戦い方
どうにかして、怪我人や死人を出さずに終わらせられないものだろうか? 無い脳味噌をフル回転させる。町の人に訓練を施すのが一番確実なのだろうか? でも協力を得るのが難しいみたいなことを言われたしなぁ……。なにより俺はぷにゅに大怪我をさせられるくらいだし、どうにも基準がわからない。
あれ? 俺って大怪我したのにすぐに治ったよな?
「松尾さん達がゴブリンを暫時減らして、怪我したら治癒魔法で治すとかじゃダメなんですかね?」
「こんな場所に怪我をすぐに治せるクラスの治癒魔法使いがいるかよ。ピエール様一行の中にはいるかもしれんが俺達には使ってくれねぇよ」
安寿はやっぱり特別だったらしい。流石は五月女曰く、『学校一というレベルじゃない』だけのことはある。
「どっちにしても時間がかかりすぎるぜ。俺達は十人しかいないんだからな」
「時間って……そういえば、ゴブリンが門を壊したり壁を登ってくるとかあるんですかね?」
「ない。あいつらは馬鹿で非力だからな。仮によじ登る奴がいても結界が張ってあるから焼け焦げるだけだ……って常識だろ⁉」
常識が無くてごめんなさい。俺の居た世界には焼け焦げる様な結界なんてありません。もう「異世界から来ました、てへぺろ」ってやりたい気分である。でも、この世界って人権とかなさそうだから普通に解剖や人体実験の対象にされそうなので止めておこう。でもバトラーさんには……あの人に関しては考えるだけ無駄か。
「ぼんやりとしてどうした?」
無駄な事を考えていました。
「どうやったら怪我人を出さないで済むかな~って」
考えてなかったけど、それっぽいことを言ってみた。
「戦えば怪我人くらいは出るだろ」
そんな松尾さんを見て俺は思いついた。
「あ! 壁を登れないなら上から石とか落としたらどうでしょう?」
映画かドラマでみた攻城戦のワンシーンが頭に浮かんだのだ。異世界人の知識に平伏すがよい。
「あいつら壁に近寄らないから無理だろ。梯子でもかけて来るなら油やら湯やら糞尿やらと落とすんだがな」
平伏さなかった。そりゃ、こんな壁があるんだから防衛方法もあって当然だよね。
「こっちの被害って意味じゃ、弓で射殺せば良いんだけどよ。矢もタダじゃないし、人数も少ないから時間もかかるんだよな」
やはり、松尾さん達と守備隊の人達に戦って貰うしかないのだろうか。俺は戦わないのに怪我人とか嫌だなぁ。そういえば、守備隊の人達ってどれくらい強いのだろうか?
町の方を見て適当な人を探す。鎧兜姿に槍を持っている人を見つけた。タキシード姿で戦う俺達使用人とは大違いの恰好である。俺は戦わないけどね。
武力:86
魔力:23
なるほど。確かに使用人の人達とは比べものにならない。だが、ゴブリンとの比較で考えると、たまにいる武力60とかの強い奴以外なら問題なさそう気もする。数値にして40、比率にすると倍の差がどういう意味なのかはわからないけど。
わからないことは聞いてしまえということで松尾さんに質問することにした。
「守備隊の人達を率いて、松尾さん達がたまにいる強いゴブリンを優先的に倒したら案外あっさり勝てたりしませんかね?」
「勝てるぞ」
松尾氏即答。
「判別できねぇけど」
ホブゴブリンとか別の名称は付いていないんですか⁉
「まぁ、それが出来れば、リーダーを倒した時点でその組のゴブリンは逃げるから、守備隊の連中はいらねぇけどな」
う、ううん?
「要するにリーダーのゴブリンを見分けられれば良い……と?」
「当り前じゃねえか。お前は何を言っているんだ?」
「例えば、ここから……」
うろつくゴブリンを確認する。
武力:43
武力:41
武力:37
武力:67
見つけた。
「弓矢とかであのゴブリンを倒せば、その周りのゴブリンは逃げるってことですかね」
「『あの』がどれかわからないが、それがリーダーならそうだな」
「ほら、俺って弱いでしょ?」
「ああ、貧弱の極みだな」
そこまで言うことは無いのに……。事実みたいだけど。
「その所為か微妙な力の違いに敏感なんですよ」
自分でも大胆な事を言ったものである。怪我人が出るのは勘弁だったし、正直なところだと脳筋松尾さんだから大丈夫だろうと侮った所もあったのかもしれない。
「ふむ……」
俺の発言に興味をもったのか松尾さんは少し考える。
「おい! 弓矢を持って来い!」
そして階段の近くを歩いていた藤井さんに大声で命じた。




