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楽しい遠足の計画(誇張度-100%)

 さて、この気まずい状況を一度整理してみよう。

 重い荷物に苦戦しながらも、ようやく着いた集合場所。そこで知ったのは、遠足とは名ばかりの行軍演習だったこと。実技試験も物騒だったから、これには驚かなかった。問題は二班を一組として活動させることだった。組は学校側で決めた様で、一方的に発表された。その組こそが問題で、お嬢様の班と五月女の班が合流したものだったのだ。

 そして今は行軍の場所やルートが組によって違うとかで、俺達は六頭立ての馬車に組員全員が乗って移動中なのだ。本当はここで行軍の詳細なルートや役割分担を決めないといけないのだが……。

「……」

「……」

「……」

 当然の沈黙。はっきり言ってギスギスしすぎている。それでも、俺にとっては普通科のみで構成される組よりはマシかもしれない。彼らは馬車に乗らずに荷物を背負って百キロ行軍とかしているらしいので、重い荷物を背負わされている俺には無理。もっとも、馬車組は戦闘を想定しているらしいので、普通科の生徒にとっては歩きの方がいいらしい。


 口火を切ったのは五月女であった。

「黙ってないで、そろそろ仕切ったらどうですか? 組長さん」

 なんでも、実技試験の点数に応じて組長が割り振られているらしい。当然、先にダンジョンを踏破して、五月女の謝罪を獲得したお嬢様の方が順位は上であろう。

「そうですわね。使用人に仕切られるのは気に入りませんが、実戦では組み合わせや上官を選べないのと同じですから、仕方がありませんわ」

 他にも使用人が居るらしい。しかし、馬車内を見渡しても見知った顔はなし。たしか、お嬢様は第二位の組だったはず。第一位の組には俺も参加していたから、面子は知っている。リチャード様と安寿と俺だったな。ん? 使用人って俺のことか⁉


 いやいや、俺が仕切るとか無理だろ。学級会すら仕切れない自信がありますよ。鉱山の時みたいに松尾さんが助けてくれないかなぁ。

「だけど、リーダーじゃなかったのに、二位、三位の組のリーダーよりも点数が良かったなんて、タイムだけじゃなくて活躍点も高かったんだね」

 五月女が褒めるが、その所為でこの面倒事です。矢印の指示に従っただけで、実力があるわけではない分、余計に辛い。

「ああっ! 彼が噂の最速のぷにゅ?」

 ポニーテールの少女が横の五月女に聞きはじめた。無言で頷く五月女。いつの間にか凄いあだ名を付けられていた。俺はぷにゅではありません。

「ぷにゅに殺されかけたと話題になったと思ったら、実技試験ではリチャード様が大絶賛するほどの活躍で、歴代最速記録でダンジョンを突破したんでしょ? どんな人か気になってたんだ。あっ! あたしはね----」

「少し黙りなさい」

 自己紹介をしようとした少女をお嬢様が遮った。

「無駄話は行軍計画を策定してからにしてくださらないかしら?」

 そして俺を見るお嬢様。もしかして馬車内が静かだったのって、俺の所為? 俺が仕切らずにオロオロしていたからみんな無言だったの?

 こういう時はどうすればいいんだろう? 計画の策定って言われても意味がわからないし、丸投げしたいな。いや、その前に自己紹介をするのか。自己紹介とかというイベント自体、ポニテ少女がやろうとするまではすっかり頭から抜け落ちていた。考えてみれば、知らない人ばっかりだしね。

「えっと、じゃあ、とりあえず自己紹介から。俺は馬野骨造って言います。組長になっていたようです。右も左もわかりませんが、皆さまよろしくお願いします」

 冷静に考えると、本名は違うし、右とか左とかに関しては例の能力で解るのだから、嘘ばっかりの自己紹介である。

 俺に続いてお嬢様や五月女、お嬢様の取り巻きっぽい例の亀島、栗林と順に名乗って行く。どうやら暗黙の了解で実技試験の成績順のようだ。先ほどのポニーテールはマリーという名の特別科の生徒だったらしい。残りの二生徒は工藤と源という名で、普通科の生徒だという。


「それでは、計画の策定に入りますが、何か意見はありませんか?」

 俺に意見は無いのだから他の人に頼もう。意見を言わずに周りに言わせるスタイルである。考えを表明できないだけなのだが。

「そうですわね。組長を除く、わたくしの班の三名で目的地である山頂まで強行軍。組長と五月女さんの班は、わたくし達の帰りを麓で待っているのはどうかしら?」

 流石はお嬢様。素晴らしい。大賛成です。お茶を用意してお待ちしております。

「そんなの駄目だよ! こういうのは組としてやらないと」

 五月女さん……余計な事は言わないでください。

「普通科の人達をボク達で護りながら行軍するんだよ」

「行軍速度が落ちるだけですわ。合理的判断をするのも訓練の一環ではございませんこと?」

 お嬢様の取り巻きが異論はなしと頷く。だが、五月女はそんなことはお構いなしと反論を加える。

「お言葉を返すようだけど、竜安寺さんの案だとここの吊り橋を落とされたら大減点だもん」

 五月女は地図を広げると、一か所を指さす。それに対してお嬢様は仕方がないといった口調で応じる。

「そうですわね。それではマリーさんをお借りして、そこを押さえておいて頂きましょう」

「戦力を三つに分けるなんて駄目だよ。それだけで減点だって」

 五月女の言い分が正しいのだろうが、三十キロを背負って山登りなんて勘弁してください。俺はお嬢様を断固支持だな。

「それでは、あなたは普通科の方々を護りながら、後ろからのんびり登山。マリーさんには中継の連絡係りをお願いする形でどうかしら? 皆さんはわたくしたちが帰ってくるまで吊り橋ポイントで待機してれば防衛にもなりますでしょ」

「そんなこと言って、竜安寺さん達はマリーが追いつけない速度で行軍するつもりじゃないか! 実質は戦力を三つに分けてるし、部隊が分断されるのは危険だよ」

「頑張って追いつけばよろしいじゃないですか。道中のモンスターはわたくしたちが倒しているでしょうから、追いかけるだけですわよ」

 実力不足を咎められていると感じたのか、ポニーテールの少女が気まずそうに(うつむ)いている。俺の方が足手まといなのに。

「馬野クン! ボクの方が正しいよね? 組長なんだから、使用人とか関係なく、いいと思った方を採用してよ」

「ええ、関係ありませんことよ」

 決定を迫る二人。お嬢様の不敵な笑みが怖いです。

「そ、それじゃあ……お嬢、竜安寺さんの案で」

 関係ないと言われても、やっぱり俺は使用人だし。なにより、三十キロを背負って山登りなんてしたくない。ってか出来ない。それならば、少しでも歩かなくて済みそうなのを選びたい。

 五月女に悔しそうに睨まれたが、俺の気持ちも察してくださいとしか言いようがない。そして馬車内に響く例の高笑い。少なくとも、俺は五月女さんの心情は理解できていますよ?

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