【気遣いの差異】
「……大体からしてアナトールは秘密主義が過ぎるんだよ。いや、気持ちは分からなかないけどさ。あいつなりに気を遣ってるんだろう。全部自分ひとりでしょい込んで、それで済めばと勝手に思ってる。だが、やられるほうは最悪さ。そりゃ知らずに済むなら最後まで知らずに済ませたいが、あいつときたらどう考えても最終的には知らなきゃいけないもんまで隠しちまう。いっぺん、あいつにも知らないってつらさを味あわせてやりたいね」
フィリオと一緒に浴室へ入ったカゾットは、脱衣所から風呂場へ向かってずっとアナトールの愚痴を言ってた。
壁越しにずっとね。
普通に考えたら、他人の愚痴をずっと聞かされながら風呂に入るなんて最悪だろうさ。
だがね、
フィリオはうれしかったんだ。
そうそう口をきかないうえ、やたらと臆病な子ではあるけど、決して頭の悪い子じゃあないんだよフィリオは。
カゾットがさ、なんで浴室に入ってからというもの、継ぎ目なくいつまでも話し続けてるのか。
フィリオはちゃんと分かってた。
怖がらせないためさ。
壁に隠れてても、ずっとここにいるよって、ちゃんと分かるように、アナトールへの愚痴を言うふりして呼びかけ続けてたんだよ。
おかげでフィリオは安心して湯に浸かっていられた。
ほんと、奇妙なもんだよ。
実はこいつもちょいと内緒だがね。フィリオも浴室に入った途端、フィリアとおんなじ欲求に迫られてたんだ。
ドアが閉まるなりフィリオは握ってたカゾットの手を引っ張って、切羽詰まった顔してこう言ったよ。
「……カゾットさん……ごめんなさい、トイレ……」
この時のカゾットときたら、もう笑うの通り越してむせてたよ。
腹抱えて笑いながらゲホゲホ咳してさ。
それでも、ちゃんとトイレにゃ連れてった。
もちろん、一緒に連れだってね。
確かにデリカシーって点で見るなら、カゾットはお世辞にも品のいい奴じゃない。
しかしね。
実際の気遣いってのはそういううわべだけで判断できるもんじゃないんだよ。
だからこそ、好き嫌いは分かれる。
前にも言った通りさね。
フィリアはアナトールの厳しくも温かい態度がより好ましいと感じてる。
だが、フィリオは態度うんぬんは置いといて、カゾットのより細やかな優しさが好き。
面白いもんだよ。
人の好みってのはさ。




