昼⑰ 嘘八百
どうなる小間!?
バトルロイヤル3回戦。
俺、小間竜騎は一式和人の異能により身動きが取れなくなってしまった。そして自身のターゲットを吐かされてしまい、一式からの「宣告」を受けてしまった。
ターゲットがバレてしまった以上、この「宣告」によって俺の敗北は確定してしまう。
『宣告者、空木勇馬。対象者を指定し、10秒以内にターゲットを宣告して下さい』
「対象者は小間竜騎。ターゲットは……」
女神の声に従って「宣告」を行う一式。
「ターゲットは『A-13 : 黄金の不死鳥』だ……」
一式の宣告を聞いた俺は、頭がぼーっとするような感覚に陥る。
直後、目の前が真っ暗になって、何も見えなくなった。
『宣告者、空木勇馬。宣告失敗です。よって3回戦敗退となります』
「……は?」
女神の声により、宣告の失敗とバトルロイヤルの敗北を宣言された一式。
直後、俺の意識は徐々に覚醒していき、視界も正常に戻る。
「……賭けだったが、上手くいったようだな」
「は? は? いやいや! ちょとまてちょとまて女神さん!」
勝利を確信していた一式は動揺を隠せずにいた。
この感じ、2回戦の失格が決まった時の松笠に似てるなー……なんて、他人事のように眺める俺。
「小間っ! お前何をした!? まさか俺に嘘のターゲットを……!? いやそんなことはできるはずがねぇ! 嘘八百の幻術にかかった奴が、それから逃れる術なんてありゃしねぇ!!」
「確かにそうだな。俺がちゃんと、自分の本来のターゲットを認識できてたらな」
「は!? てめぇまさか!?」
「そう。俺も嘘八百を使えるんだよ」
実は万丈と別れてしばらく経った後に回収した異能が、嘘八百だったのだ。
嘘八百は俺の本来のターゲットなのだが、直後にミコトの姿に化けた一式と遭遇してしまった。
「嘘八百を回収してやがったのか……でも、なんで……」
「お前が俺のガドストを狙っていることには気が付いていた。まぁ、戦い始めてから大分後半の話だけど」
ミコトに化けた一式がしてきた最初の攻撃。
あれは間違いなく俺を殺す気のものだったが、それをガドストの紫のオーラで防いでから、それ以降のこいつの攻撃は全て手加減されたものになった。
それが確信に変わったのは、俺が冥王星による巨大な黒い球体にわざと突っ込んでいった時だ。そのままいけば冥王星によって俺の体は塵も残さず消し飛んでいたにも関わらず、あいつはわざわざ能力を解除してまでそれを阻止した。
それは俺のガドストを確実に「宣告」で回収する為なのだと、その時に気が付いた。
「だが、お前のターゲットが分かったとはいえ、「宣告」を使う気にはなれなかった。確証はないし、外したら死ぬのは俺だからな」
「ばかな……」
「嘘八百を使ってお前のターゲットを自白させてから「宣告」を使う……ってのは、俺も思いついたが、異能を51個もコピーしたお前だ。自分にかけられた幻術を解除する術を持ってるかもしれない。悟られたら詰みだからな。だからこの作戦は使わなかった」
わなわなと震える一式。
破顔一笑から顔面蒼白。感情の起伏が激しい一式に、俺はさらに続ける。
「そこで考えた。俺が「宣告」を使えないなら、お前に「宣告」を使わせて自爆させればいいってな。女神の力で相手のターゲットは覗けないようになっているから、ターゲットを認識している本人に直接喋らせればいい……という考えに、お前が行き着くことは想像がついた」
「は……は、は」
「だから俺は、自分に嘘八百の幻術をかけ、自分のターゲットの認識を黄金の不死鳥に変えた。まぁ、敵を騙すにはまず味方から……なんて言葉があるが、もっと先に騙すべきなのは自分自身ってこったな」
「……」
「ちなみにこの幻術は、お前が宣告をした直後に解除されるように設定しておいた。これで本当のターゲットを忘れずに済む」
「ふ、ふざ、ふざけんなぁーーーーーーーーーーー!!!!」
俺が得意げに喋っていると、被せ気味に激昂する一式。
「俺は51個の異能を持つ神に匹敵する存在だ!! 俺が、お前なんかに、負けるはずねーーーーーーーーーーーんだよーーーーーーーーー」
「いい叫びだな。山頂でやったら山も大喜びだろうぜ」
「クソクソクソッ!!」
「まーあれだな。お前は自分の力を過信しすぎたな。今の俺を殺すなんて赤子の手を捻るよりも簡単だったろうに、宝箱を探すのが面倒くさい……なんて理由でリスキーな「宣告」を使ってこのザマだ。まぁバカの末路にはお似合いだがな」
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
「空木勇馬の体を乗っ取ったり、他人に化けたりやりたい放題。そんな嘘まみれで、人を欺き続けたお前が、俺が持っていた空木勇馬の嘘八百に欺かれる……なんとも皮肉な最期だよなぁ」
「うっせ! うっせぇ! マジぶっ殺すぞっ!!」
「その前に、体が砂になってんのどーにかした方がいいんじゃね?」
「は?」
俺の指摘と同時に、自分の体を確認する一式。
その体からは色が失われていき、徐々に砂となって崩壊していた。
「わああああっ!! わああああっ!! いやだぁぁぁぁぁぁ!!」
今度こそ、確実に死を迎える一式。
一回戦で俺に敗れた時とは比べ物にならない狼狽え方だ。
「助けてえええ!! クレア!! 海藤おおっ!! 死にたくないよおおおお!!」
子供のように泣きわめく一式。
顔がぐちゃぐちゃになるほど泣きじゃくっているその姿は、正直見るに絶えなかった。
「最期に言いたい事はあるか?」
「小間竜騎いいいいいっ!!! お前、マジ許さねえからな!!! 来世覚えとけよ!!!」
怒りを剥き出しにして、今にでも殺しにきそうな一式。
あ、そういえば……
「そいやお前、この戦いが始まる前に「1回戦で俺がお前に負けた時に言ったこと覚えてるか?」みたいなこと言ってたけど、今思い出したわ。お前今、あのときと全く同じ事叫んでるぞ」
そうか。あの時、来世覚えとけって言ってたのは、ジョーカーの復活能力を使って俺に復讐する事を言ってたんだな。ただの死に際の遠吠えだと思っていたが、そんな意味があったとはな。
だが、今回は違う。正真正銘、本当の死。そこに意味なんてありはしない。
「クソクソッ!! お前のその目!! ムカつくんだよ!!」
「あん?」
砂になりながらも、俺の目をディスリ始めた一式。
そうかー。 目つきはクソ悪いけど、結構カッコいい目だと思ってたんだが。
「お前と海藤はなぁ!! 奥が全く見えねぇ真っ暗な目ぇしてやがる!! 本物の悪の目だ!!」
「そうか、お前の目は砂みたいで綺麗だな」
「そして、あの女も!! お前らと同じ目ぇしてやがる!! あぉ砂ぎゃっ!」
いよいよ口まで砂になって消えていったため、魂の叫びを中断されてしまう一式。
「最期の言葉が「砂ぎゃっ!」か……体が砂になって徐々に死に向かっていることを物語っている、そんな悲惨な言葉だな……」
「!! !! !!」
砂になりながら、何か言いたそうにこっちを睨みつける一式。
俺はそんな一式を……
「てかいつまでいんだよ! はよ消し飛べや!」
前蹴りで粉々に粉砕した。
「あ……。てか1回戦の最後もこんな感じだったな」
俺はそんな事を振り返りながら、風と共に砂となって消えた一式を眺める。
「うわっ! 砂が目に入った! 最悪!」
敵であり、友であった男の死に、俺はそっと涙したのだった。
まぁ嘘だけど。
こうしてジョーカーとの戦いは幕を下ろしたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、クレアが…!?




