厄介なナルシスト
前回と同じく、異世界統制省の中を歩き急ぎ足で魔法省に向かう。
「今回も助けてもらってしまいましたね、タロウさん。リンデンもありがとう! まだ扉の障害が発生したんですね」
私がお礼を言うと、タロウがやや暗い顔をしてきた。何事だろうと思っていると、リンデンが代わりに説明し始めた。
リンデン曰く、また扉の接続に関することに巻き込まれたらしい。しかし、前回とは状況が違うとのこと。
リンデンは報告が終わり、私のいる世界に帰ろうとしたそうだ。しかし、何故か妖精用の扉が接続を拒否してきたらしい。魔法省での扉から向かうことも試みたが、接続を拒んできたので、もしやまた障害に巻き込まれているのではと思ったリンデン。その為、仕方なくタロウに頼み、前回のように扉本体から迎えに来たとのことらしい。
やはり、また障害に巻き込まれたのか。私は納得して1人頷いてみる。しかし、リンデンの話を聞いたタロウが横で、何故か悔しそうに口を開いた。
「……エミリー、君は本当に目をつけられたかもしれないな」
ここで問題なのは、この障害が非公式だということだ。ゼロバンの関係各所に通達が行ってないらしい。
タロウとしては恐ろしい仮説が頭の中に思い浮かんできたそうだ。
ーーそれは、故意に私を孤立させるというものだ。
本当の予期せぬ扉の障害ならまだしも、最悪のケースは意図的にこの世界だけ孤立をさせていることも考えられるとのこと。
本来なら扉の接続が切れた時点で通知されたり、毎日の定期点検で、このような障害は発覚する。しかも発覚した後に通達が届く仕組みになっているのだ。
しかし今回は誰にも通知されずに放置されていたそうだ。
あまりに不自然で、タロウとしてはただの障害には思えないとのこと。
そこで、すぐさま前回の異世界統制省での呼び出しを思い出した。冷酷なウルフ派は、手段を選ばないと聞く。故に邪魔だと判断する基準に達した者は、排除されるということもだ。
自分の目の前が一気に暗くなった気がした。
ーーもしや本当に目をつけられた?
私がハッとしたように立ち止まると、タロウは心配したように一緒に立ち止まる。
「エミリー、君は誰かにこの世界に行くことを伝えたりしたか?」
「いえ、伝えてはいません。今回は行き先を知っているのは課長くらいですよ……あ、でも途中で異世界統制省の方が来られました」
「何?!」
「名前はたしかミハ……」
「あれ? エミリーちゃん、案件が終わって戻れたの?」
タロウでは無い別の声が後ろから聞こえた。振り向くと、そこにはミハエルの姿が。
「あ、ミハエルさん!」
「奇遇だねエミリーちゃん……と、横にいるのはヴィンセントじゃないか!」
ミハエルは足早に近づくと私の横にいたタロウの肩に手を回し、肩を組むような体勢をとった。なんだかとても気さくである。
「あれ、お二人は顔見知りですか?」
「顔見知りも何も、ヴィンセントとは同期だよ?」
「はえ?!」
私がタロウの方を向くと、タロウはとても鬱陶しいという顔でフイッとそっぽを向いた。
「気安く呼ぶな」
「僕たち同期の仲でしょーー。つれないなーー。タ・ロ・ウ君? 」
ミハエルがタロウの顔を覗き込み、面白そうにこう言った。
すると、タロウと言われたのがしゃくにさわったのか、カッとした顔でタロウが振り向いた。そんなに人にタロウと言われて言われるのが嫌なのだろうか。
だが一方のミハエルは、タロウの反応をニヤニヤとしながら楽しんでいる。「やっと僕と話をする気になったね」と、タロウの肩をポンポンと叩いた。
すると、タロウはめんどくさそうにして、ややミハエルを睨みながらこう返す。
「そういうお前も、フルネームで呼ばれたくないだろ」
「え」
私が「え」というのと同時に、機嫌良さそうにタロウを叩いていたミハエルの手が急に止まった。
「よ、余計なことを言うな!」
心持ちミハエルが慌てだした。名前を呼ばれたくないとはどういうことだろうか。それにミハエルの慌て様が凄く引っかかる。なんだか面白そうな流れになってきたので、好奇の目をミハエルに向けた。
「こいつの名前は……」
ミハエルがタロウの口を塞ごうとしたが時既に遅し。
「ミハエル・ナルシストラントだろ。」
ーーブッ
あ、ヤバイ噴き出した。
フルネームを暴露されたミハエルは横で少し放心していた。まぁ、この名前なら隠したいのも無理はないかもしれない。
ナルシストラントって……ナルシスト全開の名前である。なんならナルシストランドに聞こえて、ナルシストが沢山いそうな環境を連想してしまう。ある意味ミハエルらしい名前であるとは思った。
そして、タロウといいミハエルといい、なんだろうこの世代は名前に何かあるのかもしれないとも思ってしまう。
1人笑を堪えるのに必死で口を押さえて、プルプルと震えていた。
タロウは言ってやったと言わんばかりに、フンッと鼻で笑っていたが、私からすると2人とも似たような感じだ。
「酷いよ、僕の名前をエミリーちゃんみたいな可愛い子に言うなんて!」
ミハエルは恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
しばらくして、私もミハエルも落ち着きを取り戻す。
「失礼しました、ミハエルさん、タロウさん」
「全くだ」
タロウは少し不機嫌そうに私をみた。
ミハエルはふーっと大きくため息をつくと、私とタロウを交互に見て考えるようにこう呟いた。
「でもそっかー、エミリーちゃんとタロウが顔見知りかーー」
「そうなんです! タロウさんは助けてくれたんですよ、私が異世界から帰れないところを、……もが!」
「ば、まて言うな!」
タロウが慌てて私の口を塞いだ。
すると、ミハエルを取り巻く空気感があからさまに変わる。少し考える素振りを見せ、独り言を言い出した。
「ん? 帰れない? ……ははん、そういうことか。君が……」
ミハエルの様子を見て、私はハッとした。
ミハエルの私を見る目が変わったことに気付く。ニコニコと笑いつつ面白そうに見ていた目は、私を観察する目に変わっている。こんな目、どこかで見たな。
すると、タロウは私の手をグイッと引くと、ミハエルを一瞥してこう言った。
「お前と余計な話をしている暇は無い。エミリー、行くぞ」
そう言うと、タロウに急かされ、私は強引に連れていかれた。




