている白米。
一合以上あるだろうか。
アニメでしか見た事のない山盛り飯だ。
「嬉しいかー? 一杯食って明日も頑張ろうな。 吐いたら帰ってもらいまーす!!!」
特訓は終わらなかった。
アスリートに大切な体作りだがこの量は常軌を逸している。
高田コーチは平然と祐輝の前に山盛り飯を置くと今度は自分も祐輝に負けないほどの山盛り飯を持ってきて隣に座った。
「どうした? 飯食えるって幸せだよなあ。」
「はい・・・」
「祐輝はどうしてエースになりたいの?」
「それは・・・母や佐藤コーチの期待に応えたいからです。」
「へー。 おふくろさんだけ?」
「父は形だけ存在していますが、練習に必要なお金は全部母のパートで・・・」
高田コーチはじっと祐輝を見つめるとしばらく何も言わなかった。
そして選手達が「いただきます」の掛け声で一斉に食べ始める。
祐輝は山盛り飯にかぶりついた。
白米の量も以上だがおかずも以上だった。
顔ぐらいあるハンバーグにカツが5枚。
エビフライにポテトサラダ。
大盛りサラダにスープまでいる。
高田コーチはガツガツ食べ始めた。
「ほら遠慮するなガンガン食えよ!」
「はい・・・よし!」
祐輝の試練はまだまだ終わらない。




