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第52話 僕らの街(その5)
咲の‘小学校の友達’がテントを出て行った後も多田さんはしばらく話に付き合ってくれた。
「多田さん、もしかして歩いてここに来たんですか?」
加藤がファン代表という感じで質問する。
「うん。ホテルからLRTに乗って、後は歩いて。どうして?」
「いえ・・・大物バンドなら運転手付きのワゴン車かなんかでメンバー全員が颯爽と乗り付けるのかな、なんて思って」
多田さんは恥ずかしそうに笑う。
「僕らはまだ駆け出しだよ。それに、売れたとしても電車に乗ったり歩いたり、車だって自分で運転すると思うよ。そういう感覚のままでいた方が、いい詩が書ける。Muroくんだって川の土手を自転車で走って詩を書いたんでしょ?」
「え?どうして知ってるんですか?」
突然話を振られ、ドキドキしながら僕は聞き返す。
「‘杉ちゃん’のブログに書いてあったよ。
自転車だったり、歩いたりして、自分の街の美しさに胸を切なくする瞬間を重ねた方が、優しくて切なくてそれでいて力の滲み出るようないい詩が書ける、って思うよ」
多田さんは今度は咲の方を向く。
「emiさんも小学校の頃からそんな瞬間を重ねてきたんだね。だからあんな美しいメロディーが溢れて来るんだね、きっと」
多田さんが時計を気にする。
「もうすぐ本番だよ。僕も楽しみに観させてもらうよ」




