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ゴブリンとの決着

「妙だな」

 口にしたのはロベルトであるが、ここに居る一同の共通した意見であるようだった。俺? 俺の場合は松尾さんに騙されたかも知れないという気持ちである。

 なんでそう思うかだって? なにせ、六十匹以上----組としてはその五倍と考えて三百匹以上----のゴブリンを追い払っているのに、一向に逃げない。それどころか……


 数:1897


 さらなる増加が起きていた。

「一匹も殺さずに追い払っているのが不味いのか?」

 松尾さんが呟く。

「そんな習性は聞いたことがないが……」

 答えたのはロベルトだった。

 俺? 俺はゴブリンの習性についてはノーコメント。だって、なにも知らないもん。

 また別の問題も出てきた。

「そのクロスボウじゃ届かんよなぁ~」

 松尾さんが惜しそうに言っている。はい、届きません。なにせクロスボウの先を合わせるべき矢印の始発地点が城壁の遥か外側に浮いているんですもの。お空を飛べたら撃てるのに。彼らも学習するらしく、距離を置き始めたようだ。

「外に出撃するなら私も付いて行くよ」

 ロベルトが申し出ているが魂胆は見え見えである。俺の戦い様をみたいのだろう。驚くだろうなぁ、瞬殺されて。


 それは兎に角として新たなゴブリンのリーダーを探すが中々に良いのがいない。そんな中、一つ妙なのを見つけた。

「ちょっと、ストップ!」

「お、見つけたか?」

 松尾さんを制止して、反応のあった位置を確認する。


 武力:64


 一見すると普通だが、問題は場所である。

「町の中にゴブリンが居る?」

「そんな訳ないだろ。一応調べさせるけどよ」

 俺の疑問を松尾さんが一蹴。いや、反応があるし。

「俺が行った方が早いですし、なんだか射撃だけだとゴブリンが増える一方みたいなんで作戦も考え直さないと」

 俺は疲労と慣れでゴブリンの呻き声に何も思わなくなっていた。そんな風に神経の摩耗を感じたので休みたいというのが本音である。

 俺の決定に松尾さん達は文句一つ言わずに従った。一応、俺が指揮することになっているのと、作戦の行き詰まりを感じていたからだろう。


 ゴブリンの反応は一つの建物から発せられていた。

「魔道人形の整備場なんかにゴブリンが隠れているのか?」

 建物の扉を開けながら松尾さんが疑問を呈する。

 中には前に見せられた既視感のある採掘人形が大量に置いてあった。一昨日、お嬢様に連れてこられた場所なのだ。その時と違うのは、従業員たちが人形の整備をしていることくらいだろうか。

「ほらな? もし居たら、こんなに平然と作業なんてしてられねぇよ」

 俺達に頭を下げる従業員を尻目に、松尾さんが探すだけ無駄と言ってくる。しかし、反応はこの奥を示す。


 武力:64


 それはお嬢様に自慢された一品から出ていた。

「あれ」

「ゴーレムか……ゴブリン退治に使うのか?」

 ロベルトは興味深そうだ。

「あの胸の部分って何です」

 それを無視して、数字の出ている部位を指摘した。

「あまり他家の人には聞かれたくないが、動力部だな」

 こっちは俺と違って、実際に機密事項らしい。って、動力にゴブリンを使ってるの⁉

「ゴーレムで聞かれたくないこと……ね」

 俺を秘密兵器だと思っているロベルトが侮蔑を含めた薄ら笑いを浮かべた。そして松尾さんが軽く舌打ち。で、ゴーレムの動力部は機密なの? 違うの?


 よく考えたら、来たときからあの数字は出ていた。他の魔道人形には反応が無かったのに……だ。その時点で気が付くべきだった。

「あそこにゴブリンが隠れています」

「流石にそれはないだろ。従うけどよ」

 松尾さんが従業員を呼びつけると、その胸部を開けさせた。すると中から、手足を縛られた一匹のゴブリンが出てきた。

「これは……」

 一同が声を失う。

「女王か……」

「ああ」

 誰かが呟くと、それに応じる様な声がした。俺には見分けがつかないんですけど。

「なるほど。道理で逃げないはずだ。周りのゴブリンは女王を助けようと集まっていたのか」

 ロベルトが納得したように頷いている。そういえば、生きている時は見捨てないんだっけ?

「誰がこんな事をしたのか知らんが、コイツを殺せば終わりだな」

 鉄杖を構える松尾さん。あのゴブリンは可哀想だけど仕方がないな。グロイのが嫌いな俺は目を逸らす。

「コ、コロサ……ナイ…デ」

「ゴブリンって喋るんかい!」

 思わず大声で突っ込んでしまった。そして、ポカンと見られる俺。

「何を言ってるんだ? そんな訳ないだろ」

「いや、でも今……」

 アホを見る様な目つきの松尾さんだが、今度は俺を担いで遊ぶ気なのだろう。

「オマエ、ハナシワカル……タ、タスケテ」

 チワワの様な円らな瞳を潤ませるゴブリン。って、なんだか嫌な予感がする。

「冗談言ってないで、さっさと終わらすぞ」

 松尾さんが棒を振り上げる。

「タイム! タイム!」

「なんだよ。さっきから」

 松尾さんが面倒そうに応じてきた。

「話せばわかるような気がします」

「わかるはずないだろ。そもそも話せないだろ」

 いや、俺の場合は話せるようだ。でも、これを説明すると非常に面倒な事になる気がする。

「えっと、殺すとか野蛮なので止めましょう」

「ゴブリン相手にお前は何を言ってるんだ?」

「そうだ! これを町の外に出しましょう。それできっと解決です。ゴブリン達も帰ってくれるでしょう」

「うわっ、メンドクサ」

 松尾さんがかな~り嫌そうな顔をして応じてきた。

「ココカラハナレル ヤクソク」

 そしてゴブリンの哀願の声。これがなければ、もう終わっているのに……。

「とにかくですね……」

「命令か?」

「?」

「お前が指揮を執ってるんだ。命令してくれれば従うさ」

 松尾さんが諦めた様に聞いてくる。

「あ…はい! そうです」

「オーケー。わかった」

 松尾さんはサバサバと答えるとゴブリンを担いだ。


 松尾さんは門を開かせると、ゴブリンを放り投げる。ゴブリン達が一斉に駆け寄ると、「ヨカッタ、ブジ」、「ハヤクカエル ココ、コワイ」、「ケガ イッパイ」とかそんな感じの会話が聞こえてきた。うう、なんとも言えない罪悪感。

 手足の拘束を解かれた女王は仲間を率いて急いで町から離れていった。女王が心なしか頭を下げて去った様に見えたのは俺が日本人だからだろう。

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