昼㉑ 生存者
小間、参上!
『プレイヤーの皆さんにお知らせです。たった今、1名の脱落者が出ました。プレイヤーは残り7名です』
時は少し遡り、俺、小間竜騎がジョーカーである一式和人を倒したときの事。
「今ので残り7人か。しかしこれからどうするか。万丈から連絡はこねぇし……もうゴールしちまおうかな」
俺は既にターゲットを入手している為、このまま自分のスタート地点に戻ればゴールとなり、晴れて4回戦進出が決定する。
「生き残る為なら、余計な戦闘はしないのが吉だが……」
俺はなんとなく、一度協力すると約束した万丈を裏切る気にはなれなかった。
しばし、ぼーっと空を眺めながら考える俺。
「仕方ねぇ。こっちから連絡してみるか」
俺はテレパシーで万丈へと繋ぐ。
「(おーい万丈。こっちは片付いたぞ。そっちはどうだー?)」
「(小間か! マズい事になった……。紅が海藤に負けたみたいだ)」
「(おいおいマジかよ。あの戦闘狂メスゴリラが……)」
「(このままでは紅が殺されてしまう! 時間がない! アレを使うぞ!)」
「(は、今!? ちょっと待て!)」
「……いいか。3秒後だ。チャンスは一度きり! 行くぞ!」
「(お前それ口に出して喋ってね!? あーもう、分かったよ!」
俺はガドストを使って、紫のオーラで刀を作り上げる。
そして、万丈からの合図を待つ。
「(今だ!)」
万丈の合図と共に、俺はガドストのワープ能力を使う。
ワープ先は、海藤の背後。
よし。いい位置に投げてくれたな、万丈。
「……えっ!? 海藤ぉ!!」
俺がワープして現れた瞬間、見知らぬ女が必死に叫ぶが、もう遅い。
俺は、海藤の首筋目掛けて刀を振るう。
そして、海藤の首を跳ね飛ばした。
「海藤っ!!」
見知らぬ女が再び叫ぶ。
その瞬間、万丈が目にも止まらぬ速度で、その女の元へと詰め寄る。
「しまっ……!」
「余所見をするな、アリサ」
「がっ!? ぎゃあああぁ!!」
そう言った万丈は、黄金の剣でアリサと呼ばれた女の胸部から腹部を一刀両断した。
ん? というかアリサって、確か万丈の幼馴染の名前じゃなかったか?
「……カイン……」
致命傷を負ったアリサの体が、徐々に砂になって崩れ落ちていく。
「……ごめんね……」
アリサはそう言い残し、砂になって消えてしまった。
「おい万丈。何がどうなって……」
俺はそう言いかけるが、万丈の瞳に滲む涙を見て、言葉を止めた。
「……すまない。海藤はどうなった?」
「あぁ。あれ見ろよ」
万丈の視線を促す俺。
その先には、アリサと同じように砂になって消えていく海藤の姿があった。
「やった……のか?」
「まぁ、ご覧の通りちゃんと消えてる訳だし、流石に倒せたんじゃねーのか?」
一式の野郎は、ジョーカーの能力でこの状況からも一度復活を果たして見せたが、流石にあんな能力は何個もないだろう。
「こかんちゃん……。え、今どっから出てきたの?」
俺の横からひょこっと顔を出すロリっ子の桃木。
どうやらこのロリっ子の中で、俺の名前はこかんちゃんでエントリー済みらしく、本名を呼んでもらえる気配はなさそうだ。
まぁ、そんな事は置いておいてだ。
これは万丈と別行動を取る前に立てておいた作戦だ。上手くいって本当によかった。
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万丈と別行動を取る前の、作戦会議にて。
「あ、ちょっと待ってくれ。色々思いついたことがあるから、話させてくれ」
「あぁ。聞こう」
「このガドストのワープ能力は、不意打ちにかなり適している。もし、お前だけが海藤と鉢合わせてしまった場合、状況がやばくなったら俺を呼んでくれ。不意打ちで海藤の野郎を仕留めてやる」
「それは最悪の場合だな……できれば奴は魂ごと消し去っておきたい」
「いや、一番ヤバいのは海藤を優勝させて異世界に転生させちまうことだ。だが、手段を問わずこのバトルロイヤル中に奴を倒しておけば、モンスターとしてこの神の間に永遠に閉じ込めておける。生かしておくよりはマシだろ?」
「……分かった。だが、その異能は一度接触した者にしかマーキングできないんだろう? ということは、その時は俺の元へワープして、海藤に不意打ちを仕掛けるということか?」
「いや、マーキング対象は俺自身だ」
「何を言っている?」
頭に疑問を浮かべている万丈。
まぁそりゃそうだよな。順を追って説明するか。
「このガドストは、相手の体の一部にでも接触すればマーキングすることができるんだ。まさにストーカーと称すべき異能だな。そして、体の一部をワープ先として指定することができるんだよ。例えば、髪の毛とかな」
「そうなのか?」
「あぁ。だが、ワープ先としてカウントできるものが2つ以上あると、ワープが機能しないらしい。だから、例えば俺が万丈にマーキングして、お前が髪を1本取って海藤の近くに飛ばしたとしても、俺は海藤の元へはワープできない」
「なるほど。そして、お前がその異能を手に入れてからは海藤とも接触していない為、海藤の元へ直接ワープすることもできない……か。ではどうする?」
「要はワープ先として判定されるものが髪の毛1つならいい。という訳で、俺の髪の毛を1本お前に渡しておく。この神の間では、本体から離れた体の部位は消えてなくなってしまうらしい。だから、黄金の炎で消えないようにして持っててくれ」
俺は髪の毛をプチっと1本取って万丈に渡す。万丈は微弱な黄金の炎を髪の毛に纏わせる。
「それで自身にマーキングということか。だが、異能の使用者とマーキング対象者が同じ人間の場合、ワープは成立するのか?」
「それを今から試す。適当なところに今渡した髪の毛を置いてみてくれ」
万丈は適当に髪の毛を投げる。
すると、数メートル先のアスファルトに、俺の髪の毛がダーツのように突き刺さった。
「え、お前すご。髪の毛ってそんなまっすぐ飛ぶんだ」
「少し魔力を使って飛ばしたからな。それより、早くやってみろ」
「はいはい」
俺はワープ能力を発動する。
そして見事、突き刺さった髪の毛の元にワープすることに成功した。
「よし成功だな。じゃあいざってときはテレパシーで連絡よろ」
「あぁ。しかし、この短時間でよくそんな事思いついたな」
「不意打ち、騙し討ちは俺の得意分野だからな」
「そうか。そういえば、色々と思いついたと言っていたが、他にもあるのか?」
「あー。作戦ってほどでもないが、もう一つ、万が一の時に……」
俺は万丈としばらく話した後、別行動を取った。
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「こうして、髪の毛ワープ作戦が成功したって訳だ」
「ばんじょーありがとー。ダメージ治してくれて」
「気にするな。おい小間、そこで拘束されている紅をこっちに連れてきてくれ。ライフを回復させる」
「全然聞いてねぇ……。はいはい分かりましたよ」
俺は、不気味な柄の十字架(?)に鎖で磔にされたクレアを開放する。しかし、案外簡単に解放できたな。このメスゴリラを拘束してるからどんな頑丈な鎖なのかと思えば、想像以上に脆かった。外部からは簡単に壊せるようになってるのだろうか。まぁ知らんが。
「しかし全く。お前にはこのプレイは早すぎだろ……クレア。磔プレイは中々マゾ向けだぜ?」
いつも通りの冗談を言うが、クレアからは反応がない。
「あれ、気ぃ失ってんのか?」
「海藤の奴に相当酷い目に合わされたようだ。無理もない」
「あの野郎……100発くらい殴っときゃよかったぜ」
ん? なんで俺がこんなにイライラしなきゃいけないんだ。自分の事でもないのに。あほくさ。
しかし、こいつ……。俺は、目を閉じたクレアの顔に思わず見惚れてしまった。
「こいつ喋んなきゃマジで可愛いな。一生白雪姫でいいのに」
「こかんちゃん、その発言は結構さいてー」
「それは悪かったな。狂ったように踊りまくるから許してくんねー?」
「3回戦前にやってたレベルの低いダンスのことー? いいよやんなくてー。かっこよくも面白くも無いし、やめなー」
「……ウッス」
少しだけ傷ついた。
まぁ冗談は置いておいて。話題を変えて、俺は少し気になったことを話してみることにした。
「しっかし、少し前に流れたアナウンス通りなら、今ので2人減って、生き残りはあと5人か?」
「あぁ。ということは、ここにいる4人以外に誰か1人生き残っていることになるな」
「ばんじょーの話だと、かいどうちゃんにでーぶとぎゃるぅが倒されちゃったんだよねー?」
でーぶとぎゃるぅって……あぁデブスと砂肝の事か。そうか、あいつら海藤に倒されちまったのか。なんか、少し複雑だな……。
「……あ? ちょっと待てよ」
俺は妙な違和感を覚えた。
「どしたのこかんちゃん」
「俺はここに来る前に一式……空木勇馬を倒してきたんだが……」
「ゆーまちんを……そうなんだ」
「その空木が、ミコトを倒したって話をしてたんだが……おかしくねぇか?」
「天上ミコトがやられた……!? そんな……」
何故か項垂れる万丈。昨晩もそうだったが、お前そこまで面識ないだろ……。何をそんなにオーバーリアクションしてるんだか。って今はそれはいい。
「海藤とアリサを倒す前に流れたアナウンスだと、生存者は7人だった。だが、アナウンス前に倒されたのはデブス、砂肝、ミコト、空木の4人だ。これだと、アナウンスで言っていた生存者は6人じゃないとおかしい」
「えっ。なにそれー。こわいんだけど」
ゆったりとはしているものの、少し緊張を感じる声色で桃木がそう言った。
すると、続いて万丈が口を開く。
「いや待て、確かそのアナウンスの前に、プレイヤーの1人がゴールしたというアナウンスが流れていたよな? もし生存者というのがゴールしたプレイヤーも含めるのなら、俺たち4人とゴールした1人で合計5人。海藤とアリサの2人を倒す前の生存者が7人でも間違いはない」
「だがそうなると、ゴールしたのは誰なんだ? 俺たち以外のプレイヤーでゴールできるのはデブス、砂肝、ミコト、空木の4人しかいない。だが、こいつらは全員他プレイヤーの手で倒されている。つまりだ……」
「誰かが死を偽装している……というのか?」
しばし流れる沈黙。一体何がどうなってやがる。
この不気味な沈黙を破ったのは、問題のタネとなった女神のアナウンスだった。
だが、このアナウンスにより、俺たちは更なる混乱の渦に陥る事となる。
『プレイヤーの皆さんにお知らせです。たった今、1名の脱落者が出ました。プレイヤーは残り6名です』
「6名だと……バカな」
「ちょっと待って! なにがどうなってんのこかんちゃん!」
「……6人。死を偽装した一人に加えて……っ! 海藤かアリサのどっちかがまだ生きてやがる!」
クソ! だがあいつらが砂になって消える姿は、この目で確認したはず! どうして生きて……。
ふと、俺はまた妙な違和感を覚えた。
「クレアを拘束していた磔……。恐らくあれは、海藤がなんらかの魔術で呼び出したもの。なら……海藤が死んだ時に、一緒に消えるはずじゃないのか……」
「まさか、海藤が生きて……小間! 桃木!」
突如、万丈はそう叫ぶと、俺と桃木、クレアの3人を抱えて一瞬でその場から距離を取る。
直後、俺たちが立っていた場所が、ドゴッという重たい音と共に、球状に抉られた。
「攻撃!? どっから来やがった!?」
「雷属性魔術・紫電一閃!!」
万丈は俺たちを話すと素早い動作で剣を構え、何もない空間に向けて雷の斬撃を放った。
だが、雷の斬撃はバチィッ! という音と共に何かに弾かれた。
すると、雷の斬撃が弾かれた場所から、徐々に半透明の何かが浮かび上がってきた。それは、徐々に俺たちの目にも見えるようになっていった。あれは、人の姿……か?
「やはり海藤の野郎か……?」
「残念ねぇ。海藤じゃないわよ」
何もない空間から姿を現したそいつは海藤ではなく、先ほど万丈に倒されたはずのアリサだった。
「お前は、アリサッ!? バカな……さっき俺が倒したはず……」
「ふふっ。さぁ、お楽しみはこれからよ……」
姿を現したアリサは不敵に笑い、そう言ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、ごちゃついた謎たちが色々明らかに…!?




