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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【躊躇】

分かりづらいとまずいからね。

ちょいとまとめておこうか。

(森へお入り子供たち)はご存じの通り、フィリオとフィリアが小さいころからよく聞かされていた子守唄。

(口無しの獣)はアナトールのいた村に伝わる、同じく子守唄。

(銀の乙女)はカゾットのいた村に伝わる童歌のひとつ。

何やら目隠し鬼のような遊びの時に歌う歌だったらしい。

(あなたはだあれ)はアナトールとカゾットがシャミッソーから教えてもらった歌。

どういった時に歌われていたかっていう、細かなことは聞きそびれて分からない。

さて、これらの歌をすべて総合すると、

なるほど、館での出来事と符合する点は多い。

ま、同時に訳の分からない部分も山ほどあるがね。

特にまだ館についての情報が少ないフィリオとフィリアは頭ん中がぐちゃぐちゃさ。

そんなふたりの様子を気にかけてかどうかはちと分からないが、これまた意外なことに、アナトールがまったくもって柄にもない提案してきたよ。

「なるほど……歌に関してはとても興味深い。だが、私とカゾットは意味が分かるとしてフィリオとフィリアには分からない部分も多々ありそうだね。どうだろう、ふたりとも。さっき言った(館の腹)、なんならこれから見に行ってみるかい?」

この提案にフィリオとフィリアはちょいと尻込みしたってのは、まあすぐ想像がつくだろうと思うが、実は一番この提案に対して驚きと嫌悪感を露わにしたのはカゾットだった。

そりゃあもう、すごい反応さ。

アナトールの言葉が出尽くす前には、もうカゾットの全身から、逆鱗に触れちまった時とおんなじ空気が漂ってたからね。

だが、アナトールはそんなカゾットの反応をまるで無視するみたいに、さっさとドアまで近づいてゆくと、すっと取っ手へ手を伸ばした。

瞬間、

おっかないほど急な動きでカゾットはドアまで近づいたと思ったら、取っ手に手をかけたアナトールの手首をがっしり掴み、地の底から響いてくるみたいなおっかない声でアナトールへ問うたよ。

「……一体、なんのつもりだ? アナトール……」

昨晩の険悪なムード再びさ。

ただし今回は、昨日以上にカゾットの怒りの理由が分からなかったがね。

すると、アナトールはことさら冷たく言い放った。

「隠し事は御免だ。そう言ったのは君じゃなかったのか? カゾット。私ももう、秘密を抱えて生活するのに疲れた。それだけだよ」

「都合のいい言い訳を……どうせ、私への当てつけに(あれ)を見せる気だろう。魂胆が見え見えなんだよ!」

ここまで来るともうカゾットの声は半分怒鳴り声になってたよ。

問題は、何故にそこまで怒ってるかが、フィリオとフィリアにゃこれっぱかりも理解できなかったってことさ。

まさにどこに逆鱗があるか分からない。

カゾットに対するふたりの認識は固まる一方だ。

(触れるな危険)。

どこぞにありそうな注意書きが必要だね。

でもまあ、唯一の救いはアナトールとカゾットの口論がそれほど長引かなかったことさ。

最後まであきらめが悪かったアナトールと違って、カゾットはその点で少々違ってた。

「……いいだろう、見せたきゃ見せろ。実際、ふたりには(あれ)を見る権利がある。それに、あそこを見ずにこれからの判断をするのは危険だ。私と同じ間違いはふたりにはさせたくないからね。しかし……」

「しかし、なんだ? カゾット」

「私のこのふざけた(変化)の答えも聞かせてもらう。それが条件だ。ふたりに(あれ)を見せるなら、ある意味で当事者の私に説明をするのが筋だろう。違うかアナトール」

妥協点の提示。

加えて、ひとつの念押しといったところだね。

それに対するアナトールの返答を聞いて後は、もう静かなもんだったよ。

「分かった。どのみちすべて話すと約束していたからな。君のことについてもきちんと説明する。ただしひとつ断っておくが、話せるのは私の知っている範囲のことだけだ。それ以上についてはどんなに言われても答えるのは不可能だってことは納得しておいてくれ」

一瞬、間を置いてからカゾットはゆっくりとうなずいた。

それでも懸念を言えばこのあとのカゾットはずっと腕組んだまま、険悪な雰囲気漂わせて、終始無言だったことかね。

理屈で納得して、感情で納得してない人間がよくする態度さ。

「さて……勝手に私たちだけで話を進めてしまったが、選ぶのは君らだ。フィリオ、フィリア、せっつくようですまないが(館の腹)、見るか見ないか決めてもらえるかな?」

迷いが無いと言ったらウソだろうね。

知る度胸が果たしてあるかと問われれば、これはもう疑問だとしか言えないさ。

しかしこいつが知らずに済ませられるようなことじゃないのも分かりきってる。

厳しいもんだね。

選択肢があるように見えて、実際は無いのと一緒なんだから。

例えばこれがフィリオかフィリア、どちらか一方だけなら見ないって選択もあるだろう。

でもそうじゃない。

ふたりなんだよ。

フィリオとフィリアはお互いにお互いの運命を決めなきゃならない。

つまり(見ない)って選択肢は、元から無いのさ。

アナトールは決めてくれって言ったけど、そりゃ単なる方便だ。

苦しんで死ぬ毒と、苦しまずに死ぬ毒、どちらを飲むかって聞いてるのとおんなじさね。

ああ、ご想像通りだよ。

最後はひどく時間はかかったが、フィリオもフィリアも、震えながらうなずいた。

どんなに恐ろしい現実が待っていようと、どんなにつらい現実が待っていようと、結局はただ知らずに過ごせやしない。

知る苦しみを選ぶしかない。

どのみち、館からはひとりしか出られないんだ。

ふたりが揃ってうなずく姿を見て、アナトールもまた、ゆっくりとうなずいた。

そして手をかけたドアを開けたよ。

どちらが残り、どちらが出るか、決めさせるために。

この選択肢はさらに残酷さ。

苦しんで死ぬ毒と、同じく苦しんで死ぬ毒。

どちらを飲むかを決めろって言ってるんだからね。


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