囚われの姫
イチロウは、密かに反逆のタイミングを見計らっていた。
サンダウルフが職権を悪用するのが目に見えていたイチロウは、あえてはじまりの扉のことは引き継がなかった。そして、扉を悪用して何かを企てるだろうことを見越し、備品輸送課を唯一の避難場所にできるよう計画したのだ。
課長となったイチロウは早速、備品課の接続口を変更することにした。表上はさぼってフラフラしているように見せ、実は001にある分離された扉に各世界の備品接続口を接続して回った。
そしてついにはじまりの扉と備品輸送課の接続口との接続に成功。
お陰様で私達が何気なく使用しているポシェットは、誰に気付かれるでもなく、今ははじまりの扉経由の接続口と接続されている。
そして、私はここに戻ることが出来たのだ。
「君のようにポシェットの存在に気づいて、自分で脱出してくれる存在が現れると思っていた。やはり、繋げておいて正解だったわけだ」
イチロウの読みは当たっていた。予め対策をしたお陰で、私のように助かる人が現れたのだから。
もしや、他の人もこの調子で助けられるかもしれない。職員は備品課の鞄を必ず持っているはずだ。
「では、この輸送課からイーグリア首相の鞄にも接続されているはずですよね? それなら助けに行けるかもしれませんね!」
「ああ、その通り。君達には今からイーグリアの所に救出に向かってほしい。救出後の対応はこちらで調整するから、君とタロウで向かってくれ」
「はい」
私とタロウはイーグリアの救出に向かうため、準備を始める……と、その前に。
「リンちゃーん!」
試しにリンデンを召喚すると……リンデンが現れた。というか豪速球で私の顔面に衝突してきた。
「んべふぅ!」
モフモフの塊とはいえ息が出来ないので、顔面にへばりついたリンデンを剥がす。剥がすなりリンデンは号泣しながら声を張り上げた。
「エミリー!! お主無事だったのかああああ! 我は心配で心配で! 召喚されたと分かった瞬間飛んで来てやったぞ!」
めっちゃ心配されてたらしい。
多分私の無事が分かって飛んで来てくれたんだろうけど、勢いが余って止まれず顔面に衝突したのだと思われる。
私が嬉しくてニコニコとしていると、それにリンデンは気付いたのか、「べ、別にお主1人いなくても、特に問題はないが、まぁ、お主のことだからどこかで泣き喚いているかと思って」などと、いつものツンデレ感満載で独り言を言い始めた。素直じゃないけど、それくらい心配してくれていたことに嬉しく思ったと同時に申し訳なくなった。
でも、今は再会を喜んでいる暇はない。
「リンちゃん、私達は今からイーグリアの救出に向かうの」
リンデンにはこれからの予定を伝え、取り急ぎ課長に私が戻ったと伝言を頼むことにする。リンデンは事態の深刻さを察しているらしく、ブツブツ呟いていたのを止めて頷くと即座に飛んで行った。
そして、私とタロウは誰にもバレないように、イーグリアのロッカーに忍び込んだ。私達のロッカーと違い、とても広い。天井は黒くなっており、ここが接続口への通路だと思われる。
私達は天井の黒い空間を上に登って行った。しばらく登るとポシェットの蓋のようなものが見えた。きっとあれが接続口だ。
まずは安全を確保するために、外の様子を窺うことにした。でも、私のポシェットは前の世界に置いてきてしまって、今はステッキしか出せない。覗く用の道具が無いことに少しガッカリしたが、ふとポケットの膨らみに気付いた。
ポケットに手を突っ込むと、セリカからもらった紐状のカメラが出てきた。これは……どうやら普通のカメラらしい。録画の投影もできるらしく、丁度良いので隙間に差し込んで外を覗いてみることにした。
鞄の隙間からカメラを通して外を覗くと……セレナ・イーグリアと思われる人物が見えた。
とても美人だが、私達よりも歳が老けて見えるくらいには割と年配なのだろう。私達と生きてきた期間が比べ物にならなさそうだ。
イーグリアは拘束されているらしく、周辺には顔を深くフードで覆い隠した怪しい集団が囲んでいる。
「私をどうするつもりです? 扉の閉鎖もウルフ派の仕業であると、分かっています」
イーグリアは取り乱す様子も無く、冷静に状況を見定めようとしている。
すると、フードの集団の1人が前に出てきた。
「サンダウルフ様は、セレナ・イーグリア様が犯人であるとゼロバンに伝えています」
そう言うと、画面をイーグリアに見せつけた。そこにはサンダウルフの顔が現れる。
「こんにちは、セレナ・イーグリア殿。貴女は今からゼロバンの扉の閉鎖をした共謀者として扱われることになる。歴史的犯罪者となるのだ。
でも安心したまえ、民の前での断罪は行わない予定だ。恐らく、これが最後の連絡になるだろうからね。そいうのも、その世界はもうすぐ入れ替えられるのだから。
私は君の謀略を暴いたものとして功績を積み、新しい首相として華々しいデビューを果たすよ。君はそこで弱るといい」
ゼロバンの声明で見た威厳のある姿とは打って変わって、とても不気味に笑うサンダウルフ。こちらが本性らしい。ちょっとハゲてるとかは言わないでおくが。
カメラの向こうでは、タロウとイチロウがしていた仮説が、現実のものとなっていた。イーグリアは捕らえられ、身動きが取れなくなっているようだ。タロウは横で悔しそうにその光景を一緒に見ている。
今の一連の内容から、やはり黒幕はウルフ派だと確信してよいだろう。
サンダウルフ自ら話してくれたことにより、私達が真相を探る手間が省けた分、今後やりやすいとはいえ、厄介だ。サンダウルフがイーグリアに代わり、ゼロバンを牛耳始めると、真相が本格的に闇に葬られそうである。
それに、遅かれ早かれこの世界が入れ替えられることも発覚した。イーグリアの救出には時間があまりない。
私は早急に救出する作戦に出ることにした。
まず、タロウに目配せして、今から行うことを耳打ちすると、タロウは同意するように頷いた。
ーータイミングを見計らって、鞄の隙間からステッキを振る私。
「眠くなーれ 眠くなーれ」
すると周りのフードの集団は呆気なく倒れていく。
ーー寝たか?
精鋭部隊らしき集団がこんな魔法で操られて良いものなのか、いささか疑問ではあるが、今は丁度良い。
全員が眠り、安全を確保したのを確認したと同時に、私達はポシェットから飛び出した。
イーグリアは突如ポシェットから飛び出した私達に驚いて、目を見開いている。しかし、タロウとは顔見知りだったらしく、タロウの顔を見るなり安心したらしい。少しホッとしたような顔をした。
同時に助けに来たことを察したようだ。
タロウはイーグリアの拘束魔法を解きつつ、こう言った。
「迎えにくるのが遅くなってしまい、申し訳ございません。」
「いえ、助けてくださってありがとうございます。タロウ、立派になりましたね。イチロウは元気ですか?」
「そのイチロウからの救助要請です。一緒に来ていただけますか?」
自由になったイーグリアは頷くと、私達に続いて鞄に飛び込んだ。




