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3-15 陰謀バレバレの宣戦布告

「おい、諌矢」

 授業を切り上げ、校舎に戻る道すがら、諌矢に声を掛けた。


「あんなホームラン打てるなら、何で球技大会でそれをやらなかった」

 そうすれば、俺や赤坂があそこまで奮起せずとも余裕で勝てていただろうに。

 しかし、諌矢はいつもの底の見えないようなとぼけ顔で振り返る。


「いやー、そうなるとお前らの見せ場ないじゃん? それに俺、テニスとかバスケに引っ張りだこだったし」

「それならお望み通り、タコ殴りにするぞ。このチート野郎」

 嫌味に恫喝で返すのだが、諌矢はアッハー! と笑う。


「俺ってさ、ほら。なんでも出来るけどさ。あんまり出来過ぎると嫉妬とか買うじゃん?」

 赤坂と似たような事を言う。リア充特有の悩みってやつか。

 しかし、そういう話をする時は自罰的な赤坂とは違ってコイツはいつも飄々としているのだ。

 自分の事なのにまるで他人事。俺にはそう見えて仕方がない。まあ、こういうところが人気者でメンタルも強く持て続けている所以なんだろうけど。


「要領いいんだな。本当に腹立つわー」

「要領……ね」

 いつもの自信たっぷりのドヤ顔の返しを期待して放った一言。

 しかし、何故か諌矢は一人で自問自答しているようだった。


「俺は普通にやってるだけなんだけどなー」

 そう言って硬かった表情をふにゃっとくずして笑う。

 結局、俺達が会話をしたのはそこまで。

 職員用の駐車場を横切って昇降口に向かう。

 隣に並んで歩き続ける諌矢の横顔をちらりと見るけど、向こうから話しかける事は無い。


「あ、そうだ」

 意を決して俺は声を出す。言うならこのタイミングだと思ったのだ。


「じゃあ、諌矢。俺と勝負しろ!」

 何故か気落ちした風の諌矢を元気づける意味も兼ねて持ち出したのは、この前桜川さんと話した試験での点数対決の話だ。

 まさにナイスタイミング。

 しかし、諌矢の方は俺が何を言おうとしているかなんて分かる由もない。


「はあ……? 今度は何だよ」

「今度の期末。俺と点数勝負だ。科目は英語!」

 空元気を振り絞り、びしっと指をさして言ってみる。

 瞬間、びゅうと涼しげな風が吹き抜ける。

 あ、やばい滑った。


「なあ? さっぱり意味がわからないんだが」

 先程までの鬱屈とした空気が諌矢からふっと消え去る。

 続々とクラスメートが昇降口に入っていく中、俺達はこれから早撃ちの決闘でも始まるかのようなスタンスで立ち止まり、対峙する。


「つーか、夏生が俺に勝てんの?」

 追い越していく女子のグループに手を振りながら、俺の方から注意を逸らす。

 こっちは真面目に言ってんのに相変わらず軽い野郎だ。


「いつも思わせぶりに匂わせといてるけどさ。諌矢の実力っていまいち分かんないんだよ」

「だから、勝負しろって?」  

「そういう事だ」

 野球のホームランもバスケも、そして普段の飄々とした振る舞いも。諌矢は、いつも汗一つかかずに難なくやっている。


「どういう事だよ」

 呆れたようにまだ笑っている。そろそろ教室に帰りたさそうだ。


「何でもそつなくこなすのもいいけど、たまには本気を見せろ……テストくらいならいいだろ?」

 だから、がむしゃらに本気になった所を見せて見ろと発破をかける。

 そんな思いで諌矢を煽った矢先、


「一之瀬。邪魔」

「なっ」

 赤坂が俺達の真ん中を通り過ぎていった。

 この野郎、せっかく決まったと思ったのに邪魔しやがった。


「また二人で馬鹿やってるのね……」

 吐き捨てるように言いながら歩いていく赤坂だけど、何の会話をしているかは雰囲気で分かっているだろう。

 気まずくなった俺は諌矢の方を見る。


「いいよー」

 すると、諌矢は快諾。清々しい夏の空をいっぱいに見上げる。


「あ、あれ……?」

 適当にはぐらかされると思いきや、すんなり上手くいくなんて。

 逆に肩透かしを食らった気分の俺は、それ以上の言葉を失ってしまう。

 まあ、いいのか。いいんだよな。結果的には。


「清華だろ?」

 そう思いきや、天を見上げていた諌矢が確信めいた口調で言った。


「は? 何を」

「ここで急にテスト対決の話を持ち出すのおかしすぎ。どうせ、清華の差し金だろ? 前に俺の家で同じ話したし」

 どうやら、諌矢は桜川さんが熱望していたテスト対決の話を覚えていたらしい。


「え、えと……」

 完全に看破され、俺はお手上げ状態だ。

 遠ざかる赤坂の背中を見ながら、正直に話すしかないと覚悟する。


「桜川さんは諌矢に対抗意識燃やしてんだよ。それに、俺も英語は大分上達してきたと思うし。なら、ここは三人で本気のテスト対決も良いかなって――」

 こいつは色々と小賢しくて勘がいい。俺程度で出し抜くのは不可能だ。

 こちらの思惑が完全にばれている以上、開き直るしかない。


「諌矢が本気を出さなくても俺じゃ相手にならないのも知ってる。だとしても、俺は桜川さんとは対決を継続するつもりだ」

 諌矢が馬鹿らしいと言ってしまったらおしまいの話だけど、俺は臆さず言い続けた。


「分かったよ」

 でも、諌矢は一笑に付す事なく、俺に穏やかな表情を向け答える。


「英語だけでいいんだよな? いいよ」

 そして、なぜか拳をポキポキ鳴らし始める。


「本当に本気でやってくれるのか?」

「夏生がそうお望みなんだろ?」

 意外な程あっさりと承諾してくれる。


「けど、ぜってー俺の勝ちだけどな?」

 諌矢はそう言ってうっすらと目を細める。大胆不敵な顔。勝つ気満々だ。


「こっちこそ、これでも桜川さんと諌矢から英語は教えてもらったし……やってやる」

 そんな風に睨み合っていたら後始末を終えてグラウンドから戻って来る担任の猿倉と目が合った。

 喧嘩とか思われたら面倒な事になりそうなので、俺達はほぼ同時に踵を返す。


「んじゃ、今日から本気でテスト勉強すっか」

 そう言って、諌矢はちらと俺をみて口許を吊り上げる。


「言っとくと、俺の前回の英語順位は二十位な。今度はそれより確実に上に行く。そうしたら本気出したって信じてくれる?」

 前回の順位よりも上ならば本気出した証拠として判断しろって事らしい。


「分かった。信じるよ」

 こうやって言葉にする事が諌矢なりの誠意らしい。俺はそう受け取って頷き返した。


「よし――じゃあ、約束だ」

「ん? ああ……」

 俺が手のひらを突き出すと、諌矢は小首を傾げつつも握手を返してくれた。

 俺より一回りはでかい、バスケに滅法役立ちそうな手のひらとしっかりした骨太な指の感触。

 そんな中、ふと思った。


「そういや、テストって翌日だよな。諌矢勉強してたの?」

「ばーか」

 二度三度、ぶんぶんと握手をしながら思いきり反動をつけて放す。勢い強すぎて関節外れそう。


「俺の一夜漬け舐めんなよ。五位以内には確実に入ってやる」

 肩を回す俺を見下しながら、諌矢は五本指を立てて笑った。


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