辛勝、そして『これから』
衛実の薙刀が鬼の首を捉える。
「くたばりやがれ!」
衛実が刃を一息に振り抜く。その瞬間、鬼の頭は胴体と永遠の別れを告げた。
「討ち取ったり!」
衛実は己の勝利を高々と告げた。
鬼との死闘を終え、衛実が自分と朱音の怪我の手当てを終えると、先の戦闘で命を落とした傭兵達の骸を 1箇所にまとめて燃やした。
遺骨は衛実と朱音が持ち帰れる分だけを集め、残りは戦場から離れた、日当たりが良さそうな所に持っていき、簡易的な塚を作って、そこに埋めた。
「今度、日を改めてここに花を供えに来よう。」
出来上がった塚を見下ろして、衛実が呟いた。その言葉に朱音も黙って首を縦に振った。
その後、2人は自分達が倒した鬼の後始末をするため、また先の戦場へと戻っていった。
地に伏した鬼の死骸を見つめて衛実が口を開く。
「これが、鬼、なんだよな朱音。」
「ああ、そうじゃな。」
改めて鬼を見ると、異様に発達した腕、人間の太腿並のふくらはぎ等、とても「人」とは言い難い姿であった。
「でも、お前は怪我をしたのに喰わなかったな。」
先の戦闘で、鬼が 1人の傭兵の心臓を喰らって、怪我を治したのを思い出した衛実が、朱音に問いかける。
「そう、わらわが決めたから、ぬしと共にこの旅を続けるためにも。」
「そうか。…無理すんなよ。」
「これぐらいのことなぞ。」
「難儀なやつだな。」
一息ついて、衛実がボソリと呟く。
「…お前はすごいな。」
上手く聞き取れず、朱音が聞き返す。
「何じゃ?」
「なんでもない。」
「これからどうするのじゃ? 」
朱音の問いに一旦黙った衛実は、暫くしてまた口を開いた。
「…帰ろう。弥助の所に。まずはそれからだ。」
鬼の死骸を跡形もなく燃やしきり、残った骨も粉々になるまで砕いて地に撒いた後、衛実と朱音は弥助の店へと帰っていった。
弥助の店に帰ってきた衛実と朱音は、帰りを待っていた弥助と反物屋の八兵衛に事の顛末を報告する。
「…てわけで、帰って来れたのは俺達だけだ。八兵衛さん、本当に、申し訳ない。」
衛実は深々と頭を下げた。だが、そんな衛実に対し、八兵衛は詰る訳でもなく、責め立てる訳でもなく、ただ衛実の肩をポンポンと叩いただけだった。
「そう自分を責めなさらないで下さい、衛実さん。傭兵なら、こんな結末は誰にだって訪れるもんです。
それに相手は化け物だったんでしょう? あんたもお嬢ちゃんも、こんなにボロボロにまでなって。
そんな形の人に、最善を尽くした人に、その責を取らせるなんてこと、ウチは致しません。
元はと言えば、この依頼はウチが出したもんです。むしろ、感謝させて下さい。化け物を倒してくれて、ありがとうございました。」
八兵衛のかけてくれた言葉に思わず、涙を流す衛実。その口から出る言葉は「すみません、すみません。」だけだった。そんな衛実に弥助も声をかける。
「衛実、お前はもう1つやり通したことがあるよぉ。
お前は、朱音ちゃんを最後まで守り通した。そんだけやれば充分さぁ。
今日はもう家で休みなぁ。朱音ちゃんも。2人とも、よく頑張ったよぉ。今は体を労る時だぁ。さあ、」
弥助に連れられ、衛実と朱音は部屋に案内される。2人を案内した後、弥助は八兵衛に話しかけた。
「お待たせぇ、八兵衛さん。あんたも優しい人だねぇ。」
「よして下さい。ウチだって思う所がない訳じゃあないんですよ。
でもね、じゃあ逆に、あんな 2人を見て責めることができますかい?
やることやって、その結果がこれなら、ウチはそれを認めるしかないでしょう。」
「そうだねぇ。」
「まあ、それはそれとして、ウチの用心棒が 3人も消えちまったのは痛いことでさあ。弥助さん、悪いんだが、あの 2人が落ち着いたらでいい。その時はウチの店の手伝いをさせてはくれないだろうか?」
「分かったよぉ。2人に伝えておくねぇ。でもねぇ、」
弥助の目がすっと細くなる。
「でもねぇ、もし逆恨みとかするようなら、その時はあっしがただじゃあ、置かないよ?」
「辞めてください。さっきも言いました。彼らを責めたりなんてしません。少しはウチの事を信じてくだせえや。」
「冗談だよぉ。じゃあ、八兵衛さん気をつけて。」
「ああ、よろしく頼みますぜ。」
そう言って八兵衛は店へと帰っていった。
「衛実、大事ないか?」
2階へと上がり、部屋に入って装備品などの荷物を下ろしていた衛実に、朱音が遠慮がちに声をかける。
「…ああ、大丈夫だ。ごめんな、お前も辛かったのに。」
「何を言うか。ぬしこそが一番大変であっただろうに。むしろ、すまぬ。あの時、わらわが行くと言わなければ…。」
思い詰めたままの朱音は、やがて何かを悟ったかのように低い声音で口を開いた。
「やはり、わらわは、ぬしと共にはおれぬようじゃ。わらわがいると、ぬしに余計な苦労をかける。そうなる前に…。」
そう言って部屋を出ていこうとする朱音。しかし、襖を開けようとした時、後ろから強い力で肩を掴まれ、引きとめられる。
「も、衛実?」
「朱音、行かないでくれ。俺に迷惑をかけるだなんてことで、俺から離れようとしないでくれ。…俺をまた 1人にしないでくれ。」
「じゃ、じゃが!」
そう言う朱音の声は震えていた。
「何だっていい。お前が俺の元にいてくれるのなら、どんな事でも受け止めてみせる。
俺はな、朱音。お前と一緒にいた時間が楽しかったんだ。こんな思いをしたのは久々なんだ。だから、そんなことを言わないでくれ。
それとも、お前は俺といるのが苦痛だったのか?」
朱音は衛実の腕を振りほどいて、衛実に向き直る。
その目に浮き上がっている涙は、今にも溢れ出しそうであった。
「そんなことはない! そんなことはないのじゃ! ぬしといれた時間はわらわにとっても新鮮で、楽しかったのじゃ! でも、でも…!」
朱音の目から涙が溢れ出す。
「わらわの存在は、ぬしに災いをもたらしてしまう! ぬしを幸せにすると誓ったはずなのに、不幸にしてしまう!」
朱音は衛実に飛びつき、泣きじゃくる。それを受け止めながら、衛実は口を開く。
「なら、またこっからやり直してくれないか? 俺と共に。」
朱音は、まだ涙が流れる顔を上げ、衛実を見返す。
「良いのか? わらわは、今度もぬしに迷惑をかけてしまうかも知れぬぞ?」
「それでもいいんだ。お前が俺と共にいられることに、意味があるんだ。だから、」
衛実は朱音に優しく微笑みかける。
「だから、よろしく頼む。朱音。」
衛実の改まった挨拶に、朱音は、涙を拭って精一杯の笑顔を作りながら応える。
「こちらこそ。よろしく頼むぞ、衛実!」
2人の旅はまだ始まったばかりである。
こんばんは。最近、スマホ版「PUBG」にハマっております。流れゆくモノです。
遅くなりましたが、遂に「鬼と傭兵の物語」第1部完結です。なお、物語自体はまだ続きますので、よろしくお願い致します。
え? 溜めたくせにもう第1部が終わりだって?
まあ、その通りです。一応、目標としては4万字の短編を作るつもりだったので、こんな感じなのかな、と思っております。それでも、読者の皆様にもっと楽しんで貰えるよう、精進していくつもりですので、今後ともよろしくお願い致します。
さて、今後についてなのですが、もちろん「鬼と傭兵の物語」は続けて行きます。只今第2部の大まかなストーリーを考えておりますので、少々お待ち下さい。
そして、これは見切り発車なのですが、これとは別の作品を投稿しようかなと思っています。題名は「転生貴族 〜リアルで妻を寝盗られたので、ちょっと異世界転生して来る〜」です。こっちの方は本作品よりも投稿ペースを落として投稿しますので、是非、息抜き程度に見に来て下さい。(明日辺りに1話を投稿します。)
ではでは




