表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
figlio figlia  作者: 花街ナズナ
PR
52/74

【無用の事実】

アナトールとフィリアがなにせびっくりしたのは、フィリオが自分でドアを開けて戻ってきたことだった。

これは二重の意味で驚くべきことだったからね。

ふたりの驚愕したさまは当然だったよ。

まず第一、フィリオの性格上、約束事を破らない……というより破れない性格ってこと。

そして第二、これまたフィリオの性格上、好奇心よりも恐怖心が先行する性格ゆえにこうした危ない真似はするはずがないってこと。

そのふたつの固定観念を見事に裏切り、フィリオはひとりで戻ってきた。

理屈自体は単純さ。

アナトールやフィリア……特にフィリアの持ってるフィリオに対する認識がそろそろ古くなってきたってことだよ。

環境が人を作るなんて言葉があるが、考え方によっちゃあ環境が人の新たな面を目覚めさせるとも言える。

フィリオが前者だったか、後者だったかについては内面的な動きだけに答えは出せやしないが、少なくともフィリオの精神にどうやら面白い変化が出たってことは確かさ。

その証拠ってわけでもないかもしれないが、この時のフィリオは普段とは打って変わってえらく雄弁だったよ。

「アナトールさん、ドアを勝手に開けたのはごめんなさい。でも僕もそろそろ自分でドアくらい開けられるようにならないとと思ったし、なによりカゾットさんのことを考えたら部屋は僕が自分で出るほうがいいだろうと思ったから、いけないとは思ったけど、自分で戻ってきました」

すらっと言ってのけた。

自己弁護の印象を感じるような、後ろ暗さは微塵も無い、はっきりとした意思の言葉さ。

それだけに、驚きが先立ってたことを差し引いても、アナトールはフィリオへ与えるべき言葉を考えるのに苦労したよ。

反省はすでに十分してる。

しかも確固たる理由と意思をもってした行動だ。

元から怒る気はさらさらなかったが、注意はすべき状況さね。

だが、注意が必要かといえば、これもまた疑問だよ。

どう見たってフィリオはすべてを自覚しておこなってる。

この上、かける言葉なんてそう多くは無いってのが正直なところさ。

だから自然、最低限の言葉だけでアナトールは済ませることにした。

「そうか……君の言い分ももっともだ。だが出来れば練習を申し出てからにしてもらえるとありがたかった。次には機会を見て私と一緒に練習しておくれ。万が一の事故が何よりも怖いんだ。それさえ分かってくれているなら、これ以上はうるさいことを言わないよ」

アナトールの言葉を聞き終えると、フィリオは深く頭を下げ、黙ってテーブルに戻った。

いよいよもってアナトールもフィリアも、フィリオの異変に困惑気味だよ。

しかしすぐにこの奇妙な空気はフィリアが切り崩した。

ひとつ、わざとらしい咳払いをすると、これまたわざとらしくアナトールへ前々から思ってた疑問を問うてみたね。

「あのー、アナトールさん? 前からちょっと気になってたんですけど、私たちが始めてこの館に来た時、(またお客人かな)って言ってたじゃないですか。それってつまり私たちよりも前に何人か子供たちが来てたってことですよね? じゃあその子たちって一体、今どこに……」

フィリアの質問に、アナトールの表情が曇るより早く、

フィリアの質問が最後まで語られるより早く、

席についたフィリオは、

「お姉ちゃん。知らなくてもいいことはたくさんある。聞かなくてもいい質問もたくさんある。それは知らなくていいこと。聞かなくていいこと。僕らには必要ないことだよ」

普段からは想像もつかない、断固とした口調で一息に言い切った。

アナトールは再び驚いた様子でフィリオを見つめる。

フィリアもまた、驚いた様子でフィリオを見つめる。

当のフィリオは……ああ、

不思議なほど落ち着いた顔して、冷めたミルクをすすってたよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ