昼㉒ 人形遊び
魔王キルの本当の正体は…。
『プレイヤーの皆さんにお知らせです。たった今、1名の脱落者が出ました。プレイヤーは残り6名です』
バトルロイヤル3回戦。
女神のアナウンス後、俺たちの前に現れたのは、万丈龍之介が倒したはずのアリサだった。
「ふふっ。さぁ、お楽しみはこれからよ……」
「アリサ、お前どうして……?」
「魔王キル、生きてたんだね……」
突如現れたアリサを前に驚きを口にする万丈と桃木。
だが、大して説明を受けていない俺は、万丈と桃木でアリサの呼称が違う事に少し混乱した。
「ちょっと待て桃木。魔王キルってどういうことだ? あいつは……」
「鳥皮好実の前世は俺の幼馴染のアリサ。だが、アリサは魔王キルを操っていた張本人だったんだ」
「それで、アリサは自分が操る人形の姿になることができるんだってー。だから、あの銀髪の魔女みたいな姿は魔王キルのものなんだってー」
「……すげぇややこしいが、あいつは魔王キルの姿をしたアリサ……ってことでいいんだな?」
「あら違うわよ。アリサは確かに、そこの勇者サマに殺されたわ。さっき死んだのは間違いなくアリサ、私は魔王キルよ」
さらっと訂正するアリサ(?)。
もうなにがなんだか……。
「魔王キル、テメーは一体……」
「そうねぇ。もうお遊びは飽きたし、教えてあげるわ」
その直後。
アリサの体がゴオォ……と、小さな砂嵐に覆われる。やがて、空気を切るような鋭い風の音が小さくなっていき、砂嵐が消えると共に、中からある人物が姿を現した。
「……は? お前は……」
「やっほー。久しぶりにアンタのアホヅラみたわぁ、小間竜騎」
「砂肝汐里……」
砂肝汐里。
そこで倒れている紅クレアの友人であり、栗色の髪が特徴的なギャル子。
「お前が魔王キルだってのか?」
「そうそう。私の前世は魔王キル! よろしくね☆」
これまでの中でも、一際高いテンションの砂肝。
だが……
「万丈の話だと、お前は海藤に倒されたって聞いたんだがな……」
「いやいや! 確かにデブスと一緒にいるときに海藤に襲われたけど、一応仲間だしぃ? 流石に殺されるワケないじゃーん」
「……バカな、どうなっている」
砂肝の言葉に、驚きを隠せない様子の万丈。
まぁそれについては、俺も桃木も同感だ。
「じゃあ、アナウンスで女神が言っていた脱落者2人ってのは何なんだよ」
「あーあれねぇ。私も驚いたよ。海藤がデブスを倒したタイミングで、ちょうど別のプレイヤーが1人倒されたみたい。タイミング凄いよねぇ。まぁ誰が倒されたのかは知らないけどぉ」
どうやら偶然タイミングが一致しただけのようだ。
と、なるとあの時アナウンスで言っていた2人というのはデブスとミコト、ということか……。
それと同時に、俺は一式の野郎が死に際にこんな事を言っていたのを思い出す。
『お前と海藤はなぁ!! 奥が全く見えねぇ真っ暗な目ぇしてやがる!! 本物の悪の目だ!! そして、あの女も!! お前らと同じ目ぇしてやがる!! あぉ砂ぎゃっ!』
俺と海藤と同じような目をした女。あの時はスルーしちまったが、奴が最期に言いかけた「砂ぎ」という言葉。奴の口が砂になってしまった為、最後まで聞き取れなかったが、あれは「砂肝」と言おうとしたんじゃないだろうか。てっきり、自分の体が砂になって消えてしまうことに絶望して「砂がぁっ!」みたいな感じで言ったのかと思っていたが。
「一式……空木の野郎、何をされたんだか……」
「へぇー。小間、空木勇馬の正体知ってるんだ。ってことは、あいつを倒したのってアンタ?」
どうやら砂肝も、空木の正体が一式である事を知っているらしい。
「そうだ。つっても、自爆させただけだけどな」
「へぇそうなんだぁ。あの異能オバケを倒すなんて。どんな手使ったんだか。ま、海藤に化けて私を襲うような後先考えない変態だしぃ、本人自体は大したことないんだろうけどぉ」
そうか。砂肝は昨晩、一式が化けた海藤に無理矢理乱暴されている。
だが、正体に気が付いていたなら、多少やりようがあったような気がするが……。
「お前、なんでいっし……空木の野郎に抵抗しなかったんだ?」
「ん~だってぇ」
砂肝は唇に人差し指を当てると、頬を赤らめる。
「無理矢理襲われるのって興奮するじゃない? あの時の私は、あいつの性欲発散の為だけのお人形さんだったわけでしょぉー? ハァハァ……ヤバぁ、思い出したら興奮してきたぁ……アァッ!」
あぁ、なるほどマゾの方でしたか。
流石というかなんというか。あの海藤の仲間なんてやってる奴が普通なわけなかったな。
「そうだったねー……。久しぶりにみたよ、あのキモい感じ。こかんちゃん。魔王キルは生粋のマゾヒストなんだよねー」
「それは見れば分かる」
俺と桃木、そして万丈のドン引きの視線に気が付いたのか、砂肝は改めてこちらを向きなおす。
「マゾじゃないよぉ。私はとにかくお人形遊びが大好きなわけぇ。お人形を使うのも、お人形になるのも、どっちも好きなのぉ。分かる? あんな被虐性欲を満たしたいだけの変態さんと一緒にしないでよねぇ」
「そんなくだらない事はどうでもいいっ!!」
砂肝がエキサイトしていると、それを中断するように万丈が叫んだ。
「お前が魔王キルだというのなら、アリサは何なんだ! あいつは確かに、自分が魔王キルを人形として操っていた張本人だとっ……」
幼馴染を自らの手で倒してしまった万丈からすれば、そこは絶対に確認しておきたいところだろう。
思いたくは無いが、もしも幼馴染が本当は悪人じゃないとしたら……。
「そうだよねぇ。じゃあ、まずは私、魔王キルとアリサの関係から話さないとだよねぇ」
砂肝はスカートであることなどお構いなしに、地面に尻をついて座る。
こんな時だというのに、俺の視線はスカートの中に誘導されていく。
「小間。次、スカートの中覗こうとしたらマジ殺すかんね」
秒で釘を刺されてしまう俺。しかし、すげぇ冷たい声だな。
そういえば忘れてたけど、砂肝って俺の事すげぇ嫌いだったわ。
「安心しろ。黒と赤の派手な下着を着けていることはもう確認したからな。2度見る必要はねぇよ」
「こかんちゃん……」
「お前、本当に黙ってろ」
砂肝どころか万丈と桃木にも怒られる俺。
ひょっとして、これは空気を読めってやつですかね。
了解、頑張ります。
「つかよぉ、お前。この状況で座って話すなんて随分余裕だな。俺たちが敵だって事忘れてね?」
2秒後、俺は気になったことを自然と口にしていた。
万丈すまん。黙ってるのは2秒が限界だったわ。
なんてふざけたことを考えていると、砂肝から衝撃の一言が口にされる。
「あぁーいいのいいの。あんたらがドンパチやってる間に、私ゴールしたしぃ」
「なんだと!?」
「……あの時アナウンスで言ってたゴールしたプレイヤーって、あんたのことだったんだー……」
驚いた様子の万丈と桃木。
だが、砂肝が言っていることが本当なら、少し妙な点がある。
「つーか、お前がゴールしたって言うなら、なんでこんなところいるんだよ」
「えぇ? 別にゴールしたプレイヤーが3回戦のステージから消えるなんてルールにはなかったでしょ?」
俺は3回戦のルールを思い返す。
確かに、そんな記載はなかったな。ということはつまり……
「そう。ゴールしたプレイヤーも引き続き3回戦に参加し続けることができるのよ。でも、例え戦ってライフがゼロになったとしても、いかなる状況であっても私の4回戦進出は決定してるから、あとは邪魔者を片付けるだけってわけ」
そういう事か。
3回戦のルール、ゴールについての記載で「ターゲットを回収し、再び自分のスタート地点に戻ったプレイヤーは、いかなる状況であっても4回戦進出とする」という記載があったが、あれはそう言う事だったのか。
「だからぁ、私は別に今すぐ戦ってもいいけどぉー。そっちからしたら、私と戦うメリットってないわけぇー。だから休憩がてらさ、お話付き合ってよ」
完全にリラックスした状態の砂肝。
しばしの沈黙の後、再び口を開いた。
「私は元々、魔族と人間のハーフだったの」
神妙な顔つきで語る砂肝。
その目には、深い闇が抱かれていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、アリサとキルの過去編です。




