和人VS九尾・霊亀
投稿遅くなりました!
「取り敢えずは結界だな」
和人は指を動かし、周囲に結界を張り、目の前に立っている二匹の巨大な生物に向き直る。
「あのさー、アタシ達は数十年振りに会ったんだよ?それを君達の所為で邪魔されてるんだけど、どうしてくれんのさ!」
「私達は常に世界中を動いてる……だからこうして会うのは稀……それを邪魔する人は許さない……」
九尾は可愛らしいくプンプンと怒り、霊亀は何を考えているのか分からない表情で怒りを表わしている。一見するとただほのぼのとしているだけな感じがするが、二匹から迸る威圧感がそれを台無しにしている。
「ひゅー!中々の威圧感だ。ま、その程度じゃ俺を怯ますことはおろか、驚かせる事すら出来無い。精々ちょっと期待出来るかな?と思うだけだ」
和人の挑発的態度に怒りをぶつけたのは意外にも霊亀の方だった。
「私達は神獣……貴方みたいな人間風情が抗う事など出来る存在じゃない……身の程を弁えて……!」
そう言って霊亀は口から水を吐き出し、和人に攻撃を仕掛けた。ただ水を吐き出すだけじゃ大した事の無いように思えるが、その水の速度が尋常じゃなかった。
「お前等の移動速度より早いんじゃないか?この水」
速さと威力は=で繋がる。どんな物体も、速度が付くだけで凶器となる。
「それだけじゃないよー!」
水の後を追うように九尾が走り出す。どうやら和人が水をどうにかしたとしても攻撃出来るようにと考えたようだ。
この一瞬でこれだけの連携を無言で出来ると言うのは、それだけ神獣同士の絆が固いと言う事だろう。
和人も関心して、もう既に目の前にまで迫っていた水を軽く手を振るだけで地面に叩き付けた。幾ら関心していてもそれに報いるつもりは無いと言うのは、流石和人クオリティと言ったところか。
「嘘……」
霊亀もあの攻撃には自信があったのか、あんなあっさり防がれた事に驚きを隠せないでいる。
「まだ終わってないよー!」
だがそこに九尾が追撃を仕掛けて来る。全力で水攻撃を防いだ事によって生じる隙を逃がすまいと九尾は更に加速して迫って来る。
「俺があの程度の攻撃を防ぐのに力を使ったとでも?」
「え?」
和人の言葉が聞こえた瞬間、九尾の体は何故か霊亀の目の前にあった。
「うわあ⁉︎」
「くっ……」
急な事に驚いていた二匹が、それを回避出来るわけも無く、そのまま激突し、互いに吹っ飛ばされて行く。
「おー飛んだ飛んだ」
和人は吹っ飛ばした二匹に不敵な笑みを向けながら言う。
「まだまだこれからだよ!」
そこに、先程吹っ飛ばした九尾が攻撃を仕掛けて来た。どうやら霊亀がクッションとなり、九尾は直ぐ様体制を整えられたようだ。
「【九つの鬼火】」
九尾の名にもなっている九つの尾が全て和人の方を向き、その尾のそれぞれに九つの色取り取りの炎が浮かぶ。
「行っけぇぇぇぇ‼︎」
そしてそれら全てが和人に向かって一斉に飛んで来た。
(ふむ、赤が灼熱で、青が魔力吸収、黄が体力吸収、紫が毒、黒が呪い、白が消滅、茶が腐敗、そして金が攻撃ダウン、銀が防御ダウンの追加効果持ちだな……そして一斉に放つ事が出来るなら、それぞれ単発でも放てると考えるべきだな……)
和人はそれぞれの炎の魔力を一瞬だけ発動させた【魔神眼】で視て、全ての炎の能力を確認した。
「【時の記憶】」
和人がボソリと魔法名を唱えた途端、目の前まで迫っていた九つの炎が跡形も無く消えた。そこには元から何もなかったと言わんばかりの虚空が浮かぶ。
「なっ⁉︎アタシの【九つの炎】はどこ行ったの⁉︎」
「何言ってんだ、そこには元から何も無いだろ?」
狼狽する九尾に怪し気な表情でそう語る和人。
「何したの……?」
九尾は恐る恐ると言った顔で和人に問う。その質問に和人は怪し気な表情を浮かべたまま、ゆっくりと口を開く。
「俺はただ魔法を発動しただけだ。【時の記憶】と言う名のな」
【時の記憶】その名の通り、時の記憶に干渉する魔法。先程和人がしたのは、この魔法であの空間の時に干渉し、攻撃自体を無かった事にすると言う事だ。
「何よそれ!アタシの魔法をどうしたの⁉︎」
わけが分からずに声を荒げる九尾を、和人は先程と同様に怪し気な表情で見つめる。その次の瞬間の出来事だった。
「⁉︎」
和人が無理矢理身体を捻ったその横を”ナニカ”が通り過ぎた。
「外したか……」
そのナニカがぶつかった地面を見ると、その場所にはそこの見え無い程深い穴があり、その周囲からは変な匂いと煙が上がっていた。
「毒か……」
「そう……」
和人の呟きに静かに返すのは、先程九尾同様に吹き飛ばされた霊亀だった。
「この毒は直撃した俺でもヤバイな……」
和人は毒の能力を精確に読み取り、自分でも厳しいと言う。だがそれも仕方ないだろう。この毒のは、未知の成分をいろいろと合成して作り上げられた、まさに最強の毒だからだ。
「私は魔法を余り使わない……何故なら殆どの攻撃手段が身体の中で作れるから……貴方は強い……それは認める……でも私達の方がもっと強い……」
そう言って再び同じ毒の攻撃を今度は連続で吐き出して来る。
(身体の中で作れる、ね……それが本当なら神獣の中でもある意味こいつが一番やっかいかもな……どうするか……)
和人は連続で吐き出される猛毒を、次々の回避しながら、どうするべきか考えを巡らせる。その時だった。
「【加速する焔】」
九尾から放たれた魔法が、猛スピードで和人に迫って来た。
「っち、めんどうな……」
猛毒を回避しつつも、和人はしっかりとその魔法を確認しており、それを躱そうと体を横に大きくズラした。
「っ⁉︎」
しかしそこは猛毒によって穿たれており、和人の体は体制を崩して前のめりになる。
「そこだ……!」
「いっけー!」
そして九尾の攻撃が和人に直撃し、それに次いで霊亀の猛毒が和人を捉えた。
「やった……」
霊亀はそう呟き、九尾の方を見た。
「九尾……タイミングを合わせてくれてありがとう……」
「何言っての!霊亀が私に合図してくれたんでしょ?ならアイツを倒せたのは霊亀のおかげだって!」
霊亀と九尾は中良さ気に今の攻撃について話していた。
霊亀は猛毒を放ちつつ、九尾に目線で合図を出していたのだ。即ち、「上手く穴に引っかかるように攻撃してくれ」と。
「じゃあ向こうを手伝う?」
「ん……いや、大丈夫……今鳳凰の攻撃が直撃したところ……」
鳳凰と応龍の方を見ると、ボロボロの姿の鳳凰が少女に向かって強力な攻撃を放ち、少女に直撃させていたところだった。
「鳳凰ボロボロだね霊ーー⁉︎⁉︎」
九尾の言葉は最後まで続く事は無かった。何故ならば、
「あっぶねー!」
倒した筈の和人が九尾を蹴り飛ばしたからだ。
「ぐっ……」
そして再び蹴り飛ばされた九尾は、先程と同様に霊亀に激突して、そのまま吹き飛ばされた。ただし先程と比べて威力が格段と上がっていた。
「悪いな、正直お前等を侮ってたわ。あの攻撃は凄かったぜ。俺も少しダメージを受けちまったよ」
「なん、で……」
強力な蹴りを直接受けた九尾は既に意識を失っており、蹴り飛ばされた九尾をぶつけられただけの霊亀も、痛みで碌に動け無い体に耐えて、何故死んでないかと言う意味の質問を問う。
「簡単な事だ」
そう言って和人は、自らが纏う漆黒のロングコートを指し示す。
「このコートは俺の魔力をずっと吸収し続けている」
和人が着ているコートは、和人が魔界に行った時、アリアから貰った魔法道具で、能力が持ち主の魔力を吸収してどんどん強くなると言う物だった。
「魔力を吸えば吸う程永遠と強くなり、持ち主にとって適した物となる」
和人がこのコートを最初受け取った時は、まだ色は白かった。だが、和人がどんどん魔力を吸収させ続けている内に、色が白から黒に変わって行った。
「今のこのコートは俺にしか扱え無い。だがその代わりにこのコートは神器すらも凌駕する」
つまりと和人は続け、
「お前等の攻撃じゃあ神器を超越したこのコートは突破出来無い」
まあ俺が生身であの攻撃を喰らったらヤバイかったがな、と呟き、ゆっくりと二匹に近付くように歩き出した。
「とにかくこの戦いは俺の勝ちだな」
霊亀と気絶した九尾の目の前までやって来て、和人は堂々と宣言する。
「まだ……」
最後の足掻きとばかりに水砲(和人命名)を放つ霊亀。しかし和人はそれをいとも容易く握り潰した。圧倒的力の差を見せ付けられて項垂れるしかない霊亀。
「楽しかったぜ」
最早和人の言葉を聞こえてるかどうかも怪しい霊亀に、和人は手を添えて魔法を発動する。
「【ショック】」
「あ……」
世間一般に広まっている初級魔法の【ショック】にて霊亀の意識をも奪う。
「さて、向こうもそろそろ終わるかな……」
意識を失った九尾と霊亀を一瞥し、和人はヴェルの方を向く。向こうではヴェルが本来の姿でブレスを放つところだった。
もう終わるな。
和人がそう思った瞬間、”それは”起こった。
「っ⁉︎なんだ⁉︎」
気絶している筈の二匹から、一瞬だけヴェルに匹敵する程の魔力を感知した。
普段は【魔神眼】を発動しなければ和人の感知能力はヴェル以下なのだが、流石に僅か数メートルのこの距離でこれ程の魔力を間違える筈が無い。
「まさかこいつら……」
和人は何かを考えるような仕草をしてふと何かを思い出したように顔を上げ、次の瞬間にその姿はヴェルと、ヴェルの相手をしていた二匹の間に割り込んでいた。
「待て!」
割り込んだ和人はヴェルが放ったブレスを弾き飛ばし、ヴェルの質問に答えていた。
「九尾!霊亀!」
すると、後ろで応龍が叫ぶ声を聞き、和人は二匹に振り向き、九尾と霊亀が無事だと伝え、割り込んだ理由を達成するために口を開いた。
「お前等に提案がある」
「提案?」
その言葉に首を傾げる二匹。意外に可愛いいと思ったのは秘密だ。
「ああ、単刀直入に言う。お前等俺と契約しないか?」
次回本編進みます!




