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2.唇-指×唇=

強く、強く、強く、抱きしめた。

引き寄せて、口付けて、堕ちていった。

だけど俺は、すでに何もわからないところまで堕ちており、言わなきゃいけないことを・・・伝えるのを忘れていた。





















「なーっちゃんっ!」


背中に衝撃を受け、俺は思わず顔を引きつらせる。

うだうだと背中からのしかかり、いっこうに離れる様子のないそれ・・・確かめなくてもわかる。

千尋ちひろ

高校からの同級生で、大学も同じ・・・千寿の兄貴。


「重たい、千尋。」


文句を言うと千尋は俺の背中にへばりついたまま、こちらをのぞき込んでくる。

千寿によく似た、だけど基本的に無表情な千寿とは違ってころころとよく変わる表情。

ぱっと俺の背中から離れたと思ったら、くるりと俺の前に回ってくる。

性別も年齢も違うからそっくりとは言わないけれど、確かに兄妹である、千寿によく似た千尋。


「なっちゃん、じゅうやくしゅっきーん。

遅刻はいけないんだぞっ!」


「俺、今日は一限ないから別に遅刻じゃないんだけど。」


やけに子供っぽい口調にやけに子供っぽい仕草で、千尋は俺の言葉をスルーして、俺の目の前に指を突きつける。

・・・・・・お前は人を指差しちゃいけませんって習わなかったのか。


呆れる俺にお構いなしに、千尋は俺の少し前を歩き出す。

なんでこいつはこんなにもマイペースなんだろうか。

まぁ、千寿も結構なマイペースだけども。


「てかねー昨日も千寿ちゃん遅かったの!どう思う、これ!」


「千寿だってもう高3だろ。友達との付き合いとかあるんじゃないのか?」


いつもどおりの千尋の話を適当に聞き流しながら歩く。

千寿も少しブラコン気味だけど、千尋のシスコンは結構なもので、千尋が彼女と別れる原因の多くは千尋のシスコン過ぎる、と言うものだった。

だいたい、20を過ぎた男がシスコンが理由で彼女にふられるってどうなんだ。

・・・・・・まぁ、昨日千寿は俺の家にいたんだけれど。


そんな俺の心の声なんて知るはずもなく、千尋は俺の一歩前を歩きながら話し続ける。

もちろん話題の内容は、ずっと同じで千寿のことである。

そう、ひたすら千寿の話を続ける千尋に俺が呆れつつも付き合ってやるのはいつものことで、それが当たり前だったから、こんなことを聞かされるなんて・・・まったく予想してなかった。


「気にいらなーいっ!友達はいいとして、千寿ちゃんに恋人なんて、まだ早いと思うのっ!

千寿ちゃんも別に好きじゃない男に言い寄られたってさっさと断っちゃえばいいのに!」


「・・・・・・は?」



 


















ぽかんと呆けたまま立ち止まったなっちゃんを放置して、俺は歩き出す。

廊下の真ん中で立ち止まったままのなっちゃんは、少し周りの邪魔になっているけれど・・・いくら声かけても、肩叩いても動き出さないんだから、俺にはどうしようもない。


それにいい加減俺だって、いつまでも進展しないなっちゃんと千寿の関係には飽き飽きしてたんだ。


いつからか・・・だなんて当事者じゃない俺は知らないけれど、傍から見て、なっちゃんと千寿はそれはそれはわかりやすかった。

お互いがお互いを想いあってることは一目でわかるのに、なんであの二人はとっととくっつかないんだろう?


・・・・・・まぁ、単なるオトモダチってわけでもなさそうだけど。


「あーあ、なんかおにいちゃんって損な役割ーっ」


俺は一人歩きながらそう呟いた。

いくら親友のなっちゃんだからって、うちの可愛い妹泣かせたら、許さないんだから。



















『千寿は恋人いるの?』


そう聞かれたあの時、いるって嘘をついていたらよかったのかもしれない。

だけど事実、私となっちゃんは単なるセフレで、恋人同士・・・だなんてことはなかった。


だって私、なっちゃんに好きだっていってない。

もちろんなっちゃんからも、好きだなんていわれてない。


だから私となっちゃんはセフレだし、うっかり彼氏はいないよっていっちゃった私は、クラスメイトである高瀬たかせ君に言い寄られている。


・・・・・・恋人はいないけど付き合えないよ、って断ったはずなのに、な。


「千寿、一緒に帰ろう。」


ずっと前に名前で呼んでいいかって許可を出したからか、高瀬君は私のことを名前で呼ぶ。

以前はそれに不満があったわけじゃないけど、近頃はそれが少し嫌になってきた。


「・・・寄りたいとこあるから。」


自分がどちらかと言うと言葉足らずであることは自覚している。

だけどだいたいの人はこれで断っている、と言うことを理解してくれるのだ。

だけど高瀬君は強引な性格なのか理解できてないのか、ゆるく断ってもその断りを理解してくれない。


「じゃあ、付き合うよ。」


にっこり笑ってそういう高瀬君に、私はそれ以上何か言うことを諦める。

別に高瀬君と帰るの、嫌なわけじゃないと思う。

だけど高瀬君と帰ると、なっちゃんのおうちにいけないから。


・・・今週入ってから、なっちゃんに逢ってない。





















唇-指×唇= 臆病な間接キス

口付けのその先も平気だった

臆病になるのは、言葉だけだった

言ってないことが、たくさんあったの


なっちゃん、じゅうやきしゅっきーん!

書いてて千尋ちゃんうぜえええええええええええええええってなったけど、

千尋ちゃん書くのは楽しかった(

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