【終点】
気付くとそこは森の中だった。
柔らかな草むらに寝転がってさ。
まるで夢でも見てたみたいな心持ちだったね。
(あたし……一体、何してたんだっけ……?)
頭の中はぼんやりしてたよ。
寝覚めの悪かった朝みたいな気分。
そう実際、今は朝だ。
湿り気のある朝特有の空気。
そこここから自分を照らす木漏れ日。
少し落ち着いて大きく息を吸う。
冷たい空気が肺に満たされると自然、意識も少しばかりはっきりしてくる。するとふと、妙なことが気にかかった。
(あたし……あたしって……誰?)
まだ多少、頭にもやがかかったみたいな感覚があるのは確かさ。
そこは自覚してる。
でもそれにしては意識が不完全ながら覚醒しすぎてた。
浮かぶ疑問としては大きすぎる。
寝起きの瞬間でさえ、なかなかここまで大きな疑問は出ない。
そこで、とりあえず身を起こした。
上半身をまず起こす。
どうも感覚がずれる。
すでに起こしたはずの上半身に、重なってもうひとつ上半身が起き上がってくるみたいな意識のずれ。
地面に当てた手の感覚も思えば妙だ。
腕そのものはそれほどでもないが、指先はまるで常に震えてるみたいに感じる。
が、見たところで指先は震えちゃいない。
感覚。
そう、感覚だけがどうも噛み合わない。
まるで指先のひとつひとつが二股に分かれてるみたいに思える。
加えて件の疑問。
自分は誰なのか?
頭の中に霧でもかかっちまってるみたいに、記憶が思うように引き出せない。
小麦色と栗毛の中間のような綺麗な髪をかき乱してさ、頭を振るったり、いろいろしたけど、どうにもはっきりしない。
ふいに視界を巡らす。
淡緑色と深緑色。
右と左で違う色した目で辺りを見る。
森の景色はどこも似たようなものだが、見知った森なら、それでも分かる。
明らかに記憶にある森。
だが肝心の自分のことが思い出せない。
少しずつ意識が確かになってくると、
それは恐怖心に近くなってきた。
当たり前と言えばそれまでだ。
自分で自分が誰だか分からない。
これほど怖いことなんて、それほど多くは無いよ。
覚醒の度合いに合わせ、焦りと必死さが増す。
頭の中を引っ掻き回すみたいにして、なんとか自分の記憶を探る。
転瞬、
探し求めた答えにたどり着く。
同時に、心の中を圧倒的な恐怖が満たす。
未知の感覚と記憶に裏打ちされた凄まじい恐怖。
当然のことのように叫び声を上げた。
小さな森全体に響き渡るほどの絶叫。
叫びながら、樹々の間に覗く空を見上げ、
思う。
(あたしは……)
今度は涙が出てきた。
恐怖からじゃない。
かといって、喜びってことは絶対に無い。
理由も不可解な涙。
強いてあげるとすれば……そう、
混乱。狂気。希望。絶望。
そのどれも。
自分が何者かを知って抱く感情としてはとてつもなく複雑だ。
しかし複雑なのは感情よりむしろ自分の存在。
(あたしは……)
さあ、泣いてないで言いな。
だあれ、だあれ、あんたはだあれ。
だあれ、だあれ、お前はだあれ。
心の中の声が言う。
あたしは私で僕でお前。
フィリオとフィリア。
はて、
そいつは一体、
だあれ?




