数字が出るから敵の多い日も安心
結論から言おう。三十キロを背負っての山登りは無理でした。
先行組であるお嬢様が決めたルートが傾斜の酷い獣道だったのもあるが、そもそも俺には無理な重量だったのだ。そして今、その荷物は五月女が担いでいる。
「なんだか嵩張るけど、なにが入っているんだい?」
その足取りは軽かった。
「お嬢様用の机とか椅子とか昼食用の食糧とか……」
「ええっ⁉ 竜安寺さんたちはお昼までには山を下りる気なんだし、馬車に置いてくれば良かったのに!」
そんな手があるなんて知らなかった。大袈裟な荷物を誰か注意してくれても良さそうなものなのに……異世界ってば冷たい。いや、みんなの荷物が少ない事に気が付けなかった俺も問題だけどさ。
武力:28
武力:37
「あ、そこの繁みになにか居る」
「はいよ」
俺の示した場所に五月女が寄ると犬っぽいのが二匹飛び出る。五月女は三十キロの荷物を担いでいるとは思えないフットワークでパンチを繰り出す。次の瞬間にはモンスターは紙切れに変わっていた。実物と違って死体が出ないのはいいね。
「馬野クンの感覚って随分と鋭いんだね~」
五月女は感心しているが、感覚じゃないんだな、これが。同行している普通科の二人も同意するように頷いている。うん、勘の鋭い人ってことにしておこう。
「そろそろマリーとの合流地点だけど、思ったより早くつけたね」
「馬野君がモンスターとか罠を次々と見つけてくれましたからね」
五月女に工藤が同意する。残念ながら俺が見つけたのではなく、数字とか矢印が勝手に出ただけなのだよ。
「後詰めにも結構モンスターが襲ってくるはずだから警戒してたんだけど、馬野クンの感覚がここまで鋭いって知ってれば他の作戦もあったかもね」
五月女は嬉しそうに言うが、あんまり酷使されたくないんだよなぁ。
とはいえモンスターを報告せずに黙っているとかは出来ない。だって怪我でもされたら……ねぇ?
「あ、マリーが居るよ!」
俺が葛藤に陥っている間に例の吊り橋に着いたようで、五月女がポニーテールの少女に手を振っていた。
「それじゃあ、ごめんだけどマリーは吊り橋の向こう岸で待機してて。ボク達はこっちで待機してるから」
「連絡係りってことだから、一応は先行してないといけないんだよねぇ。連絡をする気も受ける気もない癖にさ」
ポニーテールは悪態をつくと、六十メートルはあろう吊り橋の上を走って行った。
「ここら辺にモンスターとか罠はありそう?」
「ない……と思う」
少なくとも数字とか矢印は出ていない。
「良かった~。本当のことを言うとね、人に言わせるとボクは戦いは上手らしいんだけど、戦うこと自体がキライなんだよね」
五月女は荷物を置いて安堵の表情を浮かべる。
「え⁉ そうなんですか?」
源が心底意外そうに聞いた。
「そりゃそうだよ~。それが例え先生が作った紙のモンスターでもボクは殴りたくないよ。それに攻撃を受けたら痛いし、怪我だってするし、下手をすると死んじゃうんだよ? ヤダヤダ」
五月女はおどけるように肩を擦る。
「だけど……五月女さんは国家拳闘士の強化指定を受けていますよね?」
源が再度の質問。そんな制度があるのか。なんのことやらわからないが、どうせ俺には関係のない話だ。
「うん。まぁ……ね。奨学金も貰えるし……。ねぇ、ヒッポミ・ポーサって知ってる?」
知らない。
「国民体育大会を創設した女の人ですよね?」
源が答えてくれた。
「うん。ボクは武道大会じゃなくって、あっちに出たいんだよねぇ」
「えーっ! 勿体無い! あんなの参加者が好き勝手に運動をしているだけじゃないですか」
横から工藤が驚きの声を上げた。よくわからないが、そうらしい。
「だからいいんじゃないか。国とか貴族が代表者を戦わせ合うよりも素敵だとボクは思うよ。馬野クンはどう思う?」
どうと言われても、何も知らない以上は答えようがない。
その時、突然に赤く大きな数字が浮かんだ。
武力:5328
それはまるで警告するかのように点滅を繰り返す。
「ヤバい奴がいる!」
五月女の武力は1330。数字上は明らかに相手の方が上。しかも今まで見たことがない数字の点滅と太字だ。そんな分析をするまでもなく、俺は本能的に叫んでいた。




