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ChapterⅦ

第1話 探偵の帰還


 ヘリの機体は、世界をまたいで荒波のような揺れを繰り返していた。


「ほら、やるよ」

 イザが無造作に差し出したのは、黒光りするM4アサルトライフル。


 悠はそれを受け取りながら眉をひそめた。

「いいのか?」


「これから行くのは戦場だぞ。ハンドガンだけじゃ、あいつらには勝てねぇ」

 その声には迷いも冗談もない。


 隣でルイが、怯えたように悠の腕をぎゅっと抱きしめる。


 悠は片手で少女の頭を撫でた。

「大丈夫。俺がついてるから」


 イザはふとルイの方を見て、腰のホルスターから小さな拳銃を抜き取った。

「ガキにはこいつを」


 差し出されたのは、コンパクトなPMM。

「軽くて小さい。子供でも扱いやすいはずだ」


 ルイは唇を噛みしめながら、震える手でそれを受け取った。

 金属の冷たさが、これから向かう先の現実を突きつける。


 やがて、機体は雲を突き抜け、視界の下に日本列島が現れた。

 悠たちはついに、日本へと帰還した。


第2話 香港の地にて


 香港の空は、焼け焦げた灰色の雲に覆われていた。

 クライスたちは、パラメーターカスタムで最強へと変貌したティードを前に、緊迫した空気をまとって対峙する。


「俺がやる。父さんたちは下がってろ」

 カイラが剣を握り、低く言い放つ。


「カイラ! お前一人では敵わない!」

 クライスが制止の声を上げるが、息子は首を横に振った。


「あんたらがいると逆に足手まといだ」

 その言葉と同時に、カイラは一気に間合いを詰め、ティードへ切りかかる。


 スパン――金属音が響く。

 ティードは刃を素手で掴み止め、鼻で笑った。

「その程度か?」


「じゃあ、これならどうだ…!」

 カイラは剣を手放し、ティードの胸倉を掴むと飛行魔法で一気に空へ。


「ふむ」

 首をかしげるティードの視界が、急速に地球の青と宇宙の闇へと変わっていく。


 ついに二人は宇宙空間に突入した。

「ここなら邪魔は入らないぜ」

 カイラが低くつぶやき、白銀の鎧――アーマードを召喚する。


「どこからでもかかってこい」

 ティードが口角を上げた。


「後悔すんなよ!」

 次の瞬間、二人の拳が激突。衝撃が宇宙の闇に稲妻のように走る。


 ズドドドドド――

 尋常ではない速度で交わされる殴り合い。


「おらぁっ!」

 カイラの右ストレートがティードの頬を抉る。


 しかし――

「…まじかよ」

 抉られた皮膚は瞬く間に再生していった。


「つかまえた」

 ティードがカイラの肩を掴み、超高速で地球へ急降下。


「うおおおおおっ!」

 轟音とともに、二人は香港の地へ再び叩きつけられた。


「く…くはぁ…!」

 地面に膝をつくカイラは、すでに瀕死だった。


「じゃあな、最高戦力。――最奥魔法、ブレス!」

 ティードの口内で膨れ上がる灼熱の光。


「カイラッ!! ――最奥魔法、デビルズ!」

 クライスが割って入ろうとするが、爆風が全員を後方へ吹き飛ばした。


 カイラは土壇場で結界を展開し命をつなぐも、その代償に魔力をすべて失った。


「デジャヴ! カイラを避難させろ!」

 クライスの怒声に、ギャバットたちが即座に反応し、カイラを抱えて撤退を始める。


「今度は俺たちが相手だ、狼め!」

 クライスが剣を構え直す。


「エリー! カイラを頼む! ハンドル、おれと来い!」

 ギャバットの指示に、ハンドルが笑みを浮かべて頷いた。

「クライスの援護だね。任せて!」


 エリーはカイラを抱え、震える声で「気を付けて」と呟く。


 ティードはその様子を見て、獰猛に笑った。

「ガハハ! 何人束になろうと意味などない!」


 ――この瞬間、兄弟の戦いは本当の修羅場を迎えようとしていた。


第3話 覚醒


炎に包まれた香港は、まるで地獄の門が開いたかのようだった。

ティードの吐き出す灼熱のブレスが、街のビルを次々と溶かし、空を真っ赤に染めていく。


「ぐあああああっ!」

ギャバットは竹槍で火炎を払いのけようとするが、熱波が肌を焼き、筋肉が痙攣した。


「まだだ…!」

クライスは鎧に魔力を集中させ、火の奔流を正面から受け止める。

しかし鎧の表面は瞬く間に赤く焼け、亀裂が走り始めた。


「父さんっ!」

後方のカイラが結界を展開しようとするが、魔力は枯渇しており、光の膜はすぐに崩れ落ちる。


「――エリー!」

ギャバットの叫びに応じ、エリーは雷鳥ザンダーを前方に召喚。

「いけえええ!」

雷鳥が羽ばたき、雷鳴とともに火炎へ突撃する。

激しい爆発が起こり、一瞬だけ炎の奔流が割れた。


「今だっ!」

クライスがその隙を突き、剣を構えて突進する。

ギャバットもイルカの水流を纏わせた槍を振り上げた。


だが――

「遅い!」

ティードが片手を振るだけで、二人は再び爆風に呑まれ、瓦礫の中へ吹き飛ばされた。


「くっ…化け物め…!」

地面に叩きつけられたクライスは血を吐き、立ち上がる。

隣でギャバットも息を荒げながら槍を杖のように突き立てた。


ティードはゆっくりと歩み寄り、笑みを浮かべる。

「これが最強の海賊だ。貴様らの修行も、努力も、この力の前では無力だ」


崩れ落ちたビルの影からカイラが必死に立ち上がる。

その目には、父と仲間をこれ以上傷つけさせまいという決意が宿っていた。


――だが、次の瞬間、ティードの背後で黒い光が渦を巻き始める。

まるで別の勢力が、この戦場に割って入ろうとしているかのように。


第4話 記憶


 かつて、まだ王子だった頃。

 クライスとティードは、よく城の監視の目を盗んでは、外の森へ遊びに出かけていた。


 「兄ちゃん!こっちだよ!」

 六歳のクライスは小鹿のように駆け回り、笑い声を森中に響かせた。


 「おーい、そんなに走ると危ないぞ!」

 十歳のティードは、口では叱りながらも、弟の後を追う足取りは軽かった。


 「わーい!」

 無邪気な声とともに、クライスは川面へ身を投げた。

 ――ぼちゃん、と水飛沫が上がる。


 ティードは苦笑しようとしたが、その表情が一瞬で凍る。

 「……クライス?」


 「はぁ…たすけ…ぷはっ!」

 もがく小さな手。足が川底に届かない。


 「クライス!」

 水音を切り裂き、ティードは川へ飛び込んだ。冷たい水が肌を刺すが、そんなことはどうでもよかった。


 「待ってろ!兄ちゃんが――助ける!」

 腕を伸ばし、小さな体を抱き寄せる。流れは緩やかで、すぐに岸へと引き上げられた。

 弟の咳き込む声を聞きながら、ティードは強く抱きしめた。


 その夜、二人がこっそり城へ戻ると、すでに父王アルタイルが待っていた。


 「……何を考えている」

 低く響く声。

 「二人とも外出禁止だ。部屋から一歩も出るな」


 背を向けて去る父の足音が、やけに冷たく響いた。


 「……ごめんね、兄ちゃん。僕のせいで」

 ベッドの端で縮こまるクライスに、ティードは少し笑って首を振った。


 「いいんだ。また気づかれないように抜け出せばいい」


 その言葉に、クライスの顔がぱっと明るくなる。

 二人の秘密の冒険は、まだ終わらないと信じていた――。


第5話 兄弟


 「ぐはぁ……!」

 クライスは膝をつき、焦げたマントを引きずりながら立ち上がった。全身を走る焼けるような痛み。

 目の前には、炎を吐き尽くしたばかりのティード――その身体は既に人の形を捨て、漆黒の狼へと変じていた。

 鋭い爪が石畳を抉り、赤い眼光がゆらりと揺れるたび、熱気と殺気が渦を巻く。


 「なんて奴だ……」

 カイラが拳を握りしめる。

 「俺が……神の力を使えさえいれば……!」


 「こんなものか? がっかりだ」

 狼の巨体がずんずんと歩み寄り、クライスを見下ろす。その声音は、かつて兄と呼んだ者のものとは思えなかった。


 ――その時。

 頭上から重低音のローター音が響き渡る。


 「おい! てめぇ何考えてんだ!」

 ヘリの機内で、イザが操縦士に怒鳴った。

 「わざわざ戦場のど真ん中を通過することねぇだろ!」


 「待ってくれ!」

 悠が窓越しに地上を見下ろし、息を呑んだ。

 そこには、立ち上がろうとするクライスの姿があった。

 「俺を降ろしてくれ!」


 「はあ? 自分が何言ってるかわかってんのか?」

 イザが振り返るが、悠の瞳は迷いがなかった。

 「あいつらの助けになれるかもしれねぇんだ。頼む!」


 数十メートル離れた地点にヘリは着地し、悠は荒れた瓦礫の街路を駆け抜けた。

 狼のティードが、血に濡れた牙を剥いて笑う。

 「来たか……小僧」


 「悠……!」

 クライスが振り返る。


 「俺がリンクでアルタイルに繋ぐ。兵士を総動員して、一気に叩く!」

 「無駄だ」クライスは首を振った。「そんなことをしても奴は倒せん」


 その声は落ち着いていたが、どこか決意の色を帯びていた。

 「……みんなをアルタイルまで連れて行ってくれ。奴は俺が決着をつける」


 「そんな……!」エリーが叫ぶ。

 「だめだ、クライス!」ギャバットも声を荒げる。

 カイラは歯を食いしばった。「父さん……!」


 クライスは腰のホルスターから黄金のリボルバーを抜いた。

 「銃は、これまで使わなかった……だが、お前に託す」

 その重みと冷たさが、悠の掌にずしりと伝わる。


 「クライス……! 死ぬ気か!」

 「武運を祈る」悠はリンクを発動し、ゲートを開く。光の渦がカイラたちを包み、彼らはアルタイルへと転移していった。


 静寂が訪れる。

 クライスとティード、二つの影だけが瓦礫の上に残った。


 「……これで邪魔者はいなくなったな」

 「ああ。そして貴様は死ぬ」

 「お前も一緒に地獄で苦しむんだ……!」


 互いの視線が絡み合い、香港の空気が張り詰めた。

 ――最後の兄弟喧嘩が、今始まろうとしていた。


第6話 犬神会


 東京湾の夜は、荒れた潮風とサイレンの音で満ちていた。

 最上は息を切らし、追い詰められた獣のように海へ飛び込んだ。


 「ぐぼぉあっ……!」

 冷たい海水が肺に入り込み、意識が遠のく。水面でもがく最上の頭上から、警察のライトが鋭く照らしつける。


 「溺れて死にますよ」新田が淡々と呟く。

 「その前に撃て」釜野の声は冷たかった。


 数十の銃口が、泡立つ水面へ向けられた――その瞬間。


 「……なんだ、ありゃ……」

 警官の一人が空を指差す。


 黒い影が二つ、夜空を切り裂きながら近づいてくる。

 ローターの轟音とともに、武装した二機のヘリコプターが現れた。


 最上は水面から顔を出し、口角を吊り上げた。

 「がはは……奥の手が来たか……!」


 犬神会――最上組の下部組織。その中心に立つ男は、ロン毛にサングラス、獰猛な笑みを浮かべる最上大介。

 会長にして、最上啓介の実の弟だった。


 「兄貴の周りのカスどもを始末しろ」

 大介がハンドガンの装填を確かめながら命じると、機内の組員たちが一斉に身を乗り出す。


 ズドドドドッ――!

 機銃掃射が湾岸を薙ぎ払い、警察隊が次々と倒れていく。


 「おいおいおい! なんだよこれは!」釜野が叫ぶ。

 「先輩、伏せて!」新田が釜野の頭を押さえつけた。


 「大介! こっちだわぁ!」最上が手を振る。

 「兄貴を発見!」組員が叫び、大介が頷く。


 「ロープだ、引き上げろ!」

 投げ下ろされたロープを、最上は渾身の力で掴む。

 海水を滴らせながら、ゆっくりと空へと引き上げられていった。


 「逃がすわけねぇだろ! 戦車で撃て!」釜野が怒鳴る。

 しかし兵士の顔色が変わった。

 「だ、だめです……動きません!」


 「はぁ!?」


 港を囲む戦車も、上空を旋回していた自衛隊ヘリも――まるで時が止まったかのように、ぴたりと沈黙していた。

 何者かの魔法が、全ての兵器を封じている。


 「くそっ!」釜野は拳銃を抜き、去りゆくヘリに向けて無駄に弾を吐く。

 だが二機のヘリは煙と風を残し、最上を抱えて闇の向こうへ消えていった。


第7話 開口一番


 二人はただ向かい合い、互いの瞳をじっと射抜くように見つめていた。

 静寂の中、クライスが口を開く。


 「……もう終わりにしよう、ティード。俺は、お前を殺したくない」


 意外な言葉だった。ティードの口角がわずかに上がる。


 「ほぉ……?」


 「これ以上、家族で争って何になる。頼む……悪事も、もうやめろ。

 二度と俺たちの前に現れないと約束するなら――俺は今、お前を見逃す」


 ティードは黙り込んだまま、ゆっくりとうつむく。

 その仕草には、ほんの一瞬だけ迷いの影が見えた。


 ――だが。


 「……今、何と言った? 俺を……? お前が、殺せるとでも?」


 次の瞬間、ティードの肩が揺れ、喉の奥から低い笑いが漏れた。

 それはやがて、狂気を帯びた哄笑へと変わる。


 「あぁははははははは!! 面白ぇ!やってみろぉ、クライス!

  お前の“期待”に、この俺が応えてやる!!

  お前を――この手で叩き潰してやるッ!!!」


 狂気を孕んだ叫びと共に、ティードが地を蹴る。

 鋼のような拳が、真っ直ぐにクライスの顔面を狙った。


 「ティードッ!! ……くそっ!」

 キィィン!


 金属を裂く音が戦場に響く。クライスの剣とティードの拳が火花を散らした。


 「――アーマードォ!」

 紫の輝きがクライスの全身を包み、瞬く間に鎧へと変わる。


 「!?」

 解き放たれた衝撃波がティードを吹き飛ばし、瓦礫を巻き上げた。


 クライスは煙の中から歩み出る。

 その鎧は紫の光を脈動させ、空気を震わせていた。


 「……そうか。それがお前の答えなら――」

 クライスの声が低く沈む。


 「俺も、もう情けはいらない」


第8話 新たなるクルー


 ティードの口元が歪む。

 「ふはは……そんな装備で、この俺に勝てるとでも思ったか?」


 あざける声に、クライスの目が燃える。

 「後悔させてやる!」

 鋭い一閃がティードに襲いかかる――しかし、刃は空を切った。


 すり抜けるように避けたティードの右脚が、鋼のような勢いでクライスの腹を撃つ。

 「ぐっ……まだまだぁ!」

 よろめきながらも、クライスは剣を振る手を止めない。


 「くっ……」ティードは後方へ跳び、間合いを取った。

 その瞳が、何かを決意したように細められる。


 「見せてやろう……お前の相手は、こいつらだ」

 低く呟くと、足元に巨大な魔法陣が展開され、青と黄金の光が渦を巻く。

 次の瞬間、地を割るような轟音と共に二体の鎧武者が姿を現した。


 鎧の隙間から漏れる光は、どこか人間らしい温もりを感じさせる。

 「召喚魔法……」クライスが息を呑む。


 その二体はゆっくりと兜を外した。

 あらわになった顔を見た瞬間――クライスの表情が凍りついた。


 「……ダグ……クリス……!?」

 声が震える。信じられない。信じたくない。


 ティードは愉悦の笑みを浮かべた。

 「そうだ。四年前、俺たちが葬ったお前の仲間だ」

 その声には一片の情もない。


 「もっとも……今のこいつらは、ただの人形だ。

 俺の魔法で性格も、容姿も、技量も刻み込み……忠実な操り人形として錬成した」


 クライスは奥歯をきしませ、両の拳を震わせた。

 胸の奥から煮えたぎる怒りが溢れ出す。


 「――よくも……よくも俺の友達をああああああああああ!!!!!」

 その咆哮は、戦場の空気を震わせた。


第9話 カノン


 「――ドルフィンズ!」

 水しぶきを伴い、青白い光を帯びたイルカが次々と出現する。

 操っているのは、かつての仲間――ダグの姿をした鎧の戦士だった。


 「……やっぱり、あいつらは……ダグとクリスだ!」

 クライスの胸が軋む。だが迷っている暇はない。


 「はははは!やれぇ!だが殺すな、奴のとどめはこの俺だ!」

 ティードは高笑いと共に、崩れかけたビルの屋上へと転移した。


 「来い……!」

 クライスが構えた瞬間、イルカたちが水弾のように突進してくる。


 背後から、鋭い殺気――。


 「こっちも忘れるな」

 クリスが音もなく迫り、刃を振り下ろす。


 キィン――!

 しかし紫に輝くパープルアーマーは一切の傷を許さない。


 「……ふぅん!」

 クライスが身体をひねり、回転斬りでイルカを一掃する。

 そのまま振り向きざま、クリスの首を掴み上げ、地面へと叩きつけた。


 「ぐっ……!」

 咳き込みながらも、クリスの瞳にはまだ戦意が宿っていた。


 「クリス、最奥魔法だ」

 ダグの低い声に、クリスが口角を上げる。

 「ケリをつけてやる」


 二人の身体が瞬時に転移し、並び立つ。


 「――最奥魔法」

 「ライジングッ!」


 轟音と共に、まばゆい光線が放たれた。

 クライスも拳を突き出す。

 「最奥魔法――デビルズッ!」


 白と紫の閃光が激突し、街を揺らす衝撃波が走る。


 煙が立ちこめ、視界が奪われた。

 ……その中に、二人の姿はない。


 ザクッ!

 視界の外から、腹部へ焼けつくような痛み。


 「……ぐはぁっ!」

 クリスの剣が、深々と突き刺さっていた。


 血を吐き、膝をつくクライス。

 クリスは追撃のため、再び剣を振り上げ――


 キィンッ!

 甲高い音が響き、刃が弾かれた。


 煙の中から現れたのは、上品なスーツベストを纏う細身の人物。

 童顔に長い髪、その佇まいにはどこか女性的な雰囲気が漂う。


 クライスは思わず目を見開く。

 「……カノン、か?」


 「久しぶり……クリス。僕のこと、忘れたの?」

 静かに、しかし確かな怒りを孕んだ声が響いた。


第10話 混沌


 カノンは冷静にクリスの剣を弾き飛ばし、鋭い眼差しで叫んだ。

「立って、クライス!」


 クライスは苦痛に顔を歪めながらも、体に刺さった槍を強引に引き抜き、怒りを籠めてダグの顔面を殴りつけた。

「まだいけるか?」


「もちろん。もう迷いはない。クリスを楽にさせてやる!」

 カノンの声には揺るぎない決意が宿っていた。


 その時、ティードの冷笑が響き渡る。

「威勢の良い小娘だな。だが奴らに自我はない。俺の命令だけに従う、ただの殺人兵器だ。楽にさせられると思うなよ」


 クライスは煙草に火をつけながら睨み返した。

「黙ってろ。お前も一緒に道連れだ」


 ティードは腕を広げ、命じるように声を放った。

「おい、お前ら。あんまり長引かせたくねぇ。あれをもう一度、くらわせろ」


 ダグとクリスは無言で頷き、背後にエネルギーを溜め始めた。

 最奥魔法の光が二人の手からみるみる大きく膨れ上がっていく。


「でかいのが来るぞ!」

 クライスが鋭く警告した瞬間、戦場の空気が凍りついた。


第11話 失われた記憶


「結界魔法!」

 クライスとカノンは互いに視線を交わし合い、全身を包む結界を瞬時に展開した。防御態勢に入り、最奥魔法の衝撃に備える。


「最奥魔法、ライジング!」

 ダグとクリスの両手からまばゆい光線が迸り、凄まじい轟音とともに放たれた。


 だが次の瞬間、クライスたちの視界は白一色に染まる。

「バリン!」

 結界が激しく弾け飛び、光線がそのままクライスの体を貫いた。


「カノン!!」

 咄嗟に庇ったクライスの腕の中で、カノンが倒れ込み、激しく咳き込む。

 クライスも膝をつき、痛みに顔を歪めた。


「くそ……!」

 悔しさに拳を握り締めたその瞬間、クリスが冷ややかな剣を構えてゆっくりと近づいてくる。


「がはははは!!!そうだ、突き刺してしまえ!」

 ティードの狂気に満ちた高笑いが戦場に響き渡り、クリスの剣がクライスめがけて振り下ろされる。


「だめ!!」

 カノンは必死に前に飛び出し、両腕を広げてその剣を止めた。


「……クリス、僕だよ……カノンだよ。覚えてない、本当に……?」

 カノンの静かな声が切り裂くように響く。


 その瞬間、クリスの瞳にかつての記憶が甦った。

 四年前、共に戦い、語り合ったあの日々が一気に脳裏を駆け巡る。


「うがあああああああ!!!!」

 混乱と苦悩に満ちた叫び声をあげ、クリスは剣を握る手を震わせた。


「役立たずめが」

 ティードの苛立ちの声が背後から突き刺さる。


第12話 ロイス


 ティードは大きく口を開け、炎の息を溜め始めた。

「まずい…!カノン、逃げろ!」

 クライスの声が焦りに満ちる。


 その絶体絶命の瞬間――


「氷結魔法、スノーマン!」

 突如、冷気と共に巨大な雪だるまが現れ、クライスたちを覆い隠した。


 ティードの炎のブレスは雪だるまの背中に遮られ、思わずカノンが息を呑む。

「え…」


「ロイス!!」

 クライスの瞳に、かつての戦友、魔女ロイスの姿が飛び込んできた。


「カスがまた一人、死にに来たのか?」

 ティードは冷笑しながら煙草に火をつける。


「悪いけど、ここは引かせてもらうわ」

 ロイスは鋭い眼差しを向け、転移の魔法を唱えた。


「エスケープ」

 次の瞬間、ロイスと仲間たちは光に包まれ、瞬間移動でその場から消え去った。


「お前ら、船に戻るぞ」

 ティードは冷たく告げ、背を向けた。


第13話 探偵、帰還


 イザたちを乗せたヘリコプターは東京の空へと舞い戻った。

「もう野暮用はねぇな。あとは最上のところへ急ぐぞ」

 イザがそう告げる。


 最上組と警視庁が激しい戦闘を繰り広げていた正門に着いたが、最上の姿はなかった。

 悠は死体の山を見下ろし、静かに呟く。

「一体、何が…あったんだ」


 そこへ警察隊の増援が近づいてくる。

「巻き込まれたくない、とりあえず離れるぞ」

 イザは冷静に指示を出し、ヘリは静かに離陸した。


 やがて、彼らは最上大介率いる犬神会と自衛隊の激しい攻防が続く堤防へと到着する。

 釜野が怒声をあげた。

「今度は何だよ!ヘリ!?何でもありか!」


 悠は釜野の姿に心が揺れた。

「釜野…!」

 久しぶりに会う親友の顔が目に染みる。


「おじさんのお友達?」

 ルイが小さな声で尋ねた。


「ああ、あいつは友達だ」

 悠は強く頷いた。


「さぁ、暴れるぞ!銃を構えろ!」

 イザが命じると、ジョンイルのメンバーは一斉にAKを構えた。


「やらせるか」

 悠はイザに銃口を向けた。


「はぁ、助けてもらって礼の一つも言えないどころか、恩を仇で返すつもりか、このクソ野郎」

 イザは冷笑する。


「感謝はしてるさ。ただ、さっさとヘリを降ろせ。さもなきゃお前の頭、ぶち抜くぞ」

 悠は静かに言い放つ。


 イザは震えるルイに銃口を向けながら言った。

「この娘の命は惜しくないのか?」


「やってみろよ」

 悠は鋭く返した。


 その間、一瞬の沈黙が流れる。


「ふん、いいだろう。おい、着陸だ」

 イザが運転手に命じると、ヘリは静かに着陸した。


 バタバタと羽根が回り、ヘリは地面に降り立つ。


「ルイ、俺の後ろにいろ」

 ルイは小さくうなずき、震えながら悠に近づいた。


 悠は銃を向けたままヘリから降りる。


「勘違いするなよ。今、お前の婚約者を拉致してるんだ」

 イザの言葉に、悠の足が止まった。


「…は?」


 その時、飛鳥探偵事務所では数人のジョンイル構成員が雪に銃を向けていた。

「動くなよ」


 雪は怯えながらも言った。

「あんたたちなんかに悠は負けない…絶対に助けに来てくれる」


 悠はその声を聞いて、血を滲ませながら唇を噛み締めた。


 そのとき、イザの携帯が鳴り響いた。


第14話 グリス


 飛鳥探偵事務所の窓際に差し込む日差しの中、雪に銃口が向けられていた。


「お前の旦那には、もっと人を殺してもらう。ボスのもとでな」

 構成員の冷たい声が響く。


 雪は無言で、冷たい視線を一人の構成員に向けた。

 そのとき、部屋の一角が歪み始める。


「な、なんだ…?」

 驚愕する構成員たち。


 歪んだ空間から、ローブをまとった剣士がゆっくりと姿を現した。

 男は葉巻に火をつける。


「なに者だ!」

 三人の構成員が一斉に拳銃を向ける。


 男の正体は、元ティード海賊団のグリスだった。


「そういうことか。お前らの誤算だな。この国には異世界勢力の後ろ盾がある。クライス王からの命令でな。あいつらがピンチになれば、俺たちは動く」


 構成員の一人がナイフを振りかざしたが、グリスは剣を引き抜く。

 瞬く間に、次々と首を掻っ切り、わずか数秒で制圧した。


「ケガはないな。これからお前を保護する」

 グリスは冷静にそう告げた。


「どうして助けてくれるんです?」

 雪が問う。


「言っただろう。俺は命令で動いているだけだ」

 そう言い放ち、グリスは敵のポケットから携帯電話を取り出した。


 海岸では、プルルル…ワンコールでイザが応答する。

「なんだ?」


「よぉ、婚約者は返してもらった。代わりにお前の部下は土に還ってもらった」

 グリスの声が響く。


「…そんな馬鹿な」

 イザの声が震えた。


「何者だ、お前は…」


 悠が背後から言い放つ。

「アクシデントでも起きたみてぇだな、クソ野郎」


「残念ながら計画は変更だ。お前の婚約者は自由の身だ」

 グリスが告げる。


 そのとき、釜野が叫んだ。

「悠!しゃがめ!」


 グレネードが放り込まれ、爆発音が轟く。

「きゃああ!!」

 ルイの悲鳴が上がる。


 悠は咄嗟にルイを抱きかかえ、身を挺して守った。

「くそっ!」


 爆煙の中、悠とルイは釜野の元へ走る。


「無事か!」

 釜野が声をかける。


「ああ、ルイを保護してくれ」

 悠は振り返らず答えた。


 新田がルイをしっかり抱きかかえる。


「いけるか?」

 釜野はアサルトライフルをリロードしながら訊ねた。


 悠は静かにハンドガンを手にし、応えた。

「ああ、奴を逮捕する!」


第15話 逮捕へ


 イザ率いるジョンイルの構成員たちの装備は、意外にも軽装だった。防弾チョッキにアサルトライフル。身軽な姿で静かに構えている。


 イザが合図を送ると、最上たちは一斉に逃げ出した。


「恩に着る、サンキュ!」

 最上はそう叫び、海の彼方へと姿を消す。


「いいか、お前ら。奴らを甘く見るな」

 釜野の声に、警察隊員たちが固唾を飲む。


「特にイザという男は、四年前の地獄を生き抜いた化け物だ」


 イザが腕を構え、呪文を唱える。


「爆発魔法――」


 悠が声を張り上げた。

「来るぞぉ!」


「構え!」

 釜野の号令で、警察隊員たちは盾を構え前線へと突き出した。


 その瞬間、イザの放った火球が盾へと衝突し、激しい爆発音を響かせた。


「うおおおおお!!!」

 構成員たちが雄たけびを上げ、一気に突撃する。


 警察隊員たちも負けじと前へ走り出した。


「おいイザ!もう観念しろ!」

 悠の声が響く。


「最後まで俺らは諦めねぇ」

 イザが冷静に応戦、AKを乱射した。


「クソが!」

 悠もハンドガンで反撃し、銃弾がイザの膝を捉えた。


「ぐっ!」

 イザがうめく。


「はは、くたばれクソ野郎!」

 悠は倒れたイザの上に馬乗りになり、拳を振り下ろす。


「釜野!手錠だ!」


「了解!」

 釜野が急いで駆け寄り、手錠を取り出す。


「銃だけが取り柄の探偵ごときが…!」

 イザが呻く。


「馬鹿か!最後に勝てばそれでいいんだよ!」

 悠は叫びながら、確実にイザの手首を縛った。


 戦闘の果てに、イザはついに逮捕された。

 構成員の多くも拘束され、犠牲者は出たものの、勝利は確定した。


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