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4live  作者: @naka-motoo
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第28話 陽気なブロガー(その2)

 土曜の午後。杉谷、木田、柏の3人のクラスメートは、スタジオのガラスの向こうのミキシングルームで僕らの演奏を観て、聴いていた。ミキシングルームでは杉谷たちも演奏が聴けるように、小型のPAでスタジオ内の音を流していた。腕を組んでミキシングルームの機材の前に座るマスターの怖そうな風貌に3人とも緊張しているようだ。この3人はBARたかいで会ったのと同じメンバーだ。

「動画、撮ってもいいですよね?」

 杉谷がスマホを差し出して、マスターに訊いている。

「あいつらがいいんなら、いいよ」

と、マスターは僕たちの方を顎で示している。

 杉谷は、今度はガラス越しに僕の方へスマホを持ち上げて見せて、‘いいよね?’と口パクで話しかけてきた。

 僕は、4LIVEの皆に、いいよね?と眼で確認を取る。男2人はまあ、いいだろう、という感じで頷く。咲は最後までしっくり来ない顔をしていたが、武藤と加藤が頷いたのを見て、渋々、という感じで頷く。

 僕がミキシングルームに向かって頷くと、早速杉谷はスマホで撮影の準備を始める。


 僕たちは、「土曜の午後から」の演奏を始めた。クラスメートの目の前で歌うのは、はっきりいって恥ずかしかったので、できるだけ3人の方は見ないようにして、歌った。

 僕らは咲の作った曲を演奏する気持ち良さが忘れられず、BARたかいの後、それぞれが家でもよく練習した。加藤と僕はアンプを使わずにギターの弦を叩いて生の音をはじき出した。武藤は高校に入る時にアルバイトでマスターの店で購入した中古・安物のエレクトリックドラムをヘッドフォンをかぶって。加えて、僕は、便所の中でも‘土曜の午後からは~’と歌い、家族の顰蹙を買った。

 その甲斐あって、というか、期せずしてというか、更に美しい演奏になって来た、と自覚できる。ライブハウスで、いわゆるロック仕様の音質で演奏する時も、曲の美しさがそのままストレートに観客に伝わって欲しい、という気持ちで弾いている。

 ミキシングルームの3人も、曲の美しさを感じ取ったのか、まさかここまで、と思ったのか、気が付くと、リズムを取りながら、真剣な眼でスタジオを見ている。杉谷も夢中で動画を撮り続けている。


 演奏が終わり、ミキシングルームに4LIVEと3人組、マスターの8人が、それぞれ思い思いの場所にパイプ椅子を出して腰を下ろした。皆でマスターが奢ってくれたボトルコーヒーやペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら雑談する。

「みんな、室田の同級生か?」

 いかつい風貌をしたマスターの問いに、3人は、恐る恐る、という感じで、はい、そうですと答える。

「どうだった?」

 僕は、助け船を出すように、杉谷たちに感想を訊いた。

「いや、まさかここまで上手いとは思わなかった・・・」

 本音だろう。木田が正直なところを答えてくれた。

「もっと、しょぼいと思った?」

 僕は更に話を振る。

「いや、そんなことはないんだけど・・・でも、やっぱり、予想を超えてた、というか」

 木田が続けて答えてくれる。

「曲もすごく、いい」

 柏は、本当にそう思ったようだ。咲の曲はどれも、ロックという範疇を超えて、‘美しい’と感じさせる何かを持っている。それを、柏はお世辞ではなく、本心から言っているようだ。

「曲は全部、咲が作ったんだ」

 僕が解説すると、3人は、ほおっ、と咲の方を見る。咲は恥ずかしそうに視線を下にやっているだけで特にコメントもしないが。

 おかしなもので、一番ここに来たがっていたはずの杉谷が、まったく発言をしない。咲を意識しすぎてだろうけれども。僕は、杉谷に話を振ってみた。

「杉谷はどう?咲の曲は」

 うっ、と一瞬杉谷は言葉に詰まったが、一旦しゃべろうと踏ん切りがつくと、心配することは全く無かったと馬鹿らしくなった。

「咲ちゃんの曲、凄くよかったよ。本当にきれいな曲ばかりで、感動した。

 咲ちゃんのベースも凄いね。なんだか、プロが弾いてるみたいだったよ。

 咲ちゃんは、背が高いから、ステージでも映えるだろうね」

 すべて咲の話題だし、文章の初めに繰り返し‘咲ちゃんは’とちゃんづけでいきなり呼ばれ、咲は一体何事だろう、と内心当惑しきっている様子だ。咲だから黙って表情も特に変えないが、ごく一般的な女子高生ならば、あからさまに‘気持ち悪い’という素振りを見せるだろう。けれども、僕ら4LIVEに対して、という状況と、‘杉谷だから’みたいな、まあ、いいか、というような空気が既に生まれているのは、ある意味杉谷の才能ともいえるだろう。

 杉谷が話し始めてからは、他の誰も話題をリードすることができず、杉谷の関心のあるネタばかりとなった。それも、行き着くところは咲に関する話題となる。マスターも面倒くさいと感じたのか、そのままにしている。

「杉谷はよくしゃべるなあ」

とマスターが言うと、

「そうですか。あんまり喋んない方がいいですか?」

と質問で返し、いや、そんなことはないがな、とマスターに有無を言わせず肯定させる手腕も備えている。

「俺、ブログやってるんですけど、今日の動画、アップしてもいいですよね?」

 杉谷が、話の最後の方で、誰に許可を取るつもりなのか、同意を求めて来た。

 一体、誰がこれを許可する権限を持つのだろうか。その場にいた人間全員が一瞬悩んだが、しょうがないな、という感じで、マスターが話を締めくくろうとした。

「個人の本名とか書かないんであれば、いいんじゃないか?バンド名は書いてもいいと思うけど。みんな、どうだ?」

 僕たち4LIVEも深く考えずに、まあ、いいかな、という感じで頷いた。


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