シモ・ヘイヘにはなれない
初めて持ったクロスボウはずしりと重かった……気がした。
いや、それは問題ではない。俺は今からこれを使って生き物を殺さなければならない。それも犬や猫なんかよりも大きくて、二足歩行をする人型の生き物を……だ。
うん。無理。
持たされたクロスボウを返そうと、同行している藤井さんをチラリと見る。
「ああ、撃ち方か」
違います。そんな無言の抗議を無視して、藤井さんは俺の後ろに回ると手を取り、強引にクロスボウを構えさせた。
「こうやって、狙いをつけてだな」
藤井さんは俺と指を重ねると引き金を引く。抵抗がなくなると同時に軽い振動。弦を弾く甲高い音。そして倒れるゴブリン。
「集まったゴブリンは解散しないか。やっぱり外れだな。お前の様にはいかんなぁ」
残念そうに呟く藤井さんの横で、俺は南無南無と心で唱えた。お経を知らないからこれで勘弁してね。化けて出ないでください。出るなら藤井さんの方にどうぞ。
しかし不思議なことに、距離が離れているからか、あるいは引き金を引いたのが藤井さんだったからか、罪悪感がほとんど湧かなかった。さりとて、俺が引いた引き金でバタバタ死なれるのも勘弁である。仕方がないので手足でも撃ってみよう。それで逃げてくれたら御の字だ。
矢を番えたクロスボウに交換してもらい、強いゴブリンを探す。
武力:58
武力:67
武力:61
ゴブリン達の中から幾つか数字が上がる。強いゴブリンだけ判別してくれているようだ。その中から適当な一匹に狙いをつけて構える。
……当たる気がしねぇ。
そもそもクロスボウ自体を初めて持ったというか初めて見たのに、当たるはずがない。これでよく手足を狙おうなんて思いつくものだ。
俺が自分自身に呆れていると……視界に何かが浮かんだ。
↘
ん? 矢印? 例の能力なのか? よく見ると矢印は微妙に動いている。俺の近くから伸びる矢印は、緩やかな山なりの弾道を描いてゴブリンに達していた。
物は試しにとクロスボウの先を矢印に合わせて撃ってみる。果たして矢は矢印をなぞるように飛んでいった。
そして倒れるゴブリン。やべぇ! 撃っちゃった。しかも今度は自分の意思で。これは思った以上に嫌な気分だ。
俺が凹んでいるとゴブリン達が駆け寄り、そのリーダーに肩を貸し始めた。
「運の良いゴブリンだな。アイツらって死ぬとすぐに見捨てる癖に、生きてる場合は捨て身で助け出そうとするんだよな」
都合の良い解説ありがとう。とりあえず生きているようで良かった。後遺症が残らなければいいのだが。
「しかし、一発で当てるとは大したもんだな」
クロスボウを交換する際に褒められた。そりゃ矢印が出ていますし。
褒められて嬉しいか嬉しくないかだと、確かに嬉しい。だけど俺の実力じゃないから、そこまでは嬉しくない。むしろゴブリンを傷つける作業に気が引けた。
ただ、虐待を受けている俺の現在の境遇を考えると、殺すわけでもないし仕方がないという気持ちの方が大きい。俺は自分を犠牲にできるような聖人ではないのだから、仕方がない。……と、自分を納得させる。
これで待遇が少しは良くなるといいなぁと、そんな下心が無かったかと言えば嘘になるわけで……。
そんな事をグルグル、グジグジと止めどなく考えながら、俺は次の狙いを定めるのであった。




