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【改稿中】猫系女子は俺にだけ当たりが強い、たまに優しい。  作者: うにパスタ
第一章 トイレから始まる青春ラブコメ
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1話 フラグは腹痛でへし折られる




「一之瀬君。実は聞きたいことがあるんです!」

 女子に呼び出され開口一番にそう言われた。


挿絵(By みてみん)


 これは告白なんだろうか。

 空を見上げると、一杯に散らばった千切れ雲が、ゆっくり右手へと流れていく。

 校舎裏、一組の男女。相対して俯いたまま、目を合わせる事もまともに出来ない。

 遠くからは昼休みの喧騒が聞こえてくるが、ここは沈黙と緊張で一杯だ。


 ――どうして、こうなった。


 俺、一之瀬(いちのせ)夏生(なつき)は春に入学したばかりの高校一年生だ。

 消極的で、成績も平凡。運動神経も特別優れているわけじゃない。

 モテる要素がまるで無い。


「俺……」

「はい!」

 互いに言葉を詰まらせて見つめ合う。

 朝、下駄箱の中に可愛らしいメモ用紙が忍ばせるように添えられていた。

 それには場所、時間と『お聞きしたい事があります』という心躍る一文が、可愛らしい字で記されていた。

 彼女は俺と同じクラスだが、記憶の中では会話をしたのは恐ろしく些細な事で一度きり。

 席も離れていて下の名前も知らない間柄。

 つまり、これってやっぱり悪戯じゃないの⁉


「ダメ……ですか?」

 赤い学年色のリボンタイを指先で遊ばせながら、こちらを見つめる女子生徒。

 その潤んだ瞳と焦れったい仕草にこっちまで恥ずかしくなってくる。


「えっと」

 俺は注意深く辺りを見渡すが、彼女以外の人影は見当たらない。

 放置されたプランターからは雑草がぼうぼうと生え出し、転がったジョウロには泥が堆積している。

 そんな人気の無い場所なのだから、誰か隠れていたら気配の一つでもするはずだ。

 多分、大丈夫。悪戯ではないと信じたい!

 意を決し返答しようとした。その瞬間――


「う――」

 鈍痛と圧迫感。そして、腹の底から突き上げる耐えようのない苦痛。

 俺はたまらず(くずお)れた。


「なんで、こんな時に……!」

「どうしたんですか!? 一之瀬君?」

 驚いた様子で女子生徒も屈みこむ。耳にかかるのは、俺を気遣う吐息混じりの声。

 しかし、彼女の優しさに『大丈夫だよ』と返す事ができない。

 脳裏を支配するのは今も襲い来る腹の痛み。


「ごめん……今は本当にごめん!」

 気が付けば一目散に逃げだしていた。

 情けないこの姿を、彼女は一体どんな気持ちで見ているのだろうか。

 しかし、そんな事を気にする余裕は既に残されていない。


 ――何で、こんな時に……何でだよ!




 ♦  ♦  ♦



 俺を襲ったのはとてつもない腹痛だった。

 俺は胃腸がとにかく弱い。人生の重要な局面でこの忌まわしき現象は幾度となく襲ってきた。

 そして、今回も。

 せっかく彼女を作るチャンスだったのに!

 だが、あのまま留まっていたらとんでもない事になっていたかもしれない。

 万に一つ、あの場の告白が悪戯だったとしても笑われる程度で済むけど、ウン〇を漏らすなんてレベチどころの話じゃない。

 入学早々、恐ろしい黒歴史を残すところだった。

 それなら、ほとんどぼっちで地味な今の高校生活を継続する方がましだ。


「ああ~、すっきりしたッ!」

 ジャーッ。

 銀に輝く水洗レバーを捻ると、洗浄剤で染め上げられた青い水が勢いよく流れ出す。

 俺の絶望、諦念、悔悟……それら全てが水底に吸い込まれていくのを見届けてからトイレを出る。


「トイレ。貸してくれて、ありがとうございました!」

 俺はそう言ってこの学校近くの親戚の家を後にした。



 俺は度々学校を抜け出してこの高校近くにある親戚の家のトイレを借りていた。

 去年の暮れ。親戚同士の集まりでこの俺の悩みが話題になった。

 母からその話を聞いた親戚のおばちゃんがこう言った。

『それなら、娘の新居の近くに高校があるから、そこを受けたらいいんじゃない? 朝の登校前とか昼休みに抜け出してトイレ借りられるわよ』

 そして、本来の志望校よりワンランク上の難関を突破した俺。この春からこんな風に度々学校を抜け出してはこの家を緊急トイレとして使わせてもらっている。


「昼休みだからいいけど、午前中の時間だったらやばかったな」

 混雑する学校の男子トイレ。その中で個室に入る勇気は俺には無い。

 俺は学校へと戻る坂道を上っていた。

 大通りの両脇には桜が整然と植えられていて、花びらが音もなく落ち続けていた。

 まるでそれは桜のトンネルみたいでひたすらに綺麗だった。

 腹痛のせいで落ち着いて眺めることが出来なかったこの風景、俺は今更のように見とれていた。



 ――たんっ。


 アスファルトを叩く軽やかな靴音。

 陽を遮る桜並木の下に女子生徒の背中があった。

 紺のボレロの裾をひらひらさせながら、こちらを振り返る一人の女子生徒。

 俺が親戚の家でトイレを借りるのは『やむを得ない場合』だから仕方ないけど、勝手に校外に出るのは校則で認められていない。


「……ったく。昼休み中なんだから、出歩くなよな」

 彼女の腰までかかった深紅の長髪は、柔らかな桜の花びらとは対照的で鮮やかに艶めいていた。

 真新しくぎこちない靴音が鳴る度に、結わえられた二つのテールが跳ねる。

 確か、ああいう髪型はツーサイドアップって言うんだっけ。

 ふと、女子生徒がこちらを振り向いた。


挿絵(By みてみん)


 薄くメイクが乗った横顔。目が合った瞬間、彼女は逃げるように駆け出していった。


「ああ、面倒なことになった」

 俺は、肩先に張り付いていた花びらをそっと払いのけた。

 さっきまで、春の温かさに浮かれ気分だったのが嘘のようだ。

 昼でも薄暗い、桜の枝葉に覆われた空。

 俺の気分が沈んだ原因。

 何故なら、あの女子生徒『赤坂環季(あかさかたまき)』はクラスメートなのだ。









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