お兄様と秘密の夜
安心してください。エロくないです。
月も闇に隠れた深夜の侯爵家の室内。
聞こえるのは、可憐な乙女の許しを請うような願いと煽るような男の声だけ。
「あ…んっ…ダメぇ…もう…無理…痛いよぉ…」
「ほら、ダメじゃないでしょう?喋れるなんて、まだまだ余裕だ。顔をあげて、こっちを向いてごらん?」
「やぁ…お兄様…もう本当に…ダメ…」
「そんなに息遣いを荒くして…はしたない娘だ。仕方がないねぇ、じゃ、これで最後にしてあげる。ほら…いくよ…。」
乙女の懇願を無視し、男が更に言葉で煽りながら乙女の頬に手を滑らせ、乙女の瞳に自分を写させる。
その途端、乙女は苦痛を逃すよう強く目をつむり、パタリと毛足の長い絨毯に沈み込んだ。
「ん…もう、限界かぁ…残念…。」
未だ呼吸が整わず、荒い呼吸を繰り返す妹をみて、楽しそうに微笑んだ。
「…お兄様、私の気のせいでしょうか?本日の腕立て伏せのご指導中の言葉選びと行動、そして何よりもお兄様の表情がエロかったのですが。」
ゆっくりと酷使した腕をフルフルとマッサージしながら、お兄様に尋ねる。
うん、あれはワザとだ。
はしたない娘って何ですか?
お兄様の表情の方が色気ダダ漏れで、はしたないですわよ。
その色気分けてくださいませんか?
そう訴える。
「あはは。そう?何事も楽しくやりたいからね。普通にやってもつまらないでしょ?遊び心大事だよー。」
全然悪びれなく、お兄様は笑いながら答えるから。
からかわれてる様に感じで。
むぅっとしてると。
「ほら腕貸して」
と私の腕を優しくマッサージしてくれた。
からかったりするけど、やっぱりお兄様は優しい。
「ねぇ?何がお前をそんなに、追い詰めているんだい?」
先程までの声のトーンより一段低い声で尋ねてきた。
え?
「何をそんなにあせっているの?」
更に続けての質問は、確信的な意味合いで聞いているのだろう。
何のことです?
「お前とあいつは婚約者同士で、何もしなくても、卒業したら結婚するんだろ?」
それは…。
「たまにお前は不安そうな顔してるしさ」
…そんなこと…ない。そんな顔してない。
「…誰のせい?誰が、お前を、泣かせるの?」
…違う。誰のせいでもないの。私が悪いの。
私が、勝手に、不安がってるだけ。
私が勝手に臆病になってるだけ。
早く、早く私のものにしないと、取られちゃうって。
好きなのに、大好きなのに、取られちゃう。
そう、1人で勝手に思ってるだけなの。
「…そっか、それじゃ早いとこ、あいつを押し倒さないとな」
お兄様は苦笑しながら私の腕から手を離し、そのままポンポンと頭を撫でてくれた。
「そんな頑張っている妹に、良いものをあげよう!」
今までの雰囲気を壊す様に、明るい声で、「ちょっと待ってろ」と私の部屋を出て行った。
と、思ったら、直ぐ帰ってきた。
手に、ネコミミカチューシャを持って。
昨日さ、城下町に遊びに行ったら、目についてさー。
なんか今ケモミミブーム?らしくてさ。
色んなケモミミ売ってるんだよね。
で、お前、前に言ってたよな?
あいつの性癖尋ねてきた時。
侍女服着るとか、ケモミミ付けるとか、何とか。
お前の髪の色に合うネコミミ売ってたから買ってきてやったぞ。
付けてみろ。
お兄様がそっと髪にカチューシャを付けてくれた。
私の髪の色と同じ、銀色の猫の耳。
意外とキチンとした作りで、毛並みとかが、ちょっとリアル。
「似合います?」
お兄様が私の為に選んで買ってくれたもの。
似合うといいな。
えへっ。
「おぉ、生まれながらに耳が付いているようだ。高貴な猫の化身みたいだ。とっても可愛いぞ。それで迫れば、くらっとくるかもな。」
褒められた。
嬉しい。
「本当ですか?では、明日はこれで迫ってきます!」
「健闘を祈る!」
「YES!Sir!頑張ります!」
「あはは、期待してるよ。じゃ、おやすみ。良い夢を。」
そう言いながら、私の頬に軽くキスを落とし、おやすみの挨拶をしてお兄様は部屋を出て行った。
よし!お兄様の応援アイテムも手に入れたし、明日こそ頑張るぞ!!
※※※※※※※※※※
ドアの外に控えていた、妹の侍女と侍従を呼び止める。
ねぇ?最近あいつの周りで何かあったか、知ってる?
何か隠してるよね?
………。
ふぅん…手を出したくても出せない、ヘタレなあいつは兎も角、ヒロイン…ねぇ…どうしようかなぁ…。
あぁ、ありがと。
大丈夫、何もしないから…何も…ね。
安心していいよ。
お兄様の声は私の中では梅原さん。