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箱入り娘は今日も箱の中で  作者: 和ふー
プロローグ
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箱入り娘

 探索者という呼称は、ダンジョンから産み出される化物たる魔獣。それを駆除する力を得た者を得た者たちに誇りを持たせるためのプロパガンダであった。


 彼らは単なる害獣駆除者ではなく、ダンジョンという未知なる領域を探索し謎を究明する栄誉ある存在である。


 そう宣伝することで怪物を打倒するための力、マナを発現した者たちをダンジョンに赴かせようとしたのだ。結果としてダンジョンから本当に価値ある素材やアイテムが採取されるようになったため、探索者という名称は方便ではなくなり定着し、今現在は多くの者が憧れる職業となったが、元々探索者というのは方便であったのだ。


「まぁ仕方ねーよな。あの当時なんてわざわざダンジョンに行くよりもマナ使って肉体労働した方が稼げるなんて言われてたらしいからな」

「え? 駒さん。何かいいましたか?」

「何も言ってねーよ村松。それよか、仕事だ仕事。今日は新たなスキル持ちと接触するんだろ?」

「は、はい、その通りです!」


 探索者協会のベテラン職員生駒茂(いこましげる)が、そんなダンジョン誕生と探索者の黎明期の事を考えていたのは、これから行う予定の仕事を嘆いているからであった。


 ダンジョンが産み出す魔獣はマナを介した攻撃でしか倒せない。これはダンジョンがこの世界に出現して割と早い段階で判明した事実である。そのためダンジョンに入場する権利を得る、つまり探索者となるためにはマナを有している必要がある。

 しかし誰もがマナを有している訳ではなく、その割合は1000人に1人と言われている。探索者になりたいからと言って必ずしもマナが発現する訳ではないのだ。

 しかもそれで終わりではない。マナを発現した者の中で更に限られた者だけが、発現する固有スキルと呼ばれる特殊な能力が存在する。

 マナによる肉体強化など比べ物にならないほどの強靭な肉体を得られるものや意のままに炎を操るもの、傷ついた他者を癒すものまで、固有スキルの種類は多種多様であるが、1つ1つが凄まじい効果を有しており、様々な探索者団体は100人の一般探索者よりも1人のスキル持ちを欲するほどの影響力を有していた。


 そんな状況の中、つい最近、未確認の固有スキルを持った探索者が確認された。

 そのため生駒たちが所属する探索者協会は他の探索者団体、特に有名ギルドなどが金に物を言わせる前に勧誘してこいと命令され、そのスキル持ちがよく訪れているとの情報のある、ここ相模ダンジョンまで来ていたのであった。


「……てか勧誘って上も無理言うよな。まだどこにも所属してないって言っても、スキル持ちが探索者協会に入る訳ないだろ……どんなに弱小ギルドに行ったとしても、協会に所属するよりかは待遇良いだろ」

「まあ、それはそうですね。俺たちみたいな、ごく僅かなマナしか持たない底辺探索者とは違いますからね」

「俺たちって……間違ってはないが」


 生駒たちが所属する探索者協会という組織は、建前上探索者を管理する事を目的としている。ただダンジョンから採れる希少な素材やアイテムにより一般的な職業よりも遥かに稼ぐことも可能な探索者業界において、財源の半分ほどを国からの公的資金で賄っている、準公的組織である探索者協会が勧誘合戦で勝てる訳は無い。

 有名ギルドなどが見向きもしないような、自分や部下のような有るか無いか分からないような量のマナを有しているだけの探索者なら兎も角、スキル持ちなら尚更。

 だからこそ、断られた挙げ句、帰って上司に怒鳴られる事が確定している仕事に今から従事しなくてはならないため、生駒は嘆いていたのであった。


「まあいいや。嫌でもなんでも仕事は仕事か。とっとと勧誘失敗して上に怒られに帰るとするか。それで今回のスキル持ちはどんな奴なんだ? 協会が未把握ってことはマナ登録の際にはスキルが発現してなかったんだろうが」

「あれ、駒さん知らないんですか? 最近ダンジョン配信専門のサイト『SeeKube(シーキューブ)』で話題の子ですよ」

「配信サイト? そういうの俺あんま見ないから……って、はぁ!? 未把握のスキル持ちが呑気に配信してんのかよ」

「え、はい。なので、この子が無所属どころか未把握って知ったときは驚きましたよ。どっかのギルドの秘蔵っ子だと勝手に思ってたんですから」


 ダンジョン災害が発生した際などの非常時に備えてマナを発現した者の申告は義務であるが、スキル発現に関しての申告は任意となっているため、個人の理由により申告していないスキル持ちは存在する。

 ただ申告はしていないが、全世界中に配信はするというアンバランスさに生駒は驚愕してしまう。


「……どういう奴なんだ?」

「どういう……何かとぶっ飛んでる、天然なお嬢様、とかですか?」

「はぁ?」

「口で説明するの難しいんですよね。あ、なんなら配信アーカイブ見てみますか? その方が早いと思いますよ」

「……見てみるか」 

 

 説明しにくそうにする部下から実際に残っている配信を見てみる事を提案される。確かに口で説明されるよりも、折角勧誘対象が喋っている映像があるならそれを見る方が分かりやすいだろう。

 そう考えた生駒は、部下の取り出した端末から配信アーカイブを見てみる事にする。


◆◆◆


『実験11 みかん箱に記入した内容でスキル効果は変化するのか』


 ダンジョン配信とは思えないタイトルで始まった動画の画面には、タイトル通り女の子がみかん箱に入っている映像が映されていた。

 ただ、それを指摘するコメントはほとんど流れていない。このチャンネルにとってこの光景は通常運転なのだろう。

 

「皆様、ご機嫌いかがでしょうか。杠葉琴音(ゆずりはことね)と申しますの。前回同様みかん箱に入った状態での挨拶となりますが、ご容赦くださいませ」

【箱入り娘だww】

【いいよー】

【今日も可愛いよ】



 みかん箱に入っている少女琴音は、ぺこりと軽い会釈をした後、話を始める。


「さて今回はですね、前回の実験の後、視聴者様から鋭いご指摘をいただきましたので、それを踏まえてみかん箱の新たに検証できればなと考えております。題して『みかん箱に記入した内容でスキル効果は変化するのか』でごさいます」

【おお!】

【いつも通り意味分からん】

【前回見れてないんだよなぁ】


 琴音は配信タイトルを自信満々に読み上げると、コメント欄も賑わい出す。

 ただ視聴者全員が前回の配信を見ていた訳ではないようで、中にはみかん箱を疑問に思う視聴者も存在した。そんな視聴者のコメントを視認したのか、画面上の琴音は少し思案顔を浮かべる。


「あ、そうなのですね。全員が前回の実験を視聴済みではありませんよね。では……軽く説明わさせていただきますの。このみかん箱を装備した際に得られるスキルは『捨て猫理論』。本来探索者を視認した場合、敵対行動を取る筈の魔獣さんたちが、庇護対象を見るかのごとく私に接して来るため、まるでヤンキーさんが捨て猫を見て優しくなるようだと言われましたので、『捨て猫理論』と名付けたのです」

【みかん箱を装備?】

【魔獣が敵対行動しないって凄いな】

【……相変わらずのネーミングセンス】


 琴音の説明に対する視聴者の反応は、箱に入っている事やスキルの効果に驚く者、琴音のネーミングセンスに意見する者など様々であった。


「これが前回までのお話なのです。そして今回なのですが、視聴者様から、『みかん箱に入っている様子が捨て猫なのでしたら、みかん箱に書いてある文言によって効果も変化するだろ』との鋭いご指摘がありましたので、それを検証できればと思っておりますの」

【鋭いご指摘ww】

【絶対、悪ふざけでコメントしただろ】

【書いた奴手を上げろ】


 しかし、今回の検証を行う上で参考としたコメントに関しては、視聴者の大半が意見を揃える。それは無いだろうと。

 ただ視聴歴が長く、琴音や彼女が持つスキルをよく理解している少数の視聴者だけは彼女に賛同していた。


【いや、琴音ちゃんの『箱入り娘』はぶっ飛んでるから、また訳分からん事になるかも】

「じゃあ、みかん箱に書かれそうな定番の文言をリサーチしてきましたので、書いていこうと思いますの。まずは『拾ってください』ですね……この場合、漢字と平仮名、どちらが良いのでしょうか……」


 そして、細々とした事に気を配りながらも検証動画は続いて行くのであった


◆◆◆



 動画を途中まで見た生駒は信じられないものを見るような表情で固まっていた。


「えーと……」

「この後、庇護欲をそそる文章の方が魔獣が友好的となり、逆に捨て猫を否定するような文章だと従来通り敵対行動を取ってくる事が判明したんですよね。いやー奥深いっすよね」

「奥深いっていうか、何だこのスキル。見たことねーぞ」

「だと思います。この子の配信に度々有識者が現れては驚愕して帰っていきますから。敢えて言うなら万能型のスキルって感じですか?」


 それなりに探索者歴の長い生駒であるが、あんなスキルは見たことがなかった。

 動画の内容通りなのであれば、ダンジョン産ですらない、どこにでもある普通のみかん箱を装備する事で新たなスキルを得る。既存のどんなスキルにも当てはまらない前代未聞なスキルであった。


「……こりゃ、勧誘できる訳ないな」

「そうですよね」

「はぁー、やだなー」


 どういう考えがあってスキル未申告で配信などやっているか分からないが、前代未聞なレアスキルを持っている少女では探索者協会への勧誘は不可能だろう。

 その確信が深まった生駒のダンジョンに向かう足取りはより重くなるのであった。

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