可愛いと言ってくださいますか?
その日、学園に衝撃が走った。
騒ぎの原因は某侯爵令嬢。
お兄様から頂いた銀色のネコミミが嬉しくて、朝から装着していた為だ。
彼女はヒロインとは別のタイプの美少女だ。
月の光を集めたような銀色の髪。
つり目がちな瞳は神秘的なアメジスト色。
本人は気にしているが、男性から見れば庇護欲を駆り立てられる、華奢な身体。
そんな彼女が、ネコミミを付けてきた。
髪と同じ色のネコミミ。
まるで元からそこに存在していたようなネコミミ。
魔力と連動するのか、たまにピコピコと動いたりもする。
空調の効いた室内で、柔らかい日差しを浴びて、眠くなっているのか、目を細め、トロンとしている姿はまさに、日向ぼっこしている猫そのもので…。
萌える。
同じ空間にいる者の総意だった。
今ここに、彼女の大好きな婚約者様が居たら、誰にも見せず、触らせず、そのまま何処かに閉じ込めて、思う存分猫可愛がりする筈なのに。
残念ながら、彼はここに居なかった。
ここに居るのは、いつも遠巻きに、可愛いなぁ綺麗だなぁとあたたかく見守る節度ある学友と、度が過ぎた猫好きの、騎士志望の脳筋な攻略対象者のみ。
三度の飯より訓練が好きな攻略対象者が、更に大好きな子猫と中庭で遊んでいるのをヒロインが見つけ、一緒に可愛がるという、イベントが発生する。
そんな攻略対象者が、ネコミミをつけた侯爵令嬢を見た時の衝撃は、半端じゃなかった。
思わず、鼻血が吹き出すかと思った。
撫でまわしたくなる衝動を抑えるのが大変だった。
無意識に触ろうと伸ばす腕を、もう一本の手でおさえた。
あまりにも危険なので、その後、机に突っ伏し、なるべく見ないようにした。
逆効果だった。
より、妄想が膨らんだ。
なんだ?あのけしからんミミは。
俺を猫好きだと知って誘ってるのか?
此処は神聖なる学び舎だぞ。
試しているのか?俺の忍耐力を試しているのか?
宜しい、その挑戦を受けてやる。
俺はそんな誘いに乗らないぞ。
この時間、耐えてやる。
あぁ、耐えてみせるとも!
くそ!そんなに、無防備に日向ぼっこしながら、ミミをピコピコさせるんじゃない。
ツライ、可愛すぎでツライ。
触りたくてツライ。
後で中庭に行って、触らせてくれる本物の子猫に会いに行こう…。
…彼女も来ないかな…。
子猫と戯れる、ネコミミ付きの彼女…。
それを近くで見る俺。
いや、見るだけじゃ足りない。
俺の膝の上に、ネコミミの彼女。
その彼女の膝の上に、子猫。
なんだそれは、天国か。
パラダイスか。
…彼女、確か婚約者居たよな。
もし、もしだぞ?彼女の婚約者に決闘申し込んで、俺が勝てたら、彼女を手に入れる権利が…。
いやいや、そんな事出来るわけ無いし。
必死に煩悩を蹴散らした後、思わずちらっと彼女を見れば。
くはぁっと、小さく欠伸をして、目を擦っていた。
それがまた猫っぽくて…。
あぁ、可愛くてツライ。
ツライけど、見たい。
※※※※※※※※※※
講義終了後、ネコミミ彼女は、婚約者に会いに行き、問答無用で、ネコミミを没収されたそうだ。
マニアが見たら、危険だから人前ではやめなさい、と言われたらしい。
しょんぼりしながら、帰ってきた。
もう、あの姿は2度と見れないのだろうか?
俺はマニアではないが、もう一度見たい。
見て撫でまわしたい。
…今度、こっそりプレゼントしたら、装着してくれるだろうか?
婚約者様には言って貰えませんでした。




