無意味な評価のストップ高
ゴブリンのリーダーを負傷させ追い払った俺は、自慢げに立ち上がった。周りから見れば、まさに「ドヤ顔」に見えたことだろう。
「まさか……昨日からこんな事をしているのか?」
馬上のロベルトが震えている。俺の射撃テクに驚いているのだろうか。
「貴様! 愚弄するにも程があるぞ! 終わるわけがあるまい‼」
何故か激昂して剣の柄に手をかける。主人と似て興奮しやすい性格だったようだ。——って、何か気に障るようなことをしたっけ?
「抜く前に戦果を聞いてから判断してください」
松尾さんが冷静に止めてくれた。
「何匹をどれくらいの効率で倒したのかな?」
こめかみに青筋を浮かべたロベルトが訊いてくる。
「今ので四十三匹目」
ロベルトは俺の答えを聞いて鼻で笑った。
「それでそのうち何匹がリーダーなんだい?」
「全部」
ロベルトの表情が一転、胡散臭さを隠さない怪訝なものに変わった。
「百聞は一見に如かず。見れば早いですな」
松尾さんは再び俺を攫うように抱えると馬に跨る。
「嘘ならばバトラー殿の右腕との噂もある松尾でも切るぞ」
松尾さんってば使用人の中だと偉かったのか。確かに頭一つ抜けて強いし、バトラーさんも重宝している感じだった。当の松尾さんはというと、表情を変えずに聞き流していた。
そして、その後も俺はゴブリンを追い払う。
「これは……」
五匹目を追い払った頃には、ロベルトも信じ始めたようだった。
俺の真後ろにいる松尾さんのさらに後方から、馬が駆ける音が近づいてきた。
「昨日の夜に確認できなかった奴なんですがー!」
馬上の使用人が大声で叫ぶ。それに対して松尾さんが発言を中止しろとばかりに手で×を作る。
「血溜まりが十個あるだけで死体がありませんでしたー!」
残念ながら通じなかったようだ。
「いやー。ここまで来ると馬野の奴は本物ッスね~……。って、あれ?」
すぐ近くまで来てから、俺達以外にピエールの従者がいることに気が付いたらしい。
「あ、あの……」
そして松尾さんの険しい表情にも気が付いていなかったようだ。
「そ、それじゃ、俺は報告終わったんで」
使用人の馬の蹄の音が逃げるように遠ざかっていく。そして代わりに高笑いが響き渡った。
「なるほど! そういう事だったのか!」
ロベルトが興奮したように喚く。
「あの松尾ではなく、無名の若者が指揮を執ると聞いた時点で気が付くべきだったんだ」
その指揮も形骸化していますけど。細かい事は松尾さん達が手配して、俺は馬で運ばれて、矢印に合わせて引き金を引くだけ。うん。やっぱり指揮なんか執っていない。
「闇夜だろうが繁みの中だろうとゴブリンを見つけ、リーダーを見抜き、必中のクロスボウを放つ。それも殺さないようにだ!」
ああ、やっぱり不自然ですよねー。だけど外すとこの人に殺されそうだったし、仕方がないよね?
「なるほど、竜安寺貴子様、いやバトラーの切り札ということか……」
違いますよー。その証拠に松尾さんともう一人の使用人が腕で顔を隠して笑っているって。震える肩で見破ってください。
「貴様が軍事機密そのものということか!」
勝手に結論付けるロベルトさん。思い込みの激しい人だ。
「それならば、打って出なかった理由も説明が出来る。否が応でも目立ってしまうからな」
吹き出すような音がした。音源は松尾さんである。いや、わかりますよ? 「目立つ」だろうけど、「目立つ」の意味が絶対に違いますもん。
「ふん。その不審な態度。図星だったか……」
「ええ。こうなれば隠し立ては出来ませんな。なにとぞ、ご内密に」
一転して真面目な顔で応じる松尾さん。あー……この人、さっきの怒った振りも全部演技だわ。よく考えたら、報告者の逆側——後ろにいる俺に×を見せても意味がないんだし。
「それは確約できぬが、ピエール様と貴子様の仲……考慮はしよう」
あの二人の関係の数字を見ておけば良かったと軽く後悔。リチャード様よりは可能性があったりするのだろうか?
数字で思いついたのでロベルトの俺への評価をチェックしてみる。
注意:3700
評価:2800
なんかロベルトの中では高い感じ? 五十三万のカップルを見ているのでわかりにくいのだが。
評価:63
これは徹夜でゴブリン退治をした俺への松尾さんの評価。うん。ロベルトの目ってば節穴過ぎ。
評価して欲しい相手はお嬢様とか俺の生活に直結している人なのだが、松尾さんの評価を見ると余り期待はできなさそうだ。
自然と溜息が漏れる。それをどう捉えたのか、節穴マンがニヤニヤ。もう嫌になるね。




