夜⑨ 竜人化
なんで龍彦が?
「よっ! 久しぶりだな、竜騎!」
白い光と共に現れたのは、前世での俺の親友、愛染龍彦だった。
「いやちょっと待て! 全然意味分かんねぇぞ! なんでお前がここにいるんだよ!」
あまりに予想外の状況に動揺が抑えられない俺。
「誰アイツ? 小間竜騎の知り合いみたいだけど」
「ガハハ、さぁな! けどアイツ相当つえーぞ。さっきから攻撃しようとしてるが、一切隙がねぇ」
「キル、どうする?」
「様子を見ましょう零寿。それに、彼の正体については私も気になるしねぇ」
突然の龍彦の登場に驚いたのは、四天王の奴らも同じようだ。
「つかマジでどうなってんだ龍彦」
「おーそうだな。どっから説明すればいいかな」
うーん、と悩む様子の龍彦。
「まず、前世でお前が死んだ少し後に、俺も死んじまってな。殺人鬼と化した蟻道冷人に殺されてな」
それは知っている。3回戦終了後に流れてきた記憶の中に、龍彦が殺される場面があったからな。
コイツにはできるだけ幸せに生きてほしかったもんだが、俺が蟻道冷人を悪魔に目覚めさせてしまったせいで、関係の無い龍彦まで殺される羽目になってしまった。
「龍彦……俺のせいで……」
「過ぎた事はいいんだよ、気にすんな。お前のせいじゃねぇさ。あーでなんだっけ。そうだ、実はその後よぉ、俺もここに来たんだよ。神の間にさ」
「は、え? お前も?」
「そーそー。そんでもって今回みたいに神の試練が始まって、んでなんとか試練をクリアしたんよ」
さらっと衝撃の事実を明かす龍彦。
つまり龍彦は、元異世界転生者ってことか……。
「でも、それがなんで……」
「ちゃんと話すから聞けって。んで、試練をクリアした俺は異世界へと転生する事が決まった。その時女神から『今回の試練で使った異能を引き継ぐか、新しい異能を持っていくか』……その2択を迫られた。俺はどうせならもっと強い異能が欲しくなってさ『ドラゴンになれる異能があったら欲しい』つったんだよ」
「ドラゴンって……。あぁそいやお前、ドラゴンに並々ならぬ憧れがあったよな」
「そうそう! んで、いざ異世界に転生してみたら、変な神殿みたいな場所で目が覚めたわけ。ところが全く身動き取れなくてよ、自分の姿も確認できなかったし、俺は自分の置かれた状況が分からなかった」
神殿か……。俺は、その言葉に何故か既視感を覚えた。
「しばらく動けないでいたんだが、神殿の外がやけに騒がしいというか、すげぇ禍々しくて大きな魔力を感じてな。それと同時に、たくさんの人の苦しむ声が聞こえた。状況はよく分からなかったけど、俺はその人たちを助けたいと思った」
そこで知りもしない人々を助けたいと思える当たり、お人好しの龍彦らしい。
俺は久しぶりにあった親友の変わらない姿に、何故か少し安心した。
「そしたら、俺の体が今みたいな白い光に包まれて、神殿の外に出ることができた。そこで初めて、俺は自分の姿を確認できた。『あっ! 俺ドラゴンになってるやん!』ってさ! ったははは!」
「いや全然面白くねぇよ」
笑いのツボが少々独特なのも全く変わってないな、コイツ。
「そしたら、外はもう地獄でよ。焼き尽くされた村、何百人の人たちが死んじまってた……。その村では、魔族って呼ばれてる奴らが暴れてて、その中心にはドデケぇ悪魔みたいな奴がいた。まぁ俗に言う魔王ってやつなんだろうな」
そうか。この話、万丈の故郷が魔王である蟻道冷人に襲われた時の話か。
という事は、このとき蟻道冷人が戦った伝説の竜は、龍彦だったという事になる。まさかこんな所で繋がってくるとは。
「そんで俺は魔王を倒そうとしたんだが、あいつ滅茶苦茶強くてな。お互いの攻撃が全く通用しなくて、全然ケリが着かなかった」
完全体の伝説の竜でも倒せない魔王。俺は改めて、蟻道冷人……海藤咲夜の出鱈目な強さに恐怖を感じた。
「そしたら魔王の奴がついに痺れを切らしたのか、すげぇデカい魔力で俺を封印しようとしやがってよ。俺は抵抗したが、残念ながら封印から逃れることができず、異次元の空間に飛ばされた」
「んで、それが神の間だったと?」
「そうだ。んで理由は分からんが、女神さまによく分からんカードに閉じ込められちまって、そこから意識がしばらくなかったんだけどよ。ある日ついに意識が戻った。それが……」
「俺がこのバトルロイヤル初日でカードを引いて、股間から竜を出現させた時……」
「そう、その時に俺も目を覚ましたってわけ!」
とんでもない偶然の連続に、俺は驚きを通り越して言葉が出なかった。
「しっかし、竜騎よぉ。俺は嬉しいぜ」
「あ、何が?」
「お前と前世でした約束を、こうして果たすことができてよ」
約束? 俺は全く身に覚えがないが、なんかあったっけか。
「その顔は覚えてねぇな? ったく。ほら、俺んちでお前とゲームしてた時あったじゃん?」
「いつだよ。多すぎて覚えてねぇよ」
「ほらあれだよ、ゲーム負けた方が全裸になるって言ったとき!」
「それ毎回じゃね?」
「まぁあったんだよ! そん時、ゲームに負けた俺の全裸を見た時にお前言ってたじゃん。『お前のチ〇コマジでけぇ』ってさ! ったはははは!」
何がおもろいねん……。だが確かに、コイツのチ〇コを見る度に驚いていたのは事実。それほどまでにコイツのチ〇コ大きさは桁違いだった。桁違いだったが……ここから約束に繋がる気配がまるでしない。
「そんでよ、そんとき俺言ったじゃねぇか!『俺のドラゴン級のチ〇コ、生まれ変わったらお前にやるよ』ってさ! ったはははは!」
「え? それがなんだ……まさか……え?」
「そうだ! お前が伝説の竜の異能を引いた時点で、お前がどんな体の部位を言おうと、俺は股間から現れるって決めてたのさ! まぁ本当にチ〇コって言うとは思わなかったけどな! まさに有言実行!! ったはははは!」
俺は、くだらない衝撃の事実に震えが止まらなかった。
1回戦の直前。俺が一式とぶつかろうとなかろうと、俺の股間からはどのみち竜が生えてきたって事か?
いや逆に言うとだ。俺の言葉に関係無く出現する部位を選べたって事は、何も股間から出てくる必要は全くなかったってわけだ。要は、全部龍彦の匙加減次第だったってわけだ。
はは、なるほどな……。
「テメェマジ殺す!」
「いいじゃねぇかここまで勝ち残れたんだから! それにお前もお前だぞ! せっかく今回のバトルロイヤルには滅茶苦茶可愛い子がたくさんいるのに、よりによってデブスとかいう女とセxxxしやがってよ! 女ならだれでもいいのかお前! 俺のときは全然可愛い子いなかったんだからな!」
「うるせぇ自業自得だろボケ! それに割と気持ちよかったんだから別にいいだろ!」
「美女のアソコとデブでブスのアソコじゃ雲泥の差なんだよ! お前は気持ちいかもしんねぇけどな、俺すげぇしんどかったんだぞ! お前チ〇コの気持ち考えたことあんのか!!?」
「だから自業自得だろうが!!」
世にも奇妙な、元親友にして自分のチ〇コとの大喧嘩。
人間界、異世界、神の間……世界中どこを探しても、ここまでくだらない喧嘩は存在しないだろう。
「はぁはぁ……竜騎」
「ぜぇぜぇ……なんだよ」
「新しい能力の説明していい?」
なんてマイペースなんだろうかこの男は。脈絡とか段取りとか、そういうものはないのだろうか。
ん? というか、新しい能力って?
「今、俺が外に出たことで、俺とお前の体は『竜人化』している」
「竜人化? ……ってうお! なんか俺の体も白く光ってる!?」
龍彦の体と同じように、俺の全身も伝説の竜の白いエネルギー(これが魔力?)に覆われていた。
「竜人化した事で、能力も今までのものとは別物になる! ざっくり言うとこんな感じだ!」
竜人化
・身体能力が飛躍的に上昇する。
・魔力が尽きぬ限り、ライフが自動回復する。
・異能、魔術、物理攻撃の被ダメージを50%カットする。
・伝説の竜の魔力を使った攻撃が可能。
「どうだ! すげぇだ……いでで! なんで自分の股間に俺の顔をうずめようとしてんだ竜騎!」
「さっさと俺の股間に戻れ龍彦!」
「な、なんでや! すげぇいい能力じゃねぇか!」
下手クソなエセ関西弁にイラつく俺。
だが確かに、能力自体はぶっ飛んでると思う。全てにおいて隙が無く癖が無い。扱いやすさも申し分ないと思うが……
「オートガードがあればライフ自動回復も、被ダメージ50%カットもいらねぇ。防いじまえば、ライフは減らねぇし、ダメージなんて100%カットなんだしな!」
「でも攻撃手段がドラゴンフレイムしかねぇだろ! 火力はすげぇが、攻撃技が一つってのは流石にバリエーションが少なすぎる! 倒せるもんも倒せねぇだろ!」
「ドラゴンフレイム? ドラゴンブレスじゃなかったっけ?」
「お前途中からずっとドラゴンブレスって言ってるけど、ドラゴンフレイムだからな!」
「知らねぇどっちでもいいんだよ! とにかく戻れ龍彦!」
「忘れたのか竜騎!? 零寿って奴の能力がある限り、オートガードは使えねぇ!」
「あ……」
ごめん。完全に忘れてたわ。
「オートガードは竜になった部分は無敵だけど、それ以外はほぼ生身に等しい。対して竜人化なら、全身の細胞が竜と化してるから滅茶苦茶頑丈だし、しかもダメージを50%カットしてくれる。零寿の弾丸を食らっても致命傷にはならねぇ」
「確かに、竜人化さまさまだわ」
「だろ? よし、やるぞ!」
俺と龍彦は再び、四天王の方へと向き直す。
「……ウチらは何を見させられてたんだ」
「ガハハ! 死んでる時間以外に無駄な時間ってあるんだなぁ!」
「……とにかく、伝説の竜の正体はあの愛染龍彦という男だった……という事だな」
「そうねぇ、それに彼も異世界転生者だったみたいね。まぁ……後半は本当不要な情報ばっかりだったけどぉ」
散々な言われようである。
久しぶりに再会した親友同士のハートフルなやり取りは、どうやら魔族にとって退屈なものでしかなかったらしい。おのれ、血も涙もない魔族め。
「いや、誰が見ても不毛なやり取りだったわよぉ、あれ……」
俺の心を読んでいるかの如く、ドンピシャなタイミングで真っ当なアンサー返してきたキル。
誰が見ても不毛なやり取りだと? 僕もそう思います。
「あーなんかグダったわ。流石にウチももう待てねーから、ぶっ潰すけど……構わねぇな?」
黒い大剣を片手でブンブンと振り回すシータ。
いや、なんかすいませんね。お待たせしました。
「構わねぇよ、今の俺たちに勝てるならな」
俺は最大級にカッコつけた表情でそう言い放った。
こうして俺&愛染龍彦VS魔王軍四天王の戦いの火蓋が切られた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、龍彦と協力して四天王と戦います。




