第29話 陽気なブロガー(その3)
週明けの月曜日。夏季講習はまだまだ続く。
休み時間に自分の席でテキストを見直していると、隣に誰かすっと近づいてきて、席の傍らにに立った。
「室田くん」
ええっと、この子は・・・ああ、新井さんか。僕は、3人組を足掛かりにとりあえずクラス全員の顔と名前をなんとか一致させられるようになっていた。
新井 紫帆。
新井さんは、結構可愛いな、という感じで印象に残っている子だった。また、社交的ではあるけれども、落ち着いた、大人っぽい雰囲気もある子だな、というイメージで名前を覚えることにしていた。それにしても、声を掛けて来るなんて、何かクラス行事の打合せかな、と新井さんの方を向いた。
「室田くんって、バンドやってたんだね。知らなかった」
「え?」
まあ、杉谷から聞いたんだろうけれども、あまりクラスの中では目立ちたくない僕としては、ちょっと困ったな、という感じだ。
「さっき杉谷くんのブログ見せて貰ったけど、いいね。曲もすごくいいし」
はっ、と教室の隅の方を見ると、何人かが固まって杉谷のスマホを見ている。
おそらく、アップした自分のブログの動画を見せているのだろう。杉谷が僕の方に気付いて、スマホを指さし、僕に笑顔でうんうんと頷いている。一体何がうんうんなのか分からないが、強烈に恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「あれ、室田くん、もしかして恥ずかしがってる?
わたしは・・・好きだよ、4LIVE。詩は室田くんが書いたんでしょ?」
「うん・・・」
「歌詞もすごくいいし、曲もきれい。演奏だってすごく上手いし。それに・・・」
ん?なぜそこで言葉を止める?それに、の後に何が来るんだ?と僕はしばらく新井さんの言葉の続きを待つ。
「それに、室田くんもかっこいいし・・・・」
生まれてこの方、女の子からかっこいい、なんてことを言われたことはなかったので、僕はうろたえまくった。男からなら唯一、マスターが、‘お前はかっこ悪いのがかっこいいんだ’的なことを言ってくれたぐらいだ。それにしても、新井さんの様子がなんだか、さっきまでの落ち着いたイメージからは段々と遠のいてきているような気がするのは、僕の思い過ごしなのだろうか?
「今度私もスタジオに観に行っていい?」
杉谷がよくて、新井さんが駄目と断る理由を僕は考えつくことができなかった。僕は仕方なく、
「うん、いいよ・・・」
と答えた。新井さんは、ありがとう、じゃあ、今度の練習の時間、教えてね、と嬉しそうに笑って自分の席に戻っていった。
杉谷の席の周りから人だかりが消えるのを見計らって、僕は杉谷の方に歩いて行った。




