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夜⑩ 愛染龍彦VSベクター

パワー系対決


「勝てるなら? はっ、ウチらの事舐めすぎだろ」


「ガハハ! まぁさっきより強くなったみてぇだし、楽しませてくれよ? 2人共」


 口角が上がるのを抑えきれない様子のシータとベクター。どうやらこの2人は、四天王の中でもかなり好戦的な性格らしい。


「ふふっ。頑張ってねぇ2人共。あ、零寿れいじゅ。貴方はまだ参加しなくていいわよぉ。私と一緒に見学、いいわねぇ?」


「僕が? 何故だ」


「ふふっ。ちょっと気になる事があってねぇ。あんまり早く決着を付けたくないのよぉ。貴方がいるとすぐ終わっちゃうしぃ、それにシータとベクターがいれば十分でしょ?」


 キルはそう言いながら、俺の方を一瞥する。なるほど、どうやらキルは()()()()()()()()に気が付いているようだ。まぁ流石に具体的に何かまでは分かっていないとは思うが。どの道、戦いを引き延ばされると困るな。


「龍彦。どっちと戦う?」


「んー。じゃあ俺はあっちのマッチョ。お前は女の方を頼む。俺、女の子殴るとか無理だし」


「まるで俺なら女を殴れるとでも言いたげだな。お前、俺の事なんだと思ってるの?」


「相手が誰でも容赦しない鬼畜外道な男。また、卑怯でもある」


 コイツ俺の親友だよね?

 えげつない悪口の連続に心が折れそうになった。

 

「じゃあウチはアンタとだな! よろしく頼む……わ!」


 高速で俺との距離を詰め、黒い大剣を俺目掛けて振るうシータ。

 だが竜人化りゅうじんかの影響か、今の俺にはシータの動きがなんとなく追って見えた。

 俺は素早く振るわれた大剣をいなし、軌道を逸らした。


「おっやるねぇ! そうこなくちゃーよぉ!」


 1秒未満の間に何十回の斬撃という桁違いな攻撃回数。

 俺はそれをなんとか躱しながら、龍彦たちから距離を取る。

 取り敢えずコイツは俺が倒す。そっちは頼んだぜ、龍彦。



--------------------



「ガハハ! そんじゃ俺らも始めるとすっかぁ!」


 人間の倍の大きさはあるであろうベクターは、その巨体に似合わぬスピードで龍彦の元へダッシュし、鋼の如し拳を繰り出した。


「(はっえ! けど、動きは案外単調だな)」


 龍彦は最低限の動きだけで、ベクターの拳を躱す。同時に、拳の勢いを利用して一本背負いをお見舞いする。


「がっはぁ!?」


 高速で地面に投げ倒されるべクター。竜人化りゅうじんかした龍彦の投げ技の威力は、小さなクレーターと地割れを生み出すほどだった。


「うおっ! 我ながらすげぇ威力だな!」


 クレーターの中心に頭からめり込んだベクターを見て驚きの声を上げる龍彦。

 あっけなく終わったかと思われた直後、クレーターに巨大な亀裂が入り始め、ベクターが顔を出した。


「ぷっはぁ! ガハハ、やるなぁ小僧!」


「アンタこそ、今の食らってピンピンしてるとか……バケモンかよ」


 凄まじい威力の一本背負いだった事は一目瞭然だが、ベクターに効いている様子は無かった。


「ガハハ! 俺は頑丈さと豪快なのだけが取り柄だからなぁ! それより、お前相当つえぇだろ。いい筋肉してるしよぉ、見た感じ複数の武術に精通してやがるな?」


「おう、無理矢理習わされただけだけど、体力と腕っぷしには自信あるぜ。まぁ勉強の方はからっきしだったけどな!」


「ガハハ! 奇遇だな俺もだ! 魔力量には自信あるんだが、魔術の方はさっぱりだ」


 同時に大声で笑いあう龍彦とベクター。


「俺の相手がお前でよかったぜ。龍彦……だったか? お前、小間より全然つえぇだろ?」


「竜騎より?」


「ガハハッ、そうだ! お前と違ってあいつの動きはてんで素人だ! 格闘センスもお前の方が遥かに上だしな」


「まぁ、確かに格闘技の試合とかだったら俺が勝つとは思うけど……」


 頬を軽く掻きながら、何故か苦笑いを浮かべる龍彦。


「確かにあいつも喧嘩はそこそこ強いけど、なんつーか、あいつの強さの本質はそこじゃねーんだよな。ベクターだっけ。確かにアンタ、俺が相手でよかったかもな」


「お?」


「俺も軽口の叩き合いならアイツとよくやったもんだけど、マジの喧嘩は一回もした事ねぇ。竜騎とやりあったら、マジで何されるか分かんねーからな。下手したら殺されるだけじゃ済まなそうだ」


 何かを思い出して顔色を悪くする龍彦。それを見たベクターは豪快に笑いだす。


「ガハハ! おいおい、その辺のチンピラ相手ならまだしも、俺たちぁ泣く子も黙る魔王軍の四天王だぜ? 多少加減を知らねーくらいのレベルが通用する相手じゃねぇよ」


「そうか。まぁそれならいいんだけど……な!」


 ドンッ! と、爆発的な脚力でベクターの元へ詰め寄る龍彦。

 そして、それとほぼ同等の速度で突進するベクター。


「オラアッ!」


 交わる2人の拳。

 両者の拳が互いの顔面を捉える。


「ぐっはぁっ!!?」


 そして、龍彦の体が大砲のような勢いで何十メートルと吹き飛ばされた。


「ガハハ! まだまだこんなもんじゃねぇぜ! 龍彦ぉ!」


「(なんだこのクソ重てぇパンチ!? 竜人化した俺の体にここまで……!!)」


「俺は魔術の才能はこれっぽっちもねぇからよ! 力任せに殴るしか能がねぇ! けどな、その分魔力量は強大でな」


 ベクターはそう叫ぶと、何もない空間を殴りつけた。

 2発、3発……何度も殴りつけるうちに、大気がガラスのように割れ始める。


「膨大な魔力を注ぎ込んだ大気は、空気を入れ過ぎた風船みたいに破裂する。こんな風にな!」


 腕を引き、渾身の一撃で大気を殴りつけるベクター。

 すると大気が巨大な爆発を起こし、割れた大気の破片が爆風と共に龍彦に襲い掛かる。


「な、なんだそのよく分かんねぇ攻撃は!?」


 龍彦はなんとかその爆風と無数の大気の刃を躱す。


「ガハハ! そらそらもっといくぞぉ!!」


 目にも止まらぬ速度で、無数の拳の連撃を大気に繰り出すベクター。

 すると龍彦の周囲で、火薬を用いた爆発とは違う不可思議な爆発が大量に発生する。


「どわぁっ! なんじゃこりゃ!?」


 爆発する直前に空間が捻じ曲がり、独特な破裂音と共に爆発する。現実離れした光景だが、とにかく躱すことで精いっぱいな龍彦。

 その隙に、一瞬で龍彦の元へ詰め寄り、渾身のボディーブローをお見舞いするベクター。


「ごっっぱぁ!?」


 あまりの速度と威力の拳に、上空に数百メートルと吹き飛ばされる龍彦。


「ガハハ! そんじゃトドメだ」


 ベクターは片足を頭上に上げ、地面に思い切り打ち落とす。

 たった一発の蹴りで地面は亀裂を走らせ、大きく陥没するが、それだけじゃない。

 龍彦の上方の空間がぐにゃりと曲がり、不可視の何かによって地面に叩きつけられる。まるで鎚に叩き潰されたかのように、地面が大きく陥没する。


「(なんだこの出鱈目な攻撃は……。攻撃パターンが全く予測できねぇ。クレアちゃんとかいう女の子がやってた、拳圧で衝撃波を生み出してたアレに近い攻撃って事か?)」


 小間の股間からこれまでの戦いを見ていた龍彦は、最も系統の近い攻撃に当てはめてベクターの攻撃を分析するが、それでもいまいちしっくりは来なかった。


「ガハハ! もしかして俺の攻撃を分析してんのかもしれねぇが、そりゃ無理な話だぞ? なんせ、俺も何が起きてるかはよく分からねぇからな! ガハハ!」


「……ったはは! マジで脳筋だな、ベクター!」


「ガハハッ、否定は出来ねぇな!」


 竜人化した龍彦以上の魔力量を持つベクター。その魔力は魔王軍の中でも海藤に次いで高い。

 だが、魔力を多種多様な用途に用いる海藤に対して、ベクターがやっているのは原始人がこん棒を振り回すようなもの。ただの力技だ。ただ、そのこん棒を振り回している者の力があまりにも強く、こん棒があまりにも大きいだけ。だが、魔力がこん棒と違うのは、魔力が自然や精神……万物に干渉する力を持っている事。少量では何も起こらずとも、そんなものを大量に出鱈目に振り回せば、当然不可思議な現象が起こる。

 ベクターはそれを無意識で行い、攻撃へと転換させているのである。魔術の才能が無いと豪語しているベクターだが、魔力を使ったこんな攻撃方法はこの男にしか行えない。これもまた一種の才能である事を、ベクターは全く自覚していなかった。


「はぁ……だけど俺も人の事は言えねーな。相手の分析なんてのは、竜騎みたいな小狡い奴がやればいいんだ。俺はバカだからガラにもねぇ事するんじゃなかったぜ。まぁ、竜騎もバカだけどな! ったははは!」


「ガハハ! んじゃ、どうするんだ?」


「ちまちま考えんのはやめだ! ここは男らしく、真正面からの殴り合いといこうぜ! ベクター!」


「……いいなぁ。最高だ龍彦。マジで気に入った」


 その声は今までのベクターとは違っていた。どこか優しさを含んでおり、柔らかい。だが、その声とは対照的に、ベクターの表情はまるで餌を見つけた空腹の獣のようだった。嬉々としており、鬼気迫る表情だった。


「ガーーハハハハハッ!! どちらかがぶっ倒れるまでタイマンと行こうぜぇ! たつひこおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 今まで以上に豪快な笑い声と共に、これまでとは桁違いの速度で龍彦へと突っ込むベクター。


「上等だオラああああああぁぁぁぁぁっ!!」


 負けじと叫ぶ龍彦。ベクターと同じように高速で特攻する龍彦。

 2人の強者が交わり、そして……


「「オオオォォアアアァァッッ!!」」


 言葉にならない叫びと共に、怒涛の勢いで殴り合う2人。

 今の2人に攻撃を避ける、ガードするといった考えはない。

 真っ向勝負の泥臭い殴り合いだ。


 龍彦とベクターが殴り合うたびに、大気が震え、爆発する。

 2人の戦いで発生したハリケーンのような衝撃波は、森を吹き飛ばし、大地を削り取っていく。


「がハハハハハ!!! どうしたたつひこおおおおっ!! パンチ一発の重みなら俺の方が上だぜえええええっ!!? もっと楽しませろおおおおおっ!!」


「ぐっっ!! 舐めんなコラアァ!!」


 龍彦も負けじと、ガトリングガンのようなパンチラッシュを浴びせる。

 だが……


「(クソッ! マジでバケモンだコイツ! このガタイでぶっ飛んだ魔力量……そりゃ強いに決まってるよな……けど折れねぇ! 喧嘩ってのはなぁ、折れなきゃ負けはしねーんだよぉ!)」


「ガハハ! パンチ力が上がってやがる! いいねぇ! いいぜたつひこおおお!!」


 さらに勢いを増す2人の戦い。

 ほぼ互角に見えた戦いだったが、突如、状況が一変する。


「なっ……!? 足が!」


 龍彦の方がダメージに耐え切れず、ついに体勢を崩してしまう。


「ガハハハッ! 終わりだぁ!」


 崩れ落ちた龍彦の顎に、トドメのアッパーを繰り出すベクター。

 しかしアッパーが当たる直前、龍彦は全力で跳躍し、ベクターの顎に頭突きを食らわせた。


「ごぱぁっ!!?」


「やっと顔がいい位置に来たぜ。お前デカすぎんだよ」


 龍彦は跳躍したままベクターの両耳を持ち、空中で前転……そのままベクターの背後に着地し、腰に腕を回してクラッチする。


「な、何を!?」


「ジャーマンスープレックスじゃボケェ!」


「ッッッ!!!」


 龍彦は凄まじい勢いで体をブリッジさせ、ベクターを反り投げた。

 あまりの衝撃に大地が割れ、爆発的な衝撃波が発生した。


「がっふ……! ガハ、ハ……やるじゃねーか、龍彦ぉ」


 竜人化した龍彦の膨大な魔力と腕力で、後頭部を地面に叩きつけられたベクターは、身動き一つ取れない様子だった。


「へっ。アンタもなベクター……」


 決着が着いたことで安堵したのか、尻もちをついて地面に崩れ落ちる龍彦。


「がはは……こんな事なら、回復魔術くらい、覚えとけばよかったぜ……超回復は、好きなんだけどなぁ。がはは」


「ベクターお前もしかして……筋トレ好き?」


「がはっ……このガタイで筋トレしてなかったら……なんなんだよ」


「ったはは! 確かにな……」


 互いに笑いあう龍彦とベクター。

 龍彦は力を振り絞ってなんとか立ち上がり、手を差し伸べる。


「次会ったときゃまたケンカしようぜ。あと筋トレも」


「ガハハッ! どうかね、次なんてものがあればいいが……」


「あるさ。ここにいる俺もお前も一回死んでるんだしよ」


「ガハ……ハ……それも、そ、う……」


 意識が途絶えたベクター。

 そして、ベクターの体が青い炎に包まれて灰になり、消えていった。


「ふぅー……。お前とは普通にダチとして出会いたかったぜ」


 消えた灰を虚ろな目で眺める龍彦。


「さぁーて。竜騎の方はどうなったかな」


 龍彦は重い足取りのまま、竜騎たちが消えていった森の方へと歩いて行った。




お読みいただきありがとうございました。

次回、小間VSシータ!

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