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夜③ 予定変更

まさかの


「……つまり、小間が前世で振るった暴力が原因で、蟻道……海藤は悪魔に目覚めたと?」


「あぁ」


 自室にて。

 俺、小間竜騎は万丈龍之介に、海藤との前世での因縁を掻い摘んで説明した。

 万丈は、深刻な表情で俺を見ていた。


「海藤を快楽殺人鬼にし、史上最悪の異世界転生者にし、世界を滅ぼす魔王にしちまったのは全部俺のせいだ。つまりだ万丈、お前の故郷が海藤に滅ぼされたのも、俺のせいなんだよ」


 俺は言葉を選ばず万丈に語り掛ける。前世の海藤は自分の抱える悪意を吐き出す術を知らなかった。その重圧に耐え切れず、自ら死を選ぼうとしていた。だが、その悪意を封じ込めていた理性という蓋を、俺が開けてしまったんだ。


「許せないだろ。俺の事。俺があんな馬鹿な真似していなきゃ、海藤は勝手に死んでたんだ。お前は何も失わずに済んでたんだよ」


「……確かに、お前は馬鹿だよ。小間」


 しばらく無言だった万丈が、重たい口を開く。


「そんなもの、小間のせいな訳ないだろ。小間には何の罪もない」


 殴り殺されても文句は言えないと思っていた。だが、万丈から返ってきた反応は予想外のものだった。


「前世で海藤は死のうとしたと言っていたが、本当にそうか? あの気まぐれな男が有言実行する保証などどこにもない」


「だが、俺があいつを殴ってなきゃ……」


「確かに、小間のした行為は決して褒められるものではない。だが、仮にあいつがお前と出会わずにその後を生きたとしても、恐らくアイツは今のような悪魔になっていたと思う」


 万丈は俺の目をまっすぐ見てそう言った。


「……そんな事、お前に分かんのかよ」


「さぁな。だが、それは当時の小間も同じだろ? 自分が殴った男が、世界を滅ぼす魔王になってしまうなんて、分かる筈もない」


「……」


「過去は取り戻せない。だが、未来は変えられる」


「はっ……。くっせぇ台詞だな」


 俺はそう毒づいてみるも、その言葉にいつもほどの力はなかった。

 万丈はそんな俺に微笑みながら話を続ける。


「俺だって、奴を倒す為の旅でいくつもの取り返しのつかない過ちを犯した。たくさんの大切な人を失った。そして小間、お前が話した通りなら、海藤はお前の親友を……」


「あぁ」


 愛染龍彦あいぜんたつひこ。俺の親友は、快楽殺人鬼と化した海藤に殺されたらしい。

 3回戦終了直前に俺の頭に流れてきた記憶は、俺と海藤、そして龍彦の3つの視点から映し出されたものだった。だが、俺と海藤なら分かるが、何故龍彦の視点でも記憶が再生されたのだろうか。そこは少し疑問が残るところではあるが。


「俺も小間も、海藤に大切なものを奪われた。奴が再び異世界に転生したら、きっと同じことを繰り返す。俺と小間の手で、未来を変えるぞ。海藤と砂肝を倒してな」


「……いい奴だな、お前」


「そんな事はないさ。普通の事だ」


 いいや、普通じゃない。自分の大切なものを全て奪った悪魔、そいつをを生み出した原因となる人間が目の前にいるってのに、万丈の目は穏やかなものだった。確かに直接的な原因では無いかもしれないが、それでも大切なものを失った人間からすれば、俺がその仇の一つに見えてもなんら不思議じゃない。何かを失った人間ってのは、あらゆる方向に憎しみの矛先を向けてしまう。だが万丈にはそれがない。全く、大した精神力だ。

 もっとも、俺の方はそうでもないがな。


「……万丈」


「なんだ」


 俺はある事を決意し、万丈にそれを話すことにした。

 俺がいつどうなるか、分からないからな。


「もしも、俺と……」


『プレイヤーの方々に連絡です』


 すると直後、女神の透き通るような声のアナウンスが部屋全体に流れ始めた。


「なんだ、タイミングわりーなあの女」


 水を差されて若干イラつく俺。

 だが、次の女神の言葉で、俺の小さな怒りはどこかへ消えてしまうこととなる。


『明日の昼に行う予定だった4回戦ですが、急遽予定を変更し、今から1時間後に行う事となりました。1時間後、白いドアを通った先で待機していて下さい』


 どこまでも冷たく非常な声。

 それは、未来を変える為に必死で足掻く俺たちを、嘲笑っているかのように聞こえた。




お読みいただきありがとうございました。

次回、予定より早めの4回戦開幕です。

でも夜に戦うという事は……。

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