試験プロジェクト 8
今回の解決方法として、あかりを訓練する内容の案は特に問題ない。それに、皆んなで多数決したから、異議も無い。
でも、私には少し引っかかるところがあった。
私が急にだんまりとしたからだろうか。その場にいた全員も静かにこちらの様子を伺い始めた。
私がどうしようか逡巡していると、ふと、ミラが声を発した。
「エミリーさん。もしかしてあかりさんのあのことですか?」
無意識にピクリと肩が動く。
どうやらミラも気付いていたらしい。
ーー私そんなに分かりやすいのかなぁ。
黙り続けたり、ここまであからさまに反応してしまうと、意見があるのが丸分かりである。これは言うしか無いな。
私は大きく深呼吸をすると、くるりと皆に顔を向けた。
「はい。確かに私なりの意見はありました。でも今回の作戦で問題ないかなと思っちゃったんです」
私は自分の意見を述べ始めた。
実は作戦開始直後から抱いていたモヤモヤ。
ーーそれは、「あかりには別に好き人がいる」ということだ。
あかりは守という男性が好きなのだ。
そのことをミラの調査報告から知り、なんとか出来ないかと思っていたのだった。
正直なところ、この世界のルールに従いながら依頼主を幸せにするのが主流だ。だから今回のあかりを鍛えるとの案は、決まった婚約者と結ばれるよう促せる、特に当たり障りない作戦である。
しかしながら、私はそれではあかりの本来の幸せではないと思ってしまった。
本当に好きな人がいるのであれば、その人と結ばれるのが幸せなのではないだろうか。ミラの情報によると、守とは良い仲だと聞く。ならば守と幸せになってほしいというのが私の考えだったのだ。
だが……作戦を開始してしまった上に、以前のように単独行動ではなく後輩を従える身では、作戦変更は容易に出来ない。そのため、モヤモヤした状態で進めてしまっていたのだ。
そんな私の葛藤だが……いとも簡単にタロウに見抜かれてしまい、私としては非常に驚いてしまった。
「と、いう訳で、私はあかり様の幸せについて別の案を考えたものの、踏み留まってしまった次第です」
私は一通り意見を言ってしまった。
多分、「今更そんなこと言うんじゃねーよ」「夢物語かよ」なんて思われてるだろうなと考えた私は、話し終えると逃げるように部屋を出ようとした。
しかし……
「すごいです、エミリーさん!」
「実にインセンティブが高まりそうです」
「め、名案です!」
との後輩達の声で、私はドアノブを掴む手を止めた。
「え?」
私が戸惑いながら後輩達に目線を送ると、3人とも私の側に駆け寄ってきたのである。ジルが私の手を両手で掴み、こう言った。
「やっぱり、先輩の下についてて良かった! きっとエミリーさんなら何か思い付いてくれると思った!」
横のクレイも頷く。
「はい、打開策をきっとお持ちだと思っていたんです。やっとあなたの革新的な意見を聞けましたね」
「ま、待って待って待って?! どういうこと?!」
突然の後輩の圧に焦っていると、ミラがヒョッコリと顔を出した。
「わ、私達が意見を否定するとでもお思いでしたか?」
「え、あ、いやその……」
おどおどしていると、見かねたミシェル部長が近づいてきた。
「この子達3人は、なんでこのチームに配属されたか分かるか?」
い、いきなり何を言っているんだろうか?
「い、いえ分かりませんが……」
私が動揺しつつ返事すると、ミシェル部長はさもありなんと、話を続けた。
「一言で表現すれば、革新的な考えを大事にしている子達なんだ。君と同じような、自分らしさを探している」
部長曰く、皆と合わせているつもりでも馴染めなかったり、逆に固定概念に囚われる環境に嫌気がさしたり、そんな子達が来ているとのこと。
「君の過去の活躍を知ってね。様々なしがらみを乗り越えて、自由な発想で業務を遂行する姿に憧れたらしい。だからこのチームに配属が決まったんだ」
「そ、そうなのですね」
知らなかった。てっきり無理矢理配属が決まって私の下についたのだと思っていた。驚きの事実である。
ミシェル部長は少し考える素振りをした後、真顔だが珍しく口角を上げてこう私に言った。
「エミリー。今回君は柄にもなく周りに合わせようとしたが、そんなことはしなくて良い。好きに行動していいんだ。何故なら、後輩達の反応を見るがいい。皆んな否定をしている様子はないだろう?」
すると、3人の後輩も頷く。
「どこまでもついていきますよ、エミリーさん!」
「サポートはお任せください」
「あ、安心してくださいね」
「皆んな……」
恥ずかしながら少し目が潤んできた。
ーー皆んな、私の意見を受け入れてくれる。
「ありがとう。意見を出し渋っていてごめんなさい。そうだよね、最善の方法を日々模索するのが大事よね。今度からは思いついたら都度共有して、話し合いましょう!」
私の後輩は思っていたよりも柔軟に対応してくれる、先輩思いの子達だったらしい。ならば、私も心配かけない後輩思いの先輩になろう。そう思えたのだった。
「言い後輩に恵まれたな」
向こうでタロウが和かに微笑んでいた。




