第1話:異世界からしてみれば、ずいぶん弱い魔法らしい
「我がディナーレ家は代々、派手な攻撃魔法で国を護ってきた高貴なる魔法騎士の家系だ! お前のような実体のない『幻』を創り出すだけの魔法と、農奴が土いじりに使う『土魔法』しか持たぬ無能など、我が家の面汚し! 今すぐこの場から消え失せろ!」
15歳の儀式で授かった魔法が判明した瞬間、一家の恥だと罵られたあと、家から追放された。
重厚な鉄の門が目の前で乱暴に閉ざされ、冷徹な鉄の風をはらんだ硬い音が冬の夜気に響き渡る。
「……どうして、俺がこんな目に……」
そう泣き言を言った直後……。
「……っ、が、あぁ……ッ!?」
脳を直接割られたかのような激しい痛みが俺を襲った。
あまりの衝撃に地面に膝をつき、俺は自分の白髪を強く掻きむしる。
視界が激しく明滅し、白髪の少年『フェクト・ディナーレ』としての15年間の記憶の裏側から、まったく別の、しかし確実に「俺」のモノである【異次元の記憶】が濁流となって脳内に溢れ出してきた。
教室の隅で、孤独に妄想を繰り広げていた記憶。
張り付いて見ていた、アニメ、映画、漫画の記憶。
そして、駅のホームから突き落とされ、激しい光が目の前に迫ってきて、そこで途切れた、現代日本の男子高校生――『壱崎ミナト』としての生涯の全記憶。
脳の混乱の中、ゆっくりと思い出した記憶を噛み砕いていく。
「はぁ、はぁ、……今のは……」
ゆっくりと立ち上がり、泥まみれになった手のひらを見つめる。
「……間違いない。これは、前世の記憶だ……」
状況を整理する。ここは異世界の魔法騎士の家系。そして俺は今、最弱魔法を理由に家を追放された。
つまり、前世のアニオタ知識をフル活用できるこの世界で、あの最高にウザい実家から、合法的に縁を切れたということだ。
俺の脳内のスイッチが、完全に切り替わった、その瞬間……。
(……よっしゃあああああ!!! あの陰湿で実力主義のクソ実家から解放されたぞ!!!)
服についた泥を乱暴に振り払い、俺は閉ざされた鉄の扉を背に、盛大にガッツポーズを決めた。
なぜ今記憶が戻ったのかとか、なんで異世界に転生しているのかとか、そういう細かいことはどうでもいい。
「ありがとなクソ親父! わざわざこんなクソ実家から追放してくれて! 俺は理想の魔法騎士になって二度目の人生全力で楽しんでやるから、俺のことは一生忘れててくれ!」
最高の解放感に包まれながら、俺はまずは生活の拠点を手に入れるため、王都を目指して森へと歩き出した。
自由の味を噛み締めながら森の奥を進んでいると、ガサガサッ、と激しく草むらが揺れた。
冷たい月明かりに照らされて姿を現したのは、この森の支配者――凶悪な肉食魔獣『シャドウウルフ』だった。
漆黒の毛並みに、血のように赤い双眼。新人魔法騎士が数人がかりでようやく倒せるレベルの大物だ。
普通の15歳なら腰を抜かして泣き叫ぶ絶望的な状況。
だが、前世のアニオタ記憶を取り戻した俺の唇は、自然と吊り上がっていた。
「ちょうどいい。最初の実験台は、お前だ!」
異世界人の浅薄な『ペラペラな想像力』だから最弱だのハズレだのと思い込んでいるだけで、神アニメの演出や設定を知り尽くした俺からすれば、想像次第でなんでも再現可能な【幻】と【土】の掛け合わせは、最強の神魔法だ。
俺は静かに手をかざし、頭の中で幻を想像する。
思い浮かべたのは、前世で擦り切れるほど観た、神作画の炎魔法を使った戦闘シーンだ。
アニメどおりの神作画の炎のエフェクト、燃え盛る音、自分の体が焼け焦げる匂い、炎の気配。
演出を極限まで脳内で再現し、魔法を放つ。
【幻創魔法:ヘル・フレイム】
瞬間、シャドウウルフの身体を、実体のない『幻の猛火』が包み込んだ。
もちろん、物理的な炎ではないため周囲の木々は燃えない。
だが——。
「ガルルッ!? ギャイン、ギャアアアアアアアッ!?」
触覚以外の全ての五感が、知能の低い魔獣の脳にこの幻を炎だと脳に100%誤解させている。
魔獣は狂ったように絶叫し、地面をのたうち回る。実際には1度も上がらないはずの体温が錯覚で急上昇し、魔獣の皮膚からダラダラと異常なほど汗が吹き出し、死の恐怖で狂乱している。
動きを完全に封じ込めた魔獣を横目に、俺はトドメのために、もう一つの『ハズレ魔法』を発動する。
土魔法は「想像した土の形を発動させる」だけの技だから評価が低い?
バカ言え。幻魔法と同じく、お前らの『ペラペラな想像力』だから最弱だのハズレだのと思い込んでいるだけだ。
想像力を極めた俺からしたら、最強以外の何物でもない。
脳内で思い浮かべるのは、密度をに圧縮させ、アニメの作画そのままの、鋼鉄並みの硬度を誇る巨大な土の槍だ。ただの突起物じゃない。装飾、返しの刃、重心のバランスまで完璧に脳内でデザインされた芸術品だ。
「これが、オタクの妄想力だ!」
【土魔法:創造】
魔法を発動させた瞬間、地面から高速で土の槍が飛び出し、魔獣の喉を容赦なく貫き、一瞬で絶命させた。
「ギャウッ……」
静まり返った森の中で、俺は己の手のひらを見つめる。
「……やっぱり、この魔法、俺が使えば最強じゃん……。しかも、使っててめちゃくちゃ楽しい……」
確信した。この妄想力と、幻と土の魔法があれば、実家のしがらみに囚われて過ごすより、何倍も上の存在を目指すことができる。
「待ってろよ、王都。俺は必ず、最高にカッコいい魔法騎士になって、この二度目の人生で、すべて掴み取ってやる!」
そうして俺は、暗闇の中で、最高にワクワクした胸の鼓動を感じながら、この国【リニシア】の王都へと、足を進め始めた。




