3.僕×君=
高瀬君の話は、おもしろい。
クラスでも人気のある男の子で、友達には付き合っちゃえば?って言われる。
「それでさ・・・」
私は、高瀬君が続ける他愛もない雑談に適当な相槌を打ちながら、私はずっと、なっちゃんのことばかり考えてた。
ぐるぐる、ぐるぐる・・・思考の渦に終わりなんて見えなくて、だけど私が思ってたのはたった一つのことだけだった。
なっちゃんに逢いたい。
なっちゃんに逢えないのが寂しくて、なっちゃんが逢いたくて仕方がなくて。
あんな風にお願い聞いてもらうんじゃなくて、振られるのを怖がるんじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだったんだ。
そうしなかった、ツケがまわってきたんだ。
すごくすごく悲しくて、なんでもない風に高瀬君の話に相槌を打つのもつらくなってきたとき、後ろから誰かが私の腕を引っ張った。
無防備な状態で後ろに強く腕を引かれ・・・私は誰かの胸にぶつかったの。
目を丸くするしかできなくて、頭の中にはクエスチョンマークが飛んでいて、だけど私の頭上から聞こえた声は、私が一番逢いたい人の声だった。
「悪いけど、千寿もらっていくから。」
高瀬君は、私の後ろに立つ人をぽかんとして見上げる。
私にだって、何がなんだかわからない。
なんで・・・貴方はここにいるの?
私と貴方は、単なるセフレでしかないのに。
「悪いけど、千寿はもらっていくから。」
高瀬君がぽかんとしたまま何も言わないことに痺れを切らしたのか、
なっちゃんは念を押すように同じことを言った。
そして高瀬君をその場に置いたまま、なっちゃんは先ほどまでの進行方向と逆・・・なっちゃんの家のほうへ向かってずんずんと歩く。
いつもは私のペースに合わせてくれるなっちゃんが、私を引きずるように歩く。
私から見たなっちゃんはいつも余裕のある大人のようだったのに、なんだか今日のなっちゃんは、ひどく余裕がないように見えた。
ねぇ、なっちゃん。
なんで・・・あんなとこにいたの?
なんで・・・・・・高瀬君といた千寿を連れて行くの?
ねぇ、なんで?
バタン
大きな音がしてドアが閉まる。
私は手持ち無沙汰に玄関に立ち尽くして、なっちゃんを見下ろした。
ドアが閉まったと同時に、なっちゃんはドアに背を預けて座り込んだまま。
なっちゃんの顔は本人が頭を抱えているせいで、私からは見えない。
「ねぇなんでなっちゃん、あんなところにいたの?」
確かになっちゃんの家から遠くないけど、なっちゃんの生活圏内から若干逸れたあの場所。
なんで、なっちゃんはあそこにいたの?
私が問いかけても、なっちゃんは顔を伏せたままで答えてくれない。
「なんでなっちゃん、千寿のこと連れて行ったの?
千寿・・・クラスの子と一緒だったのに。」
偶然私を見かけたんだとしても、なんで高瀬君から奪うようにして連れて行くの?
明日も学校で会うのに、私はどんな顔をして会えばいいの?
私のいいたいこと、なっちゃんにわからないはずないのに、なっちゃんは顔すら上げてくれない。
ねぇなんで千寿のこと見ないの?
なっちゃんに逢いたくて、逢いたくて仕方がなかったのは、千寿だけなんでしょう?
わかんないよ・・・なんでなっちゃんがこんなことしたのか、千寿にはわからないの。
わからないと・・・不安で仕方がないの。
「ねぇなっちゃん・・・」
「単なるクラスメイトじゃ、ないって聞いた。
告白されて断ったけど、相手は引く気がなさそうだって・・・千尋が。」
なっちゃんは伏せていた顔を少しそむけて不服そうに言う。
お兄ちゃんが余計なことをなっちゃんにいったことはわかったけど、まだ千寿にはわからないんだ。
ちゃんと教えてくれないと、私は的外れな期待をしてしまう。
ねぇなっちゃん、教えてほしいことがあるの。
本当は私、別のことを教えてほしかった。
「そうだよ。千寿、高瀬君に好きだって言われた。
でも、そうだとしても・・・千寿にはわからないの。
なんでなっちゃんは、千寿を・・・。」
ずるいのはわかってる。
最初に嘘をついたのは、最初に隠し事をしたのは千寿だった。
千寿が教えてほしかったのは、本当はなっちゃんの気持ちだった。
「ねぇ、なっちゃん。
ちゃんと言ってくれなきゃわからないの。
ねぇ、千寿は・・・!」
強く、強く、強く・・・。
引き寄せられて千寿はなっちゃんの腕の中。
広いなっちゃんの胸に顔をうずめて、広いなっちゃんの背に手を回す。
ねぇ、なっちゃん。
今千寿が欲しいのは、そんなぬくもりじゃないんだよ。
もっと確かな、言葉が欲しいの。
「俺は・・・。」
なっちゃんの腕の中、千寿の耳にずっと欲しかった言葉が飛び込んできた。
溢れた涙はなっちゃんの服に染み込んで、
肯定の返事として小さくうなずいた千寿をなっちゃんはさらに強く抱きしめた。
僕×君= 望みどおりの恋始め
必要な言葉を紡いだら始まる物語
君のことが、好きなんだ




