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【改稿中】猫系女子は俺にだけ当たりが強い、たまに優しい。  作者: うにパスタ
第一章 トイレから始まる青春ラブコメ
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35話 春の終わり、何かの始まり。

 カレンダーは六月になっていた。

 すっかり気温も上がり、クラスメートは皆夏服姿だ。

 オフホワイトのワイシャツの背中ばかりが見える教室後方の席から俺は授業を受けている。

 昼前の気だるい頭でノートを取る中、教卓前の鮮やかな洋紅色に目が行く。

 あれから一週間。教室での赤坂には以前のような柔らかさが戻ったと思う。

 妙に距離を取っていた仲の良かった女子とも普通に会話するようになったし、それに教室内で他の生徒と談笑するのも見かけるようになった。


「なあ、なっちゃん。今日の帰りは空いてる?」

 授業が終わると同時に前席の諫矢が振り返りながら話しかけてくる。

 見上げた先の長身痩躯は、乳飲料のストローに口を付けながら何故かご機嫌そうな顔。


「ゲーセンいかね? あのモールの」

「また行くのか」

 うんざりしている俺とは対照的に諫矢は目をキラキラさせている。


「ああいうレトロなゲームもいいなって。なんつーか、平成の古き文化? もっと触れたいなあって。今日は工藤たちも来ないしがっつりやれる」

 ここ最近、諫矢と帰り道ちょくちょく遊ぶようになった。仲のいいメンバーとの予定がない日の時だけだけど。

 俺をそんな風に受け入れてくれる明確に友人と言える存在。

 しかし、


「でも、今日はごめん」

 少し驚いた顔の諫矢を見下ろしながら俺は立ち上がった。


「今日はちょっと寄りたいところがあるんだ」



「なに、赤坂さん?」

 椅子に肘を乗せながら、赤坂の方を一瞥する諌矢。

 すぐに察したらしい。

 帰ろうとする赤坂の周りには何人かの女子が集まっていて少し困った顔をしている。


「赤坂さん、柔らかくなったよな」

「断ればいいのにな。最近のあいつはずっとあんな感じだ」

 律儀にちゃんと相手している。それこそ俺を助けてくれた時みたいに。

 あの赤坂の世話好きなところがいいところなんだろうけど。


「なあなあ」

 立ち上がったまま、じっと赤坂を見ていた。そんな俺を揶揄するように諫矢がつついてくる。


「つーかさ。お前らの関係って本当謎だよな!」

「俺も全く、さっぱり分からん」

 その即答っぷりに諌矢は笑いを押し殺すように肩を震わせた。


「奏音、スマホ変えた?」

「あ、分かる? 実は――」

 赤坂が何気なく渡瀬さんと会話をしている。

 そんな二人を見ながら俺は一足先にドアを通り過ぎた。


「……あ」

 渡瀬さんが俺に気づきにこりと笑みを作る。

 俺もそれに微かに笑みを作ろうとして、やっぱり表情が変になりそうなのでやめた。

 仏頂面のまま廊下に出る。

 ――向かう先は屋上だ。




 ♦  ♦  ♦



「今日はあいついなかったのか」

 誰もいない屋上でぼんやり時間を過ごしていた。

 そして、人が減った頃を見計らって下校する。最近俺がハマっているルーティン。

 なんとなく人気がない場所で時間を過ごすのは落ち着くし、何もしない事をするのが案外心地よい事なのだと気づかされた。

 それにたまに赤坂もいてしょうもない話を交わしたりする。クラスの今日あった出来事の愚痴とか、あとは俺が保健室行った日はまた腹痛かと突っ込まれたり。そんなたわいもない時間が今は楽しい。

 しかし、今日は一人。

 校門を出ると、頭上高くをトンビがゆっくり周回するように飛んでいた。屋上にいた時は同じ高さを飛んでいたやつだ。

 その空はほんのり赤みを帯び始めている。



「飽きないのかな、あいつ」

 ここ最近ずっと見かけるトンビに心の中でまた明日なと別れを告げる。

 そうして俺は誰もいない帰り道を歩いた。

 足が痛まないようにゆっくりと坂を下る。

 そうしていたら、


「あ」

 坂の終わりに見覚えのある赤い髪の女子生徒の姿。


「ねえ。まだ学校にいたの?」 

 すごくはっきりした声音。他に人がいないから赤坂は遠慮しない。


「赤坂こそ、まだ帰ってなかったの?」

 彼女がこうやって話しかけてくるのは珍しい光景だ。

 俺も声を張って聞き返した。

 なんで、この時間まで残っているんだろう。あの場には渡瀬さんや、北見さん達もいた。


「美祈さんのとこに寄ってたの」

 合流した所で二人で歩き出す。赤坂は俺の歩調に合わせてくれた。


「また? お前それ、ケーキ目当て?」

「こっちはパンを持って行ってるし。だからギブ&テイク」

 なんだその田舎のご近所さんの風習みたいなの。

 何も言わずにいる俺を見て、赤坂は再び口を開く。


「一之瀬は最近美祈さんのとこ寄ってないの? 親戚のお姉ちゃんが寂しがってたよ?」

「嘘つけ」

 最近は美祈さんの家で用を足す事も少なくなった。

 確かにたまたま寄った時に美祈さんは少し愚痴っていた。でも、それだけ学校に慣れてきたってことよねって喜んでもくれていた。


「美祈さんのやってるゲーム面白いから。私の家、ゲーム機お兄ちゃんが持って行っちゃったし」

「それが目的かよ」

 本当に楽しそうに言う赤坂を見て納得した。クラスメートの親戚の家によく立ち寄る理由なんて普通ないからな。


「じゃあ私バスそろそろ来るから」

 言ったきり、回れ右をして駆けていった。

 通りの建物に反響してぱたぱたと響いた靴音だけが耳に残る。


「早くしなよ。超遅い」

 かと思いきや赤坂は振り返る。そして俺を急かすように声を上げた。


「待つのかよ」

「だめ?」

「別に」

 それを見て赤坂が面白がる。何であれだけ距離取ろうとしてた相手がこんなに変わるのか不思議な気分になる。

 辟易しつつ、彼女の背中を追った。


「あのゲームほんと高いよね。うちの親ああいう趣味ないし絶対無理」

「美祈さんが異常なんだよ。普通あの歳でゲームだなんて、それもFPSだよ?」

「いいじゃん。女の人でそういう動画配信したりするし」

「あんまり人のゲーム動画は見ないんだよ」

 言いながら、何故か頬が緩く吊り上がっていた。

 振り返るなよ? 

 笑いを抑えようとした結果、中途半端なにやけ顔になっている。

 しかし、赤坂の背中を見て念じていたら彼女のスカートの裾がひらりと翻る。


「何にやけてんの? きもいよ?」

 ああ、やっぱり。

 こういう顔を見られたくない。そう思った時に限って。


「やっぱりこうなるのかよ」

 そんな自嘲が零れた。


「一之瀬。足の調子は? どう?」

「まだ痛むよ?」

「ドア蹴り過ぎたからねー」

「それにしたって言い方だよな」

 誰のせいでこんな足になったのか。

 赤坂の指さす俺の足、黒のスラックスの下には未だにでっかい湿布薬が貼っているのだ。


「もう桜も散っちゃったね」

 頭上に広がっていた桜の花びらは今ではすっかり若葉生い茂る緑色だ。

 それなのに赤坂は並木の下を弾んで歩いていく。

 その表情はまるで、降りしきる花びらにはしゃぐ子供のようだった。


「どっちが子供なんだか」

「何か言った?」

「なんでも!!」

 俺は大声で答えた。

 いちいち赤坂は俺の心をえぐりにかかる。

 それでも俺の心の中はずっと軽い。


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