ある日の夜の『オカンの店』 美花編
結婚式も無事に終えて落ち着いた7月の最初の金曜日に私と宗ちゃんは相変わらず仕事帰りにオカンの店に寄ってオカンと比奈ちゃんと話し込んでいた。
「結局二人とも宗ちゃんのマンションで暮らすことにしたんやろ?偉いなぁ~」
オカンはにこにこ笑って夜定食を二人分用意して出してくれていた。
「引っ越す理由が無いやろ?宗ちゃんのマンションって2LDKで広いし、管理人さんも常駐してるし家賃も良心的やし…オカンの店も近いし♪」私が機嫌良く答えてると横に座っている宗ちゃんは嬉しそうに頷いていた。
“ガラガラガラ”店の戸が開いて入って来たのはこうちゃんと桃香ちゃんを抱っこした麻由美ちゃんやった。
「桃香ちゃんお帰り~~♪」すぐにカウンターから出てオカンは桃香ちゃんを嬉しそうに抱っこしていた。
「宗ちゃんと和美も座敷に座ろうや!どうせもう少ししたら拓海らも来るし!」こうちゃんはそう言って麻由美ちゃんと座敷に腰を下ろして寝ているがんもの鼻の頭を人差し指でツンツンしていた。
「そう言えば絵美里ちゃんは?おらんけど…置いて来たん?オトン帰ってるんか?」こうちゃんは店の中を見渡して比奈ちゃんに聞いていた。
「旦那が休み取れたからって家で絵美里と留守番してるねん(笑)珍しいやろ?」比奈ちゃんはちょっと顔を引きつらせながら答えていた。
「ま、雅章さんが絵美里ちゃんの面倒見てるん?そうなんや!良かったやん。」
こうちゃんは知らず知らずのうちに踏んだらアカン地雷を踏んでしまっていた。
「良くないわ!半年以上メールと電話で済ましてた癖にインターネットのテレビ電話で絵美里に誰や言うて泣かれたからって慌てて休み取って来てんで?」比奈ちゃんは頭の天辺から湯気が出そうな位ご立腹のようやった。
「怒る事ちゃうやろ!必死で休み取って来ただけでもまだ父親としての自覚はあるって事やろ?それに仕事してしっかり稼いでくれてるんやから良い旦那さんやん。そんな事で怒ったらアカン!」カウンターで1人で飲んでいた比奈ちゃんの幼馴染みの由多嘉さんが比奈ちゃんを叱っていた。
「滅多に口挟まんユタちゃんがやっぱり比奈の事では黙ってられへんねんなぁ」
オカンが比奈ちゃんの顔を覗き込んで言ったら比奈ちゃんが真っ赤になって
「もう!ちょっとオカン!娘をからかうの辞めてや!恥ずかしい…」比奈ちゃんはオカンに向かって手に持っていた台拭きを投げつけてから座敷に座った。
どうやら比奈ちゃんは由多嘉さんの事を好きやったみたいで由多嘉さんに言われると何も言い返されへんみたいやった。
“ガラガラガラ”店の戸が開いた瞬間凄い泣き声が聞こえて見てみるとさっきから噂していた雅章さんがワ~ワ~声を上げて泣いてる絵美里ちゃんを抱っこして入って来た。
「あらあらあらあら…こんなに泣いて…絵美里~バァちゃんやで!ほらほらもう~泣かんでええから…雅章さんもカウンターに座り~」オカンはすぐに泣いてる絵美里ちゃんを抱っこして背中をトントンしてあやしていた。
「すんません…暫くは機嫌良く遊んでたんですけど…やっぱり比奈とお義母さんが恋しくなったらしくて泣きだしたら泣き止まなくて…」雅章さんはそう言って申し訳無さそうに頭を下げて苦笑いしていた。
「かまへんかまへん!こうやって父親になるもんやから気にしたらアカン!」
由多嘉さんが落ち込んでる雅章さんの肩をポンポンと叩いて慰めていた。
「いきなり休み取って絵美里の事を1人で見るんは無謀やったんちゃうかな?」比奈ちゃんがオカンから泣き止んだ絵美里ちゃんを受け取りながら雅章さんに
「まぁ…でも!これに懲りずに出来るだけ休みが取れたら絵美里と過ごしてやってくれたら絵美里もきっとパパに懐くとは思うけどね。」由多嘉さんに言われた事が効いたのか?比奈ちゃんは珍しく優しい言葉をかけていた。
泣き疲れて寝てしまった絵美里ちゃんをお昼寝布団に寝かせて比奈ちゃんは雅章さんの横に座って絵美里ちゃんの話を楽しそうに始めた。
「なんだかんだ言うて比奈ちゃんとこも仲の良い夫婦なんよね(笑)」亞夜子ママが高田さんと二人のことを温かい目で見て笑っていた。
それから暫くわいわい桃香ちゃんをみんなで抱っこし合ったりしていたら
“ガラガラガラ”店の戸が開いて拓海ちゃんが肩を落として帰って来た。
「俺・・・もうアカン・・・やってもうた・・・桜絵ちゃんに愛想つかされる・・・」拓海ちゃんはそう言いながら座敷に倒れこんでしまった。
「どないしたん?何があったんや?拓海!拓海!起きて事情くらい話さんと俺ら何もしてやられへんで!」こうちゃんが拓海ちゃんを叩き起こして座らせた。
無理やり起こされて座らされた拓海ちゃんは項垂れた様子で少し間を置いてからゆっくりと事の次第を話し出した。
「実は…詐欺に引っかかってしもて…マンション買う頭金の内の100万持ち逃げされてしまってん…桜絵ちゃんには黙ってマンション探して契約して驚かそうって思ってたから…俺が1人でやり取りしとったんやけど…まさか詐欺やったなんて…」拓海ちゃんはそう言ってまたその場に倒れ込んでしまった。
「あーーーーーーーー!あれやろ?マンション売買の詐欺って昼間テレビでやってたで!どうやってか知らんけど…新築マンションに入り込んで不動産屋のフリして客に近付いて契約交わして頭金とか手付金を持ってドロンって奴や!!20件位被害が出てるって拓海ちゃんその内の1人やったん?最悪やん!」オカンは昼間のワイドショー番組を思い出して大声で叫んで驚いていた。
「犯人は?捕まってないの?顔とか憶えてるんやろ?拓海ちゃん!しっかりしいや!」倒れ込んでる拓海ちゃんのお尻をバシバシ叩いて私が起こすと
「まだ捕まってないらしい…警察へは行って一応憶えてることは全部言うて来たけど…もうアカンわ…桜絵ちゃんが許してくれるはず無いやん…こんな阿呆な男…俺…絶対捨てられる…」拓海ちゃんが悲壮感を漂わせてるとオカンが
「阿呆なこと言いな!そんな事くらいで桜絵ちゃんが拓海ちゃんを捨てるわけ無いやろ!!それよりも正直に言うて早く誤り!そのほうがええで!!」
オカンにそう言われて拓海ちゃんは起き上がって桜絵ちゃんにメールでオカンの店に桜絵ちゃんを呼ぶことにした。
“ガラガラガラ”店の戸が開いて何も知らない桜絵ちゃんが帰って来た。
内心どうなるんやろってドキドキしてるのは私だけでは無いようでみんな桜絵ちゃんが拓海ちゃんにどういう態度を取るか気になって仕方がなかった。
「どうした~ん?なんか~みんな…めっちゃ私の事見てな~い?なんで~?」いつも通り桜絵ちゃんが緩い感じで話すと拓海ちゃんが座敷で土下座して
「桜絵ちゃん!すんません!ほんますんません!俺!とんでも無い事してしもた…ほんまにすんません…」いきなり理由も話さずに拓海ちゃんは謝り出した。
「おいおい!!事情も話さんうちに土下座なんかしても桜絵ちゃんがびっくりするだけやて…ほんまお前は阿呆やなぁ~」こうちゃんが拓海ちゃんの頭を一発どついてその場に座らせた。
「なんなん?とんでも無い事って…浮気?隠し子?それとも~…人殺し?」
ド天然の桜絵ちゃんが冗談なのか?本気なのか?ボケた返事をしてくれたのでついつい拓海ちゃん以外のみんなは笑ってしまった。
「もう~!俺が話したるわ!桜絵ちゃんも座敷に座り!落ち着いて聞いてな…」
こうちゃんは桜絵ちゃんが座敷に座って落ち着くのを待ってから話し出した。
「拓海な…詐欺に引っかかったらしいわ!!桜絵ちゃん知ってる?不動産詐欺!新築マンションに入り込んで業者のフリして客に近付いて契約までこじつけて頭金とか手付金を騙し取ってドロンしてる奴!!あれやねん!」こうちゃんに言われて桜絵ちゃんはうんうんと頷いていたので知っていたみたいやった。
「なんや~お金騙し取られたん?拓ちゃん人がええからすぐ騙されてしもたんやろ?お金で済んで良かったわ~…マンション買うつもりやったん?」桜絵ちゃんが拓海ちゃんの頭をよしよしして笑ってるのを見て男たちは感心していた。
「桜絵ちゃんってほんま女神様みたいやな…絶対ブチ切れて拓海の事怒ると思っとったからみんな桜絵ちゃんの寛大さに惚れてしまいそうやで…」健ちゃんが笑いながら桜絵ちゃんに言うと桜絵ちゃんがフフフと笑って赤くなっていた。
みんながこんなやり取りをしている間にオカンはコソコソと携帯をイジって何かしているようやった。
「桜絵ちゃん!ほんまごめんなさい!俺が馬鹿でした。阿呆でした。間抜けでした。」拓海ちゃんが桜絵ちゃんに抱きついて謝ってるとオカンが大声で
「見つかった!誰かわかったって!!お金返ってくるかもしれんて言うてるわ!龍ちゃんとこの若い子らが詐欺師確保してくれたらしいで!」と言ってカウンターから両手を振って喜んでいた。
この辺りを仕切るヤクザ屋さん達が自分達のシマで無断で詐欺なんかやってドロンしたとんでもない輩を自分達のメンツを潰されたと躍起になって探し回っていたらしい。
「オカンが連絡取ってたんは龍さんやったんや!さっきからコソコソなんかやってると思ったらそういうことやったん?」比奈ちゃんが少し呆れた顔で言うとオカンは舌を出して笑っていた。
「頼れるもんには頼るのがオカンのええ所やね!私は警察のお偉いさんに連絡してるのかと思ったわよ!」亞夜子ママはそう言って高田さんと笑っていた。
それから2時間位してから龍さんの組のお使いの人が詐欺師を連れて拓海ちゃんのお金を返しに来てくれてそのまま近くの交番へ詐欺師を引き渡した。
「返ってくるはずの無いお金やと思って諦めてたんやから気前よく使おう♪」って桜絵ちゃんが言い出してその夜のみんなの飲み代は拓海ちゃんの奢りになりました。めでたしめでたし♪




