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第20話 これからもよろしくね

 その日の夜、杏菜が枕を持って私の部屋に来た。

「柚葉、一緒に寝てもいいかな」

「うん、いいけど。珍しいね、杏菜から来るの」

 昔、私はよく杏菜の部屋に枕を持って行った。一人で寝るのが怖いことが何度もあって。


「あの頃、私も柚葉が来ると嬉しかったんだ」

「え?そうなの?」

「なんとなく、私から甘えられなくって、時々、今日も柚葉来てくれたらいいのにって待ってたよ」

「いつから杏菜は我慢するようになっちゃった?」


「いつからかなあ。わかんないけど、お母さんもおばさんやおばあちゃんも、私が良い子にしていると褒めてくれたし、さすがお姉さんねって言ってくれたから、最初は嬉しかったのかもしれない。それから、いつも良い子でいようって頑張って…。ほんのちょっとわがまま言ってみたこともあるけど、お母さんにあなたはお姉ちゃんなのにってがっかりされて…」


「お姉ちゃんも何も、双子じゃん。どっちが姉で妹かっていうのを決めること自体変なことだよね」

 そう言ってから、私も杏菜に全部任せて、何にも手伝いもしなたっかしわがまま言ってばっかりだったなあと思い返した。

「ごめん。杏菜。杏菜がしっかりしたのって、きっと私がわがままばっかり言って困らせていたからだよね」


「…わがままじゃなくって、柚葉はいつも本当のことを言ってただけだよ。ありのままでいる柚葉が羨ましかったもん。だから、きっと和真君も柚葉といると素になるんだよね」

「和真が?」

「私といても窮屈そうだもの」


 そうなのかな。

「ねえ、杏菜」

 ベッドに二人で寝転がり、天井を見ながら話しかけた。

「まだ一緒の部屋で寝ていた頃、楽しかったよね」

「うん」


「お母さんに絵本を読んでもらって、お母さんが部屋を出て行った後、絵本の続きを考えたり、ベッドにお絵かき帳を持ってきてお絵かきもした」

「二人で物語りも作ったね」

「うん。二人のお姫様がいて、悪い怪獣が来て二人でやっつけるの」


「くすくす。お姫様なのに強いんだよね」

「杏菜姫は、魔法が使えて」

「柚葉姫は、剣が得意で」

「そうそう」


「楽しかったね、毎晩二人で冒険に出た」

「お姫様なのにね?」

「うん」

 そんな話をしばらくした。そして、杏菜はぼそっと呟いた。


「ごめんね、柚葉。私、部長にふられちゃって、和真君と仲のいい柚葉が羨ましかったっていうのもあるの」

「え?」

「本当に私みたいに柚葉も和真君に振られちゃったら悲しいだろうなって思って、心配にはなったんだよ?でも、どっかで仲のいい二人が羨ましかったんだ。私も、大事に思ってもらえたらいいのになあってそう思ってた。でも、和真君にじゃなくってきっと、自分の好きな人に大事に思ってもらいたかったんだよね」


「それは誰だって憧れると思う」

「うん。そうだよね…。私はいっつも片思いだなあ」

「ええ?杏菜、もてるのに。何回もこくられたでしょ?」

「好きな人にはまだ一回も」


「部長の前にも好きな人いたの?」

「中学の時には、同級生の子。頭よくって、生徒会長してた」

「ああ、あの眼鏡の偏屈な人。ってごめん」

「ううん。いいの」


「でも、びっくり。あんな人が…じゃなくって、杏菜、そんなこと一言も言ってなかったよね」

「ひそか~~に思いを寄せていただけだから。でも、知らぬ間に彼女ができてて失恋した」

「わあ。そうなの?」

「ショックだったけど、部長ほどじゃ無かったかなあ」


「あの生徒会長のどこがよかったの?」

「え~~?頭よくて眼鏡姿がかっこよかったじゃない」

「……。ごめん、よくわなんないや」

「柚葉はずっと和真君一筋だもんね?」


 ドキ。

「何で知ってるの?」

「あれだけ仲良かったらわかるよ。お母さんが気づかないのがおかしいんだよ」

「……そ、そうかな。でも、付き合いだしたのは最近だよ?」

「よかったね。やっとこ思いが通じ合って」


「うん」

「遅すぎるくらいだよね?」

「う、そうかなあ」

「私も、次は絶対に私を好きになってくれる人を好きになる」

 杏菜はいきなりそう断言した。


「うん」

 うんとしか言えなかったけど、ちょっと強がりを言う杏菜が愛しく感じだ。


 まだ、幼かった頃、私たちはいつも二人でいた。何をするのも一緒だった。

 二人でよく留守番もした。杏菜がいるから寂しくなかった。でも、雷がなった時には二人で一緒に泣いたっけ。


 泣くのも笑うのも一緒だったのに、いつから杏奈ばかりが我慢するようになっちゃったんだろう。


 翌日、杏菜は私が起きたあと、ゆっくりと起きてきた。

「もう朝練もないから、のんびりしようと思って」

「うん、それがいいよ。じゃ、私行くね」

 慌しく私はお弁当を鞄に突込み、玄関を出た。


「柚葉、行ってきますくらい言いなさい」

 という母の声が玄関のドアの中から聞こえたが、無視してダッシュした。


 あ、和真だ。

 和真の背中に向かって、足が軽くなる。そして背中を叩く前に和真がこっちを向いた。

「いっつも叩かれている俺じゃないよ」

「なんでわかったの」


「あったりまえだろ。足音でわかる」

 きゃあ。そうなの?

「足音、聞き分けちゃうの?」

「バタバタ朝から走ってくるやつなんて、お前くらいだからな~~」


 むっ。仮にも自分の彼女に向かって何よ、その言い草。

「前髪全開。おでこ丸出しだけどいいの?」

「あ!」

 さささっと前髪をおろしてから、

「べ、別に和真におでこ見られたって」

と口を尖らせた。


「じゃあ、誰だったらおでこ見られるの嫌なわけ?」

「……。他の男子?」

「ははっ。何それ」

 むかっ。何よ、その言い草。


「どーせね。他の男子なんか、み~~んな杏菜にしか興味ないけどね」

「だね」

 だね?!肯定した?

「俺くらいだよね?柚葉のほうがいいっていうやつ」


 え?

 ドキン。


「だから、まあ、その。今のままでいいけど」

「え?」

「変に可愛くなったりしないでもいいけど。俺くらいだろ?そのまんまの柚葉がいいって言ってんの」

「ば、馬鹿にしてんの?」


「ちげ~~よ。こんなくそ恥ずかしいこと馬鹿にして言うかよ。あほ」

 こつんと頭を軽くこつかれた。でも、すぐそのあとなぜか撫でられた。

「いいんだよ、柚葉の良さを知ってるのは俺だけで。他のやつにあげる気もないし、他のやつに柚葉の良さをわからせるつもりもないし」


 ドキッ。どうしたんだ。いきなりの告白。


「だから、柚葉は杏菜と自分を比較しなくてもいい。どうせなんて言わなくてもいい。俺がわかってるから、それでいいだろ?」

「う、うん」

 キュン。なんだ?慰めてくれているわけ?


「そうだ。あのね、昨日和真が帰ってからね」

 私は学校に行くまでの間、杏菜が初めて怒ったことや、一緒に寝たことを話した。

「そっか。ずっと我慢していたわけか」

「うん」


「ふうん」

「……私と和真が仲いいのを羨ましがってた」

「でも、だからって、お前と同じみたいに仲良くなれないよ?俺は」

「え?うん。杏菜も好きな人に大事にされたいって言ってたし、和真と仲良くなりたいってわけじゃないと思う」


「…。そ、そうか。それって、俺が柚葉を大事にしているってことだよな?」

「え?そそそ、そうかな」

「そうかな、じゃないだろ。大事にしてるじゃん」

 きゃわ。

「そ、そうだね」


 真っ赤になって俯くと、隣で和真まで照れている。

「杏菜にもいいやつ現れたらいいよな」

「だよね」

 そんなことを言いつつ、二人で真っ赤になりながら昇降口にたどり着いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 なんか、柚葉のやつ、こっぱずかしいことを言い出したな。

 大事にしている。そりゃそうだろ。どう見たって丸わかりだろ。

 

 その辺をずっと、こいつだけが理解していなかったんじゃないのか。柚葉、疎そうだし。

 

 ずっとそばにいた。多分これからもずっと。こいつの隣には俺がいたいってそう思ってる。


「和真、今日も天気になったから、部活あるね?」

「おう」

「じゃあ、また放課後ね!」

「おう!またな」


 今日はなぜか柚葉のほうが先に階段を上って行った。その後姿を見ながら、スカートが翻り、ちょっと慌てた。他の男子だっているのにって。


 だけど、周りの男どもを見てみたら、だあれも柚葉のことに目を向けていなかった。

「う~~ん、複雑。いや、ここは安心するところか」

 他のやつに柚葉の良さを知られるのは癪だからな。


 教室に行くと、なにやら男子がざわついていた。

「あ!お前さ、知ってた?」

「何が?」

「南郷だよ。ふられたんだって?」


「え?俺ふってないけど」

「あほなこと言ってるなよ。サッカー部の部長にだよ」

 杏菜のほうか。紛らわしいな。

「で、サッカー部のマネージャーも辞めたって」


「そうみたいだな」

「まじで?わお。じゃあ、バスケ部のマネージャーになってくれないかな」

「いやいや。バレー部の」

「俺ら剣道部もマネージャーを一人募集してるんだよ!」

 そんなことをクラスの男子が言い争いし始めた。あほだなあ、なるわけないのに。


「ならないんじゃないの?」

 呆れながらそう言うと、

「なんで?」

とびっくりしたように聞いてきた。


「手芸部に入るって柚葉から聞いたけど」

「そうだった。お前、柚葉のほうと付き合ってるんだもんな。ちっ!おいしいところ持って行ったよな」

「は?」

「顔、一緒じゃん。ちょっとはねっ返りで、気が強そうだけど、可愛いもんな」

 ムカ!


「人の彼女にけちつけんなよ」

「褒めてるだろ?」

「はねっ返りなんかじゃねえよ」

「あちゃ~~。まじで、お前完全にまいってるんだなあ」


「はあ?」

「熱上げてるって噂聞いたけど、まじなんだ」

 なんだ?その噂!

「う、うるせえ!いいだろうが、別に」


「やっぱ、お前からアプローチしたわけ?」

「うっさい。うっさい」

 こいつら、完全に面白がってる。相手にするのはよそう。


 そのあと、さっさと席に着いて教科書やらを出し始めると、そこにポチがやってきて、俺の前の席に腰掛け、

「マネを辞めた杏菜ちゃん、いろんな部が狙ってるよ」

と囁くように言った。

「だから?」


「いや、別に。もてる子は大変なんだろうなって思ってさ」

「そうだな」

「ああいう子を射止めるのは、誰なんだろうね。そう思うとサッカー部の部長、惜しいことしたよね。今頃後悔していたりしてね」


「さあね。それよりポチ、自分のことはどうなの。タマと付き合わないの?」

「それだよ。俺ってどう思われていると思う?」

「さあ?タマって、本心見せないからわかんないな」

「だよねえ」

 はあっと深いため息をつくと、ポチは自分の席へととぼとぼと帰っていった。


 ポチにも、ふられて傷心の杏菜にも悪いが、俺は今ばら色なんだ。


 放課後、待ちに待ったほ放課後が来た。

 テニスコートにすっ飛んでいき、柚葉を待った。ポニーテールを揺らしながら、元気に柚葉は走ってきた。

「よう」

「おお!」


 元気に手を振ってそう答える。

「さ、今日も1年生、しごきますか?女子キャプテン」

「そうだね、男子キャプテン」

 そんな言葉を掛け合っていると、1年生から悲鳴が聞こえたが、俺らは高らかに笑い、まずは準備体操だ。


「1年、声出てないよ~~~!」

 でっかい声で柚葉が叫ぶ。今日も元気だよなあ。


 そんな元気な柚葉の隣で、俺も元気でいられる。明日も、明後日も、ずっと隣で笑顔でいられる。

「柚葉」

「え?」

「今日も一緒に帰ろうな?」


「うん!」

 頬をちょっと染めて、嬉しそうに柚葉が笑った。やっべ、幸せだ、俺。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 なんか、やけに機嫌がいいな。今日の和真。でも、元気な和真を見ているのは幸せだな。


 私の笑顔はもしかすると、和真のおかげかもしれない。元気でいられるのも、和真が隣にいてくれるからかもしれないなあ。


 なんつって!


 いろいろあったけど、これからも隣でよろしくね!

 帰り道、そう元気に言うと、和真もはにかみながら、「おう、こっちこそ」と言ってくれた。



                    ~おわり~

 


 





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