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4-14 追加任務

 その日の放課後も、俺は旧校舎の被服室で作業を手伝っていた。


「ちょっといい?」

 作業を初めてしばらく経ってから、赤坂が俺の所にやってくる。

 すると、一緒の模造紙にちぎり絵を貼り付けていた西崎達が露骨に反応を見せた。

 野宮紫穂と二人で赤坂に火花を飛ばしていた。一方の赤坂もその強硬な姿勢は崩さずじっと見返していた。

 間に挟まれた形で座っている俺、胃がヒリヒリしてくる状況だ。


「西崎さん。ごめん忙しかった?」

「別に」

 敵対心たっぷりの西崎からに気づいているのに、赤坂は敢えてわざとらしい笑顔を浮かべている。お願いだから仲良くしてくれよ。


「一之瀬なんだけど借りていい?」

「別に。いいし」

 明るい口調の赤坂に素っ気なく返す西崎。二人の間の温度差がやばい。

 しかし、赤坂に友好的に話しかけられたのは流石に調子が狂うのか。西崎はもやっとした表情のまま作業に戻る。


「なんだよ」

「ちょっと頼み事あんだよね。来て」

 そのまま赤坂に続こうとする。

 ふと、振り返ったら西崎がこちらにきつい視線を向けていることに気づいた。

 背中から感じる殺気はしばらく消える事は無かった。


「で、用事って何だよ赤坂」

「一之瀬って桜川さんの家知ってるんだよね?」

 黒板前の長机。俺を連れてきた赤坂は開口一番そんな事を問いかけてくる。

 突然降って出た桜川さんの名前に何故か心がざわついた。


「それがどうかしたの?」

「どう? 知ってるの?」

「まあ、一応。知ってるけど」

 俺はぶっきらぼうに答える。

 桜川さんの家は諫矢の真向いなのだ。諫矢の家を知っていて分からないわけがない。

 だが、答える時に少しだけ躊躇してしまった。


「そ。じゃあ迷うなんて事無いよね」

 赤坂は俺の繊細な心境の葛藤など全く気にしていない。その辺に置かれていた鞄を取ると中から何か取り出す。


「あのさ。桜川さんずっと休んでるし、これ渡しといてほしいんだよね」

 差し出されたのはプリントの束が目一杯挟みこまれたクリアファイルだった。

 見た感じ各教科で配られた資料や課題のプリントのようだ。授業に遅れない為に赤坂が計らったのだろう。


「流石だな赤坂。こういうのもちゃんと準備してるのか」

「一之瀬の帰る方向も駅の方でしょ? 今日はもう帰っていいから桜川さん家に寄って渡しといてくんない?」

 そのまま押し付ける形でクリアファイルを渡された。

 ふとそこで沸く違和感。


「ちょっと待ってよ。諌矢は? あいつの方が家近くない?」

 そもそも真向かいだし。しかし、赤坂は口元をぎゅっと結んだ。


「断られちゃった。何か用事あるんだって」

「ええ……」

 文句の一つでも言ってやろうと被服室を見渡すが、諌矢の姿は見えない。


「無駄だよ。もう帰っちゃった」

「だから、俺に頼んだのかよ」

「何、嫌なの?」

「いや、そういう訳じゃ……」

 確かに俺は桜川さんの家の場所だけは知ってる。諌矢の真向かいのデカい家だったし、間違う筈も無い。

 けど……例え玄関先だけだとしても、女子の家に一人で行く事が何となく気後れさせるのだ。


「こういう事も引き受けてくれないなんて……ケチ」

「ケチって」

 更なる言葉の追撃。

 拗ねたような言い方の赤坂。他の生徒の目もある手前、どことなくかわいらしさはあるんだけどやっぱりケチって言われるのはきつい。

 仕方ない。行くか。


「わかったよ、じゃあ俺が――」

 赤坂の頼みを受けてやろう。そう思って言いかけた所で視界にちっこい影が現れた。


「清華ちゃんの家行くの?」

 俺と赤坂の間にぴょこっと現れた江崎さん。

 両手を後ろに組み、前かがみで俺達を見上げるその仕草はどことなく小動物っぽさがあって可愛らしい。


「なら、一緒に行ってあげようか? 今日部活無いから大丈夫だよ」

「え、俺と?」

 江崎さんはけろっとした顔でまんまるの目をぱちくりさせている。


「他に誰がいるのかな? それに、環季ちゃんの家からだと遠いじゃん」

 鋭すぎる指摘に言い返す言葉もない。


「ていうか、江崎さん部活やってたの?」

 じっと見ると江崎さんは可愛らしく小首を傾げる。癖っ毛のショートカットがはらりと頬に被さった。


「水泳部だけど。どういう事かな?」

「ずっと残ってるから、帰宅部だと思っていたよ」

 いつも赤坂や竹浪さん達と一緒に壁画制作を行っている。だからそのまま思った通り言ったんだけど、江崎さんはどうしたと言わんばかりの真顔。

 口許はVの字なのに目の奥が笑ってない。怖い。


「そうか、水泳部か。意外だ」

 俺は一人自分を納得させるように呟く。


「体力づくりは校内でやるけど、殆ど市民プール行ってるし」

「そ、そうなんだ」

 確かに市民プールならデカいし学校からも近い距離にある。練習をするにはもってこいだ。

 そんな事を考察していたら江崎さんと赤坂がじっと俺を見ていることに気づいた。二人の距離が近すぎる。


「で、行くの? 行かないの?」

 江崎さんは面白い物でも見たかのような顔。もしかしてからかわれてるんか、これ。

 思わず、俺は隣で静観していた赤坂の様子を窺う。


「良かったじゃん一之瀬。女子の家に一人で行くことにならなくて」

 そう言って赤坂も嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべていた。



 ♦  ♦  ♦


「今日は清華の為に来てくれてありがとうね」

 桜川さんとよく似た黒髪。彼女の母親に見送られながら、俺と江崎さんは玄関を後にした。

 結局、桜川さん本人と会う事は出来ず。玄関先でクリアファイルを渡すだけで終わった。

 桜川さんは家族にも何で休んでいるか言っていないらしく、彼女の母も戸惑っているようだった。

 親には言えない悩み的な何かなのかしら? と言っていてどう返すべきか困ったけれど、その辺は江崎さんが上手くフォローしていてくれたので助かった。


「ありがとう。俺一人だったら多分会話成立してなかったよ」

「気にしなくていいよ。清華ちゃんのお母さんとは何回か話した事あるから」

 広い桜川家の敷地。俺達は瀟洒な石畳の通路を歩いて外へと向かった。その横で江崎さんは一仕事終えた後みたいに機嫌がいい。


「江崎さんは桜川さんと結構遊んだりするんだね」

「まーね」

 そんな事を交わしながら外門を出る。

 ふと、その真向かいにある諌矢の家が目に留まった。

 桜川さんの家は西欧の洋館っぽさがあるけれど諌矢の家は外観がすっきりまとまっていてシステマチックな印象だ。豪華だけど無駄がない。


「ん? 一之瀬君。どうかしたー?」

 諌矢の家に気を取られていたら、隣の江崎さんが俺を覗き込むよう見上げていた。


「い、いや……」

 向かい側が諌矢の家だと言う事を江崎さんは知らないのだろうか。そもそも、クラス内での桜川さんと諌矢はとてもじゃないが幼馴染には見えない。お互いそういう事をアピールしないからっていうのもあるけど。

 それを自分から江崎さんに言うのも気が退けてしまって、俺は口ごもる。


「あー、ここって風晴君の家なんだよね」

 ――なんだよ、知ってんのかよ!

 江崎さんが思いもしない一言をぶちかます。


「あれ、一之瀬君もしかして知ってた?」

 好奇に満ちた顔の江崎さん。人差し指を顎に当ててこちらを見上げている。


「い、一応……知ってるけど」

 少しどもりながら江崎さんに言い返す。


「けど?」

 しかし、外門の鉄柵をキイと閉めながら、江崎さんは満面の笑みを崩さない。

 何だろう。彼女の目的が分からない。


「えっ」

「えっ」

 互いにそんな言葉を漏らし合う。

 彼女が目を合わせてくるだけで俺は言いようのない不安迷い恐れといった感情に襲われる。

 江崎さんの放つ一言一句には俺の一手先を制するような、逃げ道を塞がれていくようなプレッシャーがあるのだ。


「さ、桜川さんの家の真向かいなんてな。近いよな」 

 だから、こんな風に明らかにおかしな言葉を発してしまう。


「本当だよねー。あはは」

 しかし、江崎さんは割と普通に笑顔で返してくれる。

 俺が単に彼女との会話になれていないからかもしれないけど。

 流石、女子の複雑怪奇な人間関係を上手くやっている江崎さん。ここで赤坂や西崎みたいに直球でトドメを刺しに来る痛撃の一言が無いのはありがたい。


「ふん……ふん♪」

 ふと、小さな鼻歌が耳を掠める。江崎さんは機嫌良さそうに歩いていた。


「……」

 そんな彼女の横顔を見て俺は思った。

 もしかして、桜川さんと諌矢の関係性も知っているのだろうか。

 学校ではいつも一緒にグループを組んでいる訳でもないけれど、江崎さんも俺や諌矢達と同じ方向に住んでいる。

 ねぶた祭りの時も来ていたし、桜川さんのグループとの付き合いも多いのかもしれない。


「あーそう言えば風晴君の事で思い出したんだけどさ」

 ずっと沈黙していたら江崎さんが口を開いた。


「一之瀬君って風晴君と仲良いよね?」

「一応」

 にっこにこで話を進める江崎さんに、俺は少し迷いながら答えた。


「そう言えば風晴君の事。聞いた?」

「何を?」

「あ、知らないんだー?」

 江崎さんは面白い物でも見たかのような笑みを浮かべる。彼女の思惑が分からない。

 まさか、桜川さんとの歩道橋のやり取りか? 

 あの時、俺しかあの場にはいなかったと思うけど、もしかしたら江崎さん達も見ていたんだろうか。そんな事を考える。


「渡瀬さんが風晴君に告白するんだって? 知らない?」

「え? 渡瀬さんが? へ、へえ……」

 ラブレターを渡してほしいと言われていた事があるので、彼女の諌矢に対する感情は俺も知っている。しかし、まさか渡瀬さんの話を江崎さんから聞くとは思わなかった。

 しかも、江崎さん達には諌矢を狙っていると公言しているって事か?

 驚きを隠せない。


「江崎さん。そういうのって誰かから聞いたの? 噂?」

「本人からだよー」

 マジかよ。俺は呆然として江崎さんを見ていた。

 最近は雨続きで八月の終わりにしてはそこそこ涼しい。それなのに、明らかに鼻の頭に汗が浮いている感覚がする。


「女子同士って、こういう話ってすぐに広まっちゃうからねー」

「そういうものなの?」

 俺が不思議がると『ちっちっち』と人差し指を軽く振る江崎さん。何故にドヤ顔。


「そういう物なんですよ。一之瀬君」

「うーん」

 楽しそうに振り返りながら語る江崎さん。しかし、俺はどうにもその感覚が掴めない。


「野球の予告先発みたいなもの?」

「なにそれ知らなーい」

 あっけらかんとした口調でスルーされた。江崎さんは楽しそうなテンションのまま続ける。


「風晴君は他のクラスでもコクった人いるらしいからねー。だから早めにケリをつけておきたいとかあるんじゃないかなー。前々から渡瀬さんは風晴君狙いだって言ってたし」

「へ、へえ……」

 俺は大体……というか全部その辺の事情は知ってるけど、江崎さんには生返事をする事しかできない。勘の良い江崎さんに俺と渡瀬さんのやり取りを知られたらあれこれ探られそうだったから。


「いいよね、アオハルって感じで!」

 江崎さんはそう言って、締めくくった。

 夕陽で二割増しくらいキラキラした瞳が無邪気だ。


「んで、一之瀬君は風晴君の好きな子って知ってる?」

「はあっ!?」

 安心したところで俺にドストレートで質問をぶつけてくる。


「何で。俺が知ってる訳ないじゃないか」

「本当に? 仲良いよね? 男子同士でそういう話しないの?」

 興味深そうに江崎さんが俺に尋ねる。


「しないよっ!」

 狼狽しながら答えるけれど、追及の眼差しは俺に向けられたままだ。


「でもさー。もし、風晴君が渡瀬さんと付き合う事になったら」

 不意に江崎さんがそんな仮定の話をする。

 俺は、ふとそれに合わせるようにイメージを浮かべ、


「ああ……」

 そんな絶望にも似た吐息が漏れた。 

 二人がもし、今後付き合ったら俺が気まずくなりそうだったからだ。

 数少ない友達が彼女持ち。諌矢は多分渡瀬さんともいつも一緒にいて、その場に俺が居合わせるのは正直気まずい以外の何物でもない。

 俺は自然に遠慮して諌矢から距離を置き下手したら交友関係が徐々に薄れ、ぼっちになるかも。


「何か、それは嫌だなあ」

「もしかして、一之瀬君って渡瀬さんの事好きなの?」

「そういう意味じゃなくって――」

「彼女、可愛いもんねー。男子とかにも人気あるし」

 江崎さんは一人で納得しながら前に向き直る。女子の江崎さんから見ても渡瀬さんは可愛いらしい。


「一之瀬君はそんなにって感じ?」

「う、うーん。人気があるっていうのは分かるけどさ」

 それを聞いた江崎さんがふふと笑う。

 今のは無難に答えられたんだろうか。


「あまり反応しないね、一之瀬君」

「性格は良いと思うよ」

「ふーん」

 興味なさそうに江崎さんが前に向き直った。

 変に意識せず、反発もしてないから不自然な受け答えにはならなかったよな……?

 江崎さんに勘づかれないか俺は気が気じゃない。


「顔もかわいいよね。アイドルとかできそう」

 そう言っている江崎さんは女子特有のお世辞って感じでもなかった。

 実際、渡瀬奏音という女子は相当可愛い部類に入ると思う。

 華奢で小柄な体躯。どこかふわっとした雰囲気の性格は隙だらけで俺でもワンチャン振り向いてくれるかも、という期待を抱かせる。

 俺自身、彼女に呼び出されて本気でドキッとした事もある。

 でも、渡瀬さんは諌矢が好きなんだ。


「風晴君、なんて答えると思う? 一之瀬君は何か聞いてない? 友達でしょ?」

「脈ありかって?」

「そうそう。大丈夫そうなら渡瀬さんに教えとくからさぁ。教えてー?」

 そういってしなだれかかるように寄ってくる江崎さんから必死に距離を取った。


「え何。もしかして私避けられてる? 一之瀬君ってほんと女子苦手なんだね」

 この女子も相当あざといなと俺は思った。

 悪びれも無い口調でさらっと言ってのけるのがまずあざとい。

 依然こちらを上目で窺う小柄女子江崎さん。俺はじっと彼女を見返す。


「生憎、俺に聞いても分かんないから。それに諌矢は誰がタイプとか誰が好きだとかそういう話すらしたことないよ」

「ふーん。男子同士でそういう会話ってしないものなの?」

「他は知らないけど俺はしない方なんだって。それを諫矢も多分察して恋愛話なんて振ってこないんだよ」

 俺は泣き出しそうな気分で答えた。

 何だってこんな事江崎さんに言わなきゃいけないんだ。アドバンテージを常に与え続けている気がする。次に教室で会った時、江崎さんにもっといろんな弱みを握られてそうで怖い。

 本当に恐ろしい女子だ。


「じゃあ西崎さんとか竹浪さん、山吹さんあたりと付き合ってたりしないのかな? よく風晴君とグループでいる子達!」

 明るい口調で江崎さんは直接何人かの名前を挙げてくる。別のグループから見たら西崎達の誰かと付き合ってるとかは確かに考えそうだ。

 だが、しかし……


「諌矢は多分、誰とも付き合ってはいない。そう思ってるけど――ごめん。分かんないや」

「へ、へえ!」

 正直に自分の考えを伝える。驚いた顔の江崎さんが間近まで迫っていた。

 俺の話に聞き入っていたようだ。はっと気づいて流石の江崎さんも半歩退く。

 近すぎるのは彼女も理解したらしかった。


「意外だなー。でも一之瀬君って風晴君と仲良いし、多分本当なんだよねえ?」

「さっきも言ったけど俺はそういう系の話しないから……もし探り入れたいなら俺に聞くより甲野とか工藤達の方が詳しいと思うよ」

 あいつらの方が彼女作るぜとかなりふり構わないタイプだ。モテ男の諫矢と何らかのそういう話をしていて情報を掴んでいる可能性は高いと思う。


「えーやだよ」

 しかし、江崎さんは苦い物でも食ったような顔で左右に首を振る。


「へ?」

「だって、あの人達なんか怖くない?」

 江崎さんの口調を聞く限り冗談でもなさそうだ。本当に苦手なんだろうか。


「甲野は確かに見た目怖いけど……でも、工藤なら大丈夫じゃない? あいつ結構いいやつだよ」

「違う。違うんだって」

 俺が答えると、江崎さんはくつくつと笑う。オレンジがかったショートカットから髪の毛が数本ぱらりと頬に垂れ込む。


「私は、風晴君と仲の良い一之瀬君なら聞きやすいなって思っただけだよ」

「う……」

 ちらりと俺を見る江崎さんは、何故かいつにも増してあざと可愛かった。

 どういう意図で言っているのか判断に困り、口ごもってしまう。

 そこに食らいつくように江崎さんが満面の笑みで覗き込んでくる。


「んっ? 照れてる?」

「照れてない」

「顔赤いよ?」

 ふるふる手のひらを俺の前で扇ぎながら、面白そうにからかってくる江崎さん。

 赤坂とは違って俺がキョドると余計に面白がってしつこく食いついてくる。なかなかの難敵だ。しかも距離感が異様に近い。


「環季ちゃんと話してる時はもっと自然だけど、私だと緊張するの?」

「する」

 強がり気味に返す。それでも江崎さんは動じない。


「またまたー」

 白い歯を見せながら良く響く声で笑う江崎さん。

 ぱたぱたと俺の横を歩き続ける小動物みたいな女子は、不意にそのペースを速めた。


「あー面白かった。あ、私こっちだ」

「え、ああ」

 そのまま、江崎さんは手を振って別れを告げた。

 最後まで翻弄されっぱなし。俺は小さく会釈だけ返して自分の家へと向かう。

 本来なら自転車で通る家への道。最近雨が続いたせいですっかり歩きで通うようになっている。

 自分の足でゆっくり歩いていると、いろいろ考えつく。


「あっ」

 ふと、沸き起こった仮説。

 もしかして、桜川さんは渡瀬さんの気持ちを結構前から知っていたんだろうか。

 それで、彼女が本格的に行動に出る前に先に諌矢に告白をしたのだとしたら、


「いや……」

 もし、あの歩道橋のやり取りがそういう愛の告白めいたものだったら。俺はそういう過程で考察する。

 そもそも諌矢と桜川さんは幼馴染なのだ。そういうフラグが建っていても不思議じゃない。


「くそ、駄目か」

 そこまで考えた所で、首を振る。

 だったら何で桜川さんを泣かすような事をするんだよと思った。

 桜川さんの真意は俺がはっきり聞いたわけでもない。諌矢とのやり取りすら俺の勝手な憶測にすぎない。

 江崎さんに指摘された通り、俺はこういった恋愛方面の話は滅法弱い。


「明日は学校来てくれるといいんだけどな」

 とりあえず目の前の謎は俺にどうこうできる物でも無い。

 問題を棚上げにしながら他人任せな事を呟いた。



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