私の答え見せてあげます
トゥインクルがうっちゃるようにして投げ飛ばした巨大な岩の塊は、はるか遠くの沖合へと飛んだ。
そして、岩の塊が海へと落ち、その波がおよぼす大音と衝撃に、
「わっ」
「うっ」
交戦中のサンシャインとムーンライト、沙門たちが動きを止める。
押し寄せる波は程なくしてみなとみらくるの岸辺を襲い、その水煙を伴う強い飛沫を浴びた彼が、
「庚渡さん。君は、なんて子だ」
胸がすくほど豪快に苦境を打破した、黄色いドレスをまとうトゥインクルの勇姿に感心しながら惚れ直した。
しかし、トゥインクルはともすればビル程もある巨大な岩の塊を投げ飛ばした。その疲労は著しく、急場をしのいだこともあって膝を突いて肩を落としてしまう。
戦いは終わっていない。蛇の牙のように鋭い爪を立てる、蛇遣座を宿した沙門、
「この女ぁ!」
「きゃあっ!」
左咲佐奈子が怒りと共に右手を振り上げ、トゥインクルの顔を爪で引っ掻いた。
倒れたトゥインクル。爪による傷がトゥインクルの顔を黒く侵すが、直ぐ元通りに復元し、この結果に佐奈子が動揺する。
まるで聖なる加護に守られているかのようなトゥインクルの顔。その加護とは、間違いなく彼が先に告げたトゥインクルへの想い。この愛し合う彼とトゥインクルの絆が佐奈子には認められなくて、
「このおっ! なぜ、なぜ醜くならない!」
トゥインクルの顔を再び引っ掻こうとするが、体を起こしたトゥインクルがその手を止めた。
せめぎ合うトゥインクルと佐奈子。爪を立てようとする佐奈子の右手を、トゥインクルが押しとどめている。
トゥインクルが佐奈子の手を止めながら立ち上がり、
「負けない……」
静かに、据わった声でつぶやく。
「なにぃ!?」
「あなただけには、絶対に負けない!」
声を荒げた佐奈子にトゥインクルが言い切った。
トゥインクルは佐奈子の彼への想いを分かっている。だから「負けない」と、彼を渡さない確固たる意志を佐奈子に突き通した。
だが、既に疲労の著しいトゥインクル。押しとどめる力も長くはもたず、
「このおっ!」
「あぅっ!」
佐奈子が力で右腕を振り切ってトゥインクルを押し倒す。
「庚渡さん!」
大蛇に拘束されている彼が尻もちをついたトゥインクルを心配する。だが、
「鈴鬼くん! 見てて! 私、この人だけには絶対に負けない!」
すかさず立ったトゥインクルが彼に静観を頼んだ。
トゥインクルが口を引き締めて対抗心を露わに佐奈子を見上げる。そんなトゥインクルを佐奈子は歯をむき出しにして害意を隠すことなく見下ろしている。
だが、怒れる心とは裏腹に佐奈子は無理押しをしなかった。病による攻撃を諦めた佐奈子が、
「こうなったら!」
開いた両手を前に突き出し、その両手から四頭の大蛇を放つ。
大蛇四頭がトゥインクルに襲い掛かる。うち一頭の牙をむく大蛇をかわしたトゥインクルだが、大蛇はそれぞれがかわすトゥインクルを追い詰めるように迫る。
避けるトゥインクルに次々と飛び掛かる大蛇四頭の波状攻撃。この手数をトゥインクルは捌き切れず、
「あっ」
一頭の大蛇が、トゥインクルの右足に絡み付いたのを皮切りに、
「うっ、ううっ」
慌てるトゥインクルの左足と両手に他三頭が巻き付いた。
両手両足を捕らえられたトゥインクル。これに佐奈子が散開を大蛇四頭に命じ、トゥインクルの体を大の字に引っ張る。
引っ張られる痛みにトゥインクルが苦しむ。佐奈子は大蛇四頭にトゥインクルの四肢を牽引させることで、憎き女を牛裂きの刑の如くバラバラに千切ろうと目論んでいる。
「負けない……」
「一つ覚えの決まり文句!」
歯を食いしばって手足に力を込めるトゥインクルだが、佐奈子の使役する大蛇からは逃れられなかった。
肉の繊維がブツリと切れ、骨のきしむ音が体内から鳴る。このまま引っ張られ続ければ、佐奈子の目論見どおりトゥインクルは四肢が裂けて絶命した。
苦悶の表情を浮かべるトゥインクルに佐奈子が嗤う。しかし、ここで佐奈子がしくじってしまう。
「庚渡さん!」
「あっ、コシロウ!」
トゥインクルに集中するあまり彼の拘束を弱めてしまっており、拘束から抜け出して走る彼の姿に佐奈子が声を上げた。
彼が苦しむトゥインクルに駆け寄る。
「庚渡さん、しっかりして! いま助けるから!」
彼が大蛇の一頭に指をかけ、トゥインクルから剥がそうとする。
力を込めて大蛇を引っ張る彼。だが、どれだけ力を込めても離せない。それもそのはず、覚醒した佐奈子の力は彼を上回っている。
しかし、諦めるわけにはいかない彼。好きな子が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。何としてでも助けようと力む彼にトゥインクルが、
「鈴鬼くん……」
「庚渡さん!」
「キス、して……」
「……え?」
静観を望んだ前言を撤回し、いま頼むべきではない非常にトンチキなことを彼にせがんだ。
当然、困惑する彼。
「キ、キスって……」
「お願い! キスしてくれなきゃ私死んじゃう!」
「え、ええ……」
キス。言うまでもなく唇を合わせる行為だ。男と女なら愛の契りである。
彼とトゥインクルは互いが好きであるものの交際はしていない。と言うか今日再会を果たした。付き合ってもないのにキスしてもいいのか、などとドギマギする初心な彼だが、そんな色ボケた予断は許さぬ状況にあった。
彼が後ろを見やると、佐奈子が蛇を放とうとしている。捕まったらもう助けられない。それに、好きな子とのキスである。願ってもない話ではあった。
断る理由がない彼が覚悟を決め、
「わ、分かった! すっ、す、するよ?」
「うん……ん」
半ば自棄で震える唇を突き出し、彼とトゥインクルが唇を合わせる。すると、
「うわあっ!」
途端にトゥインクルの足元から、天を貫かんばかりのまぶしい光が上がり、これに彼が仰天して尻をついた。
間もなくして光の柱が消え、彼が呆気にとられながらもそこを望んでいると、
「庚渡さん!」
手足が解放されたトゥインクルが現れ、この姿に彼が歓喜した。
しかし、怒り心頭の佐奈子。男とキスをし、それを契機に己が力を破られる非常識に激怒している。
佐奈子は彼が憎い女とキスをした場面をまざまざと見せつけられた。そのストレスは憤死してしまいそうな程に酷く、
「この女ぁ! よくも私のコシロウをぉ!」
トゥインクルに襲い掛かる佐奈子だが、
「鈴鬼くん! 私の答え、見せてあげる!」
対するトゥインクルは、実に生き生きとした顔で彼に勝利を宣言してから両手を突き出し、
「生きてるって感じ! いっけぇ! 〝トゥインクルラブブラスト〟!」
その両手から全てを照らす真っ白な光を放った。
まばゆき光が佐奈子を呑み込む。そうして佐奈子が声を上げる間もなく倒れた。




