【頼みごと】
「……どうした? なんでふたりともこんなところに?」
混乱した感情ってのはまさにこういうのを言うんだろうね。
アナトールとシャミッソー以外の人間が自分のところへ来たっていう、予想外のことに対する驚き。
まだ完全には拭えていない、今朝のフィリアに対する苛立ち。
さらに、不意を突かれたせいで見られたくなかった姿を見られた戸惑い。
特に、二つ目と三つ目に関しては、カゾットにとっちゃあ大問題だったってことに、フィリオとフィリアは後になってから知ることになるがね。
あ、付け加えるならフィリオとフィリアもカゾットに負けず劣らずの混乱ぶりだったよ。
「あの、カゾットさん……今朝はごめんなさい……」
今しがた見たカゾットの素顔に、ぼんやりしちまった頭をどうにか叩き起こしてさ、フィリアはなんとか返事らしきものを返した。
ま、正直なところ、今のフィリアにゃこれが限界だったろうね。
なにせびっくりするほど頭が動かないんだ。
フィリオに至っちゃ完全に絶句したまま突っ立ってたから、そこから考えれば、言葉を返せただけ立派なもんだがね。
「あー……いや、悪いのはこっちだよ。すまないね。変な気を使わせちまったらしい」
心にもないことを口にして続ける会話ってのは、お互いにきついよ。
嘘ってわけじゃないが、実際とは別の考えを無理に絞り出して会話の体を取るんだから。
となると自然、ある程度のとこまで話が進むと、ぷっつり話が途切れるか、もしくは本音が出るか。どちらかになる。
で、結果としては運良く後者になった。
素顔を見られて観念したのかもしれないが、急に今朝の事情を話し始めたよ。
「私はね、あまり人に触れられるのが好きじゃないんだよ。それでどうにも、大人げない怒り方をしちまった。嫌な思いさせたろ。すまなかったね」
首を傾げて苦笑いするカゾットの様子は、もう昨日までのそれに戻ってた。
そのせいかね。フィリオとフィリアはそれ以上、細かい話には触れないことにしたよ。
今朝のことから察しても正直、ふたりにはカゾットの逆鱗がどこにあるのかいまいち分からなかったのさ。
となると、出来るだけ慎重にかかわる必要があるだろう?
言い方は悪いが、腫れ物に触るようなもんだよ。
とはいえそれとは別にカゾットには頼みがあるから、話を切り上げるわけにもいかない。
さあ、フィリアの苦しいお話の時間が始まるよ。
フィリオはハナから当てにゃならないからね。
交渉はフィリアの腕次第さ。
まったく、年長者のつらさってやつだよ。
どこまでも苦労が絶えないね。




