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第10章

第10章:真実を覆う真実



森はなおも静まり返っていた。


だがその静寂の奥には、もはや隠しきれぬ叫びが交錯していた。


それは恐怖であり、絶望であり――崩れゆく自我の音だった。




ベリカは血に濡れたまま、地に膝をついていた。


荒く乱れた息が喉に絡まり、視界は鮮血の霧のように滲んでいた。


しかし肉体の痛みよりも深く彼を蝕んでいたのは――




今、目の前に立つ“存在”。




それは……自分自身だった。




いや、違う。


あまりにも似ていた。だが、その眼差し、その笑み、その気配――


それは決して“自分”とは呼べぬものだった。




冷たい悪意の結晶。


内なる否定の果てに押し込めてきた、自らの影。




「なぜ君は……そんなに問い続けるんだ?“お前は誰だ”と。」




血まみれのベリカは乾いた笑みを浮かべた。


だがその笑みは、確かに揺れていた。


恐怖は骨の髄まで浸透し、


彼が生涯見て見ぬふりをしてきた真実が、ついに綻びから漏れ始めていた。




束縛は解かれたはずだった。


だが、彼の意識はかつてないほど強固な鎖に囚われていた。




――最初から、何かが噛み合っていなかった。




あの森へと向かう瞬間から、


すべてのパズルのピースは、どこかで軋んでいた。


アリデルとルシエル。彼らはただの“妨害者”などではなかった。




彼らの排除命令、それ自体が不穏だった。


あまりに静かで、そして――あまりに断定的だった。




自分が信じてきた計画。


自分を導いてきた“あのお方”。




そして――


自分すら欺いてきた、自らの暗き意志。




「……僕は……誰のために戦ってきたんだ?」




そのとき、目の前の“彼”がゆっくりと口角を吊り上げた。


その笑みは残酷で、そして、どこか壊れていた。




「君は失敗した。計画は崩れた。君は、もう……不要だ。」




声は静かだった。だがその奥には、壊れきった狂気が、澄んだまま宿っていた。




傷だらけのベリカは歯を食いしばり、身体を起こそうとした。




「まだ……終わってない……!」




「そうかい?じゃあ――


終わらせてやるよ。」




影はゆっくりと手を掲げ、


自らの胸の奥深くへと、その指先を沈めていった。




血も、骨も、肉も――まるで何の抵抗もない。


その手は、まるでかつてからそこに封じられていた“何か”を探り出すかのように、あまりに自然に動いていた。




ぐしゃり、と音が鳴る。




指先から引きずり出されたのは――


形容すら不可能な、異質の“何か”。




闇よりもさらに深い光を湛え、心臓のように脈打つそれは、


この世界の理から外れた、もう一つの“真実”だった。




「グァアアアアアアアアアアッ!!」




傷ついたベリカは苦痛の叫びを上げ、血を吐きながらもがいた。


全身が痙攣し、眼球は裏返り、


その声は断ち切られた弦のように引き裂かれていく。




だが、それをもたらした“影”は、


その忌まわしい物体を唇へと近づけ、静かに囁いた。




「はぁ……すべては、“あのお方”の言葉通り。」




血に濡れたその顔。


そこに浮かんだのは、陶酔だった。




「たとえ失敗だったとしても……これだけの注目を集めたのなら――


どれほど、至福か……


はぁ……なんて……美しい。」




血塗れのベリカは、その言葉に震えながら後ずさった。


自分自身――だが、もはや見知らぬ存在。


自身の深淵に潜んでいた、忘却の意志。




否――


それは、操作された“自己”だった。




影は虚空を見つめたまま、またも不気味に笑い呟く。




「時間はまだ少し残ってるな……


それならば――


この忌まわしい空間ごと、俺が終わらせてやるよ。」




ザッ……ザッ……




そのときだった。


闇の中から、ゆっくりと忍び寄る足音が響いた。




葉を踏みしめる音は、妙に穏やかでさえあった。


だがその平穏の奥に潜むおぞましさに、影のベリカでさえ、わずかに身を震わせた。




影は細めた目で、首をゆっくりと振り向けた。


その口元には相変わらず笑みがあったが――


その双眸には、はっきりとした“警戒”が宿っていた。




「……来たか。」




視界の彼方――


濃霧のように漂う闇の中から、


確かな気配が、ゆっくりと近づいてくる。




影のベリカは低く、だが明瞭に呟いた。




「……俺の勘が告げてる。


計画を妨げた奴は……間違いなく、あいつだ。」




そして――




未知なるシルエットが、ついにその姿を現し始めた。

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