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3-16 桜色の闘志

 HRも終了し、皆が帰り支度を整える。


「桜川さん」

 俺は教室のほぼ真ん中の席にいる桜川さんに話しかけた。

 人が少なくなり始めた教室内でタイミング良く一人だったのは本当に幸運だった。


「え、どうしたの? 一之瀬君?」

 通学用のリュックを机の上にとんと立てかけつつ、振り返った桜川さんはきょとんとした顔をしている。

 俺の方から女子に話しかけるのは相当にレアなケースだ。桜川さんが驚くのも無理もない。

 でも、話しかけずにはいられなかったのだ。


「諌矢のやつ、本気でやってくれるみたい。英語の一科目だけだけど」

 その言葉を聞いて、俺の言いたい事を理解してくれたのか。

 ようやく彼女の表情が色づいていく。


「もしかして――それを伝える為に?」

 桜川さんと一緒に教室後方を窺うと、須山達と一緒に出ていく諌矢の背中が見える所だった。


「まあね。快諾してくれたよ」

「へえ、そうなんだ?」

 そっと黒髪を揺らし、教室の喧騒に溶け込むような声音で俺に尋ねる。

 一見素っ気ないけれど、気持ちの昂揚が隠しきれていない。口角が吊り上がるのを必死にこらえているのが横目でもわかる。


「ありがとう。ちゃんと覚えていてくれてたんだね……一之瀬君」

「え、ああ……」

 桜川さんがテスト対決を望んでも、けむに巻いていた諌矢だ。

 予想外に上手くいった。この状況を待ちわびていた桜川さんに釣られて俺も笑いをこらえきれなくなった。


「やっぱり一之瀬君って、諌矢君に信頼されてるんだね」

「へ?」

「だってそうじゃない? 私が言っても冗談で受け流されるのに、一之瀬君の言う事は聞いちゃうんだもん」

 俺の約束を本気にしていなかったんだろう。桜川さんはほっと息をつきながら、リュックに教科書を詰め終える。


「でも、別にそこまで頼まなくてもよかったのに――本当に諌矢君に言うなんて」

 その様子を見ていたら、俺も徐々に落ち着きを取り戻していった。


「とかいいつつ、本気でやるんだよね? 桜川さんは」

「うん」

 即断即決で黒髪を揺らして頷く。


「しかも、私が一番勝負したかった英語の科目。負けられないよ」

 陽を蓄え輝く瞳の暗桃色ダークピンク。その奥には力強い意志が渦巻いていた。


「清華ちゃん。一緒に帰ろうよ」

 と、そこに桜川さんと仲の良い女子がやってきた。

 その女子はちらりと俺の方を窺って不思議そうな顔。

 まあ、そうだよな。諌矢や須山、斎藤みたいな陽キャ男子ならともかく、接点なさそうな空気ポジの俺が話しかけていたんだから。


「うん。丁度終わったとこ。行くね?」

 ちらりと視線で合図をしつつ、桜川さんは教室を出ていった。

 多分、帰ったら明日の試験に向けて全力でスパートをかけるんだろうな。

 それこそ、これまで培った全てを総ざらいして。

 既に校内で才女として名を馳せている桜川さんの全力、そして実力を隠していた諌矢の本気。

 二人が試験でぶつかり合ったら、一体何が起きるんだろう。どちらが勝つんだろう。

 俺は一人、思いを馳せる。


「ああ。俺も、さっさと帰って勉強やるか」

 人の大分減った教室。

 まだ鞄も教科書も乗っかったまんまの自分の机を見ながら、俺も気を引き締めた。

 前回は途中で倒れて順位も点数も酷い物だった。今度こそは汚名返上をしなければならない。

 赤坂にも負けたくないしな。


「よし……!」


 ――今日は全力で()()()()だ。






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