【消去法】
シャミッソーの部屋で見つけた六枚の紙は、シャミッソーが文字で何かを残すタイプの人間だったことを証明している。
となると、この枚数はどうにもおかしい。
内容的にもあまりに雑だ。
インク壺のインクの減り方を見ても、多少の文字を書いた程度で減る量では無いし、机の中に替えの羽ペンが三本もあったところを見てもシャミッソーはもっと多くの何かを書き残してる。
すると考えられる可能性はひとつだけ。
どこかにシャミッソーの日記がある。
それがなぜシャミッソーの部屋でなく、他の場所にあるのかと考えた場合、シャミッソー本人が隠した可能性は低い。
自分で自分の書いたものを隠すとしても、普通は自分の部屋の中に限定して隠すものさ。
逆に、自分の部屋以外のところに隠した場合、手元に無い不安というのは書いた当人にとっては大きな不安要素になる。
見つかりやすいとか見つかりにくいとかいう理由以前に、こうしたものはどうしても自分の近くに隠したくなるのが人間の心理なんだよ。
となれば、隠した人間は絞られる。
アナトールかカゾット。
幸か不幸かって言うと、かなり難しい状況ではあるが、今、ふたりの部屋を探すのはかなり楽な状態ではある。
カゾットはあのありさま。アナトールはそんなカゾットにつきっきり。
動くなら今がベストだってのは明らかさね。
だから躊躇なく動いたよ。
まずカゾットの部屋へ。
ドアを開ける際に集中する時、ふと壊れちまったカゾットが頭をよぎっちまって、危うく今カゾットが寝てる部屋を開けちまいそうになったが、なんとかそのへんは調整した。
難しいもんだね。
誰だって、印象の強いものにイメージが寄っちまう。
特にシャミッソーの部屋と違って、まだ当人が健在で館の中にいると、どうしても当人のいる部屋へ頭が集中しちまうわけさ。
何かを具体的に、しかも正確にイメージするっていうのは、案外大変なもんなんだよ。
ま、ともあれだ。
苦労はしたが、フィリアは飲みこみが早い子だからね。
少し手間取ったが、目的の部屋へはすぐ向かえた。
(カゾットが普段使い、今はいない部屋)
口で言う以上に複雑なイメージに神経を集中させ、たどり着いたよ。
これまたシャミッソーの部屋と同じく、シンプルな部屋さ。
大きな違いは、特にぞっとするようなものが無いってところかね。
正方形の部屋にベッドがひとつ。
机と椅子がひとつずつ。
特別なものは特にない。
ただ……そうさね。
唯一、変わったものといえば、部屋の隅に姿見の大きな鏡が置いてあったことくらいさ。
それが裏返しに置いてある。
奇妙といえば奇妙だが、なんとも微妙だね。
わざわざ鏡のある部屋を選んでおいて、その鏡を裏返してあるってのは、カゾットのどういう心理からきた行動だか分からないって部分だけはまあ、考えようによってはちょっと不気味かもしれない。
でもそんなもんだよ。
あとはいたって普通。
というわけで、シャミッソーの部屋の時と同様、探すべき場所を淡々と探した。
ベッドと机。
しかし残念。どうやらカゾットの部屋は空振りだったよ。
まず筆記具が一切無かったし、日記はおろか、紙一枚すら置いてなかった。
だが別に落胆することでもない。
こいつは単に消去法さ。
次で決まるってだけのこと。
そう、アナトール。
ハナから彼が本命だったけどね。
可能性をひとつずつ確認していくうえで、ひとまずカゾットの部屋も調べただけさ。
さあ、秘密主義のアナトールの部屋へいざ行かん。
いや、秘密主義こじらせて重要な品物を秘匿する心神耗弱者と言ったほうが正しいかい?
なんにせよ手間は次で最後だ。
せいぜい頑張りなよフィリア。
朝まではまだ間があるよ。




