70. 奇襲? 見てから回避余裕でした
久しぶりの完全オフを満喫した翌日。
いつものように朝早くから集合した俺達は、『ガートラ大ダンジョン』の最後の10階層───最深層へと足を踏み入れていた。
「なんか、1日空いただけなのに随分久しぶりにちゃんと戦った気がするよ。具体的には1か月ぶりくらい。」
『ウルフ』の群れとの連戦を終え、辺りに散乱しまくっている素材を片っ端から回収しながら呟く。
「……そう言われると、確かに私もクロトとちゃんと話すの久しぶりな気がする。」
「まぁでも、それだけ昨日が充実していたってことなのかもね。」
それから互いに昨日何をしたかについて雑談していると、ほどなくして回収が終わり、俺達は再び探索を再開する。
「───てな感じで安くしてくれたんだよね……って、ハクレシア聞いてる?」
「……え? あ、ごめん。聞いてなかった。何か言った?」
隣を歩くハクレシアの反応が薄かったので声をかけると、彼女はハッとした様子でこちらを見る。
「いや、そんな大した話はしてないけど……ダンジョンでそんなに気を抜いてて大丈夫なの?」
「……うん、そうだよね。ごめん……。」
……最近のハクレシアはこんな風に、心ここにあらずでボーっとしていることが多い。
戦闘となると頭が切り替わるのか、ミスをすることはないけど……一緒にPTを組んでいる身からすると心配ではある。
目の下に隈がないので寝不足とかではないと思うのだが、理由を聞いてもはぐらかされてしまうため真相は分からない。
2週間近くほぼ毎日顔を合わせて会話をしているので、最初に比べると間違いなく距離は縮まっているものの、完全に気を許してもらうにはまだ時間がかかりそうだ。
(上手くいけばあと1週間もしないでダンジョンクリアできそうだけど……そうしたらハクレシアとはお別れになるのかなぁ。この後は別の国に行かないとだし。)
ここ『ガートラ大ダンジョン』は、この国の中でも最高難易度を誇るダンジョン。
これ以上のダンジョンとなると、この世界に9つ(ここを除くと8つ)ある、他の”大ダンジョン”しかないのだが……大ダンジョンがあるのは各国に1つずつ。
従って、これからは8つの国を渡り歩いてレベリングをすることになる。
(まぁ国を渡り歩くと言っても、この世界にもアレがあるなら移動面の問題は一切無くなるんだけど───)
と、そんな風に関係ないことを考えていたその時。
視界の右端で木が不自然に揺れ動いたかと思うと、何本もの枝が隣を歩くハクレシア目掛けて襲い掛かった。
最深層から頻繁に出現する魔物の一つ、『トレント』だ。
『トレント』はファンタジーではお馴染みの、木に擬態する魔物。
弱らせた獲物を根で拘束して自身の養分とする生態で、特に初撃の攻撃速度が速いため、分かっていないと対処は難しい。
(───くそっ! 人のことを言っておきながら、俺も注意散漫じゃねぇか!)
ハクレシアに向かって伸びる枝をスローモーションのように捉えながら、俺は必死に頭を回転させる。
(───とりあえず反省会は後だ。庇う……いや盾を出してる時間はない。それよりもハクレシアに声をかけた方が───)
自分でも驚くほどの思考速度……これが火事場の馬鹿力か、って今はそんなことどうでもいいか。
「ハクッ───!」
「───『リーブスラッシュ』」
俺が言うと同時にハクレシアは後ろへ飛び、彼女のいた場所を通過した枝が細かく切断される。
「───!」
発声器官のない『トレント』は声にならない叫びを上げ、体を大きく震わせる。
「……『アクセルエッジ』『クロスエッジ』」
「《ファイヤーカッター》!」
トレントが怯んだ隙にハクレシアは一気に距離を詰めて2連撃を浴びせ、俺も弧線状の炎を放って追撃する。
奇襲に失敗し、手痛い反撃を受けたトレントだったが、そこは最深層の魔物。
この程度の攻撃ではものともせず、次の一手を仕掛けてくる。
「───下か!」
地面が少し膨れ、直後に地中から根が突き上がってきた。
「……『フェイントステップ』」
「『パリィ』」
根の数は1本ずつ。
ハクレシアはステップで回避し、俺は小盾でタイミング良く弾いて攻撃を無効化する。
「『斬撃波』」
「《ファイヤーカッター》」
攻撃を避けた後は反撃のチャンス。
お互いに遠距離攻撃をしてダメージを与えつつ、次のトレントの行動を見極める。
(……ふぅ、一時は肝が冷えたけど持ち直せたか。こうなったらもう負けることはないな。)
その予想通り、それからも俺達は終始堅実な立ち回りを徹底し、トレントを圧倒した。
トレントも葉っぱを飛ばしたり蔓を使ったりと様々な攻撃を仕掛けてきたが、結局俺達の連携を崩すことはできず、あえなく光に変わっていった。
「お疲れ様。トレントに気付けなくてごめんね。」
「……いや、私も気付けなかったからお互い様。……それに、無事に勝てたなら、それでいい。」
そう言うと、ハクレシアはトレントの素材を回収して先へと歩いていく。
「……そう言えばハクレシアのことを咄嗟に短く呼んでしまったけど、凄く呼びやすかったんだよな。何でだろう?」
『ハクレシア』なんていうNPCは『トリワル』の中では出会ったことがない。
当然、『ハク』と呼ぶのも初めてのはず───
「───あ。」
───その時、俺の頭の中にとある人物が思い浮かんだ
「……何で忘れてたんだろう。『ハク』って言ったらアイツのPNじゃん。」
俺には……いや、正確には”前世の俺”と言うべきか。
前世の俺には隣の家に住む同い年の幼馴染がいた。
彼女の名前は『神代才稀』。
病弱だったため、俺と同じかそれ以上に『トリワル』をやり込んでいた、れっきとした猛者だ。
1年以上前に投稿した第5話の伏線回収できてよかった~。
ちなみに、才稀さんが「ハク」という名前にした経緯は
神代→かみしろ→しろ→白→ハク
です。
それと、クロトくん(玄人)の名前にくろ(黒)が入ってるので、対になってていいじゃん的なノリもあります。




