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第9章

第9章:開かれる影


深い闇が降りた森の中。黒い靄が、まるで静寂な深淵のように沈み込み、すべての音を飲み込んでいた。

ベルカは膝をついたまま、つい先ほどすれ違ったあの存在の気配に、まだ身を震わせていた。


「アルハン」――すでに跡形もなく消え去ったが、その残像がもたらした恐怖は未だ消えていない。

だが今、彼の背後から忍び寄るもうひとつの気配は、それとはまったく別次元のものだった。

それはもはや人の感覚では測れぬ、精製された絶望の形そのものだった。


そして、その瞬間――


「……思ったより、長く持ちこたえたな。」


空気を裂くように、低く鋭い声が響いた。

穏やかでありながら、その静けさの奥には戦場全体を呑み込むほどの重く冷たい威圧感が潜んでいた。


その声の主は、視界の中心に現れていた。

そこに立っていたのは――一人の少年。


年若く見えるその姿には、どこか危うさと静謐さが同居していた。

だがその瞳は、まるでこの世界全体を見下ろす神のように澄み切っていた。


少年のマントの裾が、風もないのに揺れ、

足元には黒い紋様が静かに浮かび上がりながら、空間を歪ませていた。


「お前……誰だ? 近づくな……!」


ベルカは息を荒げながら、辛うじて声を絞り出した。

しかし少年は、それに答えることなく、ただ静かに微笑むだけだった。


その笑みには、哀れみも嘲りもなかった。

ただすべてを見通す者だけが持つ、説明不能の表情だった。


「計画はすでに始まっている。お前はその中で、ただ使い捨てられる道具に過ぎなかった。」


少年がゆっくりと手を上げると、

その動きひとつで空が裂けるような閃光が走った。

同時に、ベルカを縛っていたすべての束縛が粉々に砕け散った。


だがそれは、自由ではなかった。

それは、単なる解放ではなく――宣告だった。


「ベルカ……ベルカ。お前は……何者だ?」


その問いは、まるでこの世界そのものが発した問いのようだった。

少年の瞳は、一切の曇りもなく、ベルカの内奥を見透かしていた。


ベルカはゆっくりと顔を上げた。

そしてついに――


彼の視界に少年の顔が鮮明に映り込んだその瞬間、

彼の体内を流れる血は、逆流するかのような極限の驚愕に包まれた。


それは単なる見知らぬ顔ではなかった。

その顔には、遠い昔から運命に刻まれていたような既視感デジャヴがあった。

そして――誰よりも近く、誰よりも危険な存在。


今、ついに幕が開かれようとしていた。

「アスカリオンの書」を読んでくださった皆様、誠にありがとうございます!この物語が皆様の心に響くものとなっていることを願っています。ぜひコメントやご感想をお寄せください!皆様の応援や反応に基づき、第10章の公開を決定したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

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