始まり
新藤和久、彼には幼馴染みがいる。優しく可愛いが少し天然気味、そして何より探索者となってダンジョンに行くことに憧れを抱いている女の子である杠葉琴音が。
そんな彼女から突然電話が掛かってきたのは、高校入試も無事一段落つき、家で久しぶりの余暇を過ごしている時であった。
「はい、もしもし。琴音どうした――」
「カズくん! 遂に、遂にお父様とお母様を説得できましたの!」
「……え? 説得ってまさか」
「そのまさかです。探索者として活動することを2人が認めてくださいましたの!」
「本当に? ついこの間、進学先の件で説得を試みた時は絶対ダメって感じだったのに」
琴音からの報告に和久は驚く。
琴音の両親は一人娘である琴音の事をとても大切にしており、これまで彼女がどんなに探索者への思いを熱弁しても首を縦には振らなかった。
つい数ヶ月前にも琴音は和久と同じく探索者養成学校に通いたいと両親に直談判した事があったのだが、その時も最終的に琴音が折れる形で私立のいわゆるお嬢様学校への進学を受け入れたばかりなので、琴音が両親を説得できた事が意外であった。
「そうなのですけど、根気強く説得した事によりなんとかなりましたの」
「根気強く……何か切っ掛けでもあったの?」
「おお、流石カズくん、鋭い。そうです。遂に私固有スキルが発現しましたの」
「えぇ!」
しかしそれ以上に驚くべき報告に和久は声を上げる。
固有スキルの発現は、探索者を目指している者であれば誰もが歓喜する出来事である。そんな事象が幼馴染みに起こったとなれば当然テンションが上がってしまう。
「やったじゃん。まあ、琴音ならもしかしてとは思っていたけど、本当に発現するとはな!」
「ありがとうございます。マナの発現くらいでは説得材料として弱いかもと雌伏の時を過ごしていましたが、スキルの発現という好機を逃すものかと頑張りましたの」
「それは、おめでとう」
マナが発現しなかったが故に探索者になりたくとも諦める他なかった者もいるため、マナ発現くらいではというのは言葉が悪いのだが、現に探索者養成学校のような、それ専用の学校が建てられる程度にはマナを発現する者は存在する。
そのため、既にマナを発現し探索者となる基準は満たしていた琴音は両親を説得できていなかった。しかし、固有スキルの発現となれば話は別である。最終的にこの日のために鍛えていたプレゼン能力が火を吹き琴音は両親を説得することが叶ったのであった。
「そっか、琴音がスキル持ちか……そうなると余計に惜しかったな。もう少し早ければ一緒に養成学校に通えたかもしれなかったのに」
「そうなのです。ですが過ぎた事を悔いても仕方がありませんので、マナではなくスキルを磨けるチャンスと思い、切り替えようと思いますの」
「まあ、流石に養成学校でも、スキル持ちを想定した授業は無いだろうからね」
琴音的にも、どうせなら進学が決まる前にスキルが発現し、探索者養成学校ないし、探索者コースのある高校に進学できればそれが一番であったとは思う。
しかしポジティブに考えるのであれば、そういった学校は一般的な探索者志望者を対象としているため、カリキュラムにスキルについての授業は無いことが予想される。良くも悪くも琴音の探索者生活はスキルを中心に行われる事になるので、進学によってそこに影響が少ないのは唯一救いと言えなくもない。
そんな励ましの言葉を掛けていた和久であったが、そういえば一番肝心な事を聞くのを忘れていたことに気付く。
そう、琴音が発現したスキルについてである。
「それで、それで? 発現したスキルってどんなスキルだったの?」
「よくぞ聞いてくださりました。なんと、『箱入り娘』ってスキルでしたの!」
「おおーーお? 『箱入り娘』? 」
和久の質問に対して、デテンという効果音でも聞こえてきそうなほど自慢げな声色で答える琴音であったが、残念ながら和久はスキル名を聞いても、どんなスキルなのか全く分からなかった。
そんな戸惑いの声を電話越しに察知した琴音は、続けてスキルの説明に移る。
「はい。効果は、箱を装備できるようになり、装備した箱に応じた特殊能力が得られる、らしいですの」
「箱? 箱っていわゆる普通の」
「普通のでも良いみたいですの。試しに装備してみましたが、お菓子箱とか収納箱とかでも可能でしたの」
「箱……」
しかし説明されてもイマイチ理解できない。いや、装備する物に起因する能力が得られるというのはまだ理解できる。そんなスキルは聞いたことないとはいえ、それでも和久の理解の範疇にはある。
しかし、それがダンジョン由来の何かではなく、単なる箱であるという1点が和久の理解を阻んでしまうのだ。
「ま、まあカラフルな箱を装備してる琴音は楽しそうではあるよね」
「何を言っているのですの? まあ、そんなことはいいのです。それよりも、カズくんにお願いがありますの」
「え、あ、お願い?」
「はい」
そんな、可愛らしい幼馴染みがお菓子箱を装備してキャッキャウフフしている姿を想像し現実逃避している和久を琴音の一言が引き戻す。
「スキルの検証を行いたいと思っていますの。折角ならダンジョンで」
「あ、それに同行して欲しいってこと?」
「その通りですの。流石カズくん、鋭いですの」
「それはもういいけど……初探索でスキル検証か」
「勿論、カズくんの指示には従いますし、危険な事はしないように努めますの」
「努める」
「しません!」
琴音のお願いは、スキル検証の同行のお願いであった。
これまで両親の許可が下りず、ダンジョンに入場できていなかった琴音と異なり、和久は何度もダンジョン探索を行っている。初探索でスキル検証を行うという無茶も和久が同行してくれれば安心できる。
「まあ、うん。分かった。俺も琴音のスキル気になるし」
「ありがとうございます。カズくんに断られたら、絶対お父様かお母様がどこかのギルドに護衛を頼んで自由にスキル検証どころじゃなくなる所でしたの」
「ありそう。まあ安全性を考えたらそっちの方が正しいけどね」
「探索者に安全な事などないと、お祖父様も仰っていましたの」
「……そういう感じだから、これまで許可が出なかったんだろうけどね」
自身満々そうにかつて高名な探索者であった祖父の言葉を引用した琴音に、和久は呆れつつもスキル検証への同行に承諾するのであった。




