STEP7-1 かわらぬ幸せ~朔夜の場合~
2019/07/22
ご指摘ありがとうございます!
滂沱が難読なため、ルビをふりました。言い換えは検討中ですm(__)m
俺たちは、サクレアを永久に幸せに生きさせてやる方法はないか、そう模索していた。
けれど、やつはそんなこと、ちっとも望んじゃいなかった。
まわりのものたちと同じ強さと弱さで、同じときを生きて死ぬ。
それこそが、やつの望みだったのだ。
けれど、神の子の『寿命が尽きる』ことなど、ほぼありえないことだろう。
それこそ、幾度も殺され、すべての力を根こそぎ奪いつくされでもしない限り。
なんてことだろうか。
俺たちが変えようとしていた、最悪と思っていた現状は――
それこそが、サクレアにとってはベストのシナリオだったのだ!
気づけば、目の前にサキがいた。
滂沱と涙を流しつつ、俺を見つめていたやつは、あっと思ったときには俺を抱きしめていた。
「サク!!
ごめん。俺、うまくやれなかった。
サクが、ずっとずっといっしょにいてくれるのに、それはわかってるのに、どうしても心が折れちまって……どうしても……死を望んで、受け入れちまう。
アズールとナナっちは助けられる、それはわかったんだ。
でもごめん、お前のことは、幸せにしてやれなかった……!」
「……そんな風に、言ってくれるのか」
驚きを隠せなかった。
なぜって、そこまで試行したならば知っているはずだ。
俺がこいつにとって、どういう存在なのか。
俺がこいつに、どんな運命をもたらしてしまったのか。
そして……
だが、やつは俺の肩をしっかとつかまえて、真正面から言ってくれた。
「そんな風にもこんな風にも!
お前はなんも悪気なかったじゃないか。ただ、みんなを幸せにしたかっただけだ。
そうして生まれたダメ猫の俺を、全力で大事にしてくれた。
俺はな、しあわせだったぞ!
最期まで心配してくれて、一緒にいてくれて、マジにしあわせだったんだからな!
なんたってやばいとこは、お前がつけてくれた仕様のおかげで、全部吹っ飛んでたしな!
ほら、『生き返るときに記憶を代償とする』ってやつ!」
「…… え、あいや。
俺はそれ、かんがえて、ない……」
「そっか。
お前天才だからな。無意識でやってくれてたんだ。
ありがとな、サク」
思わず間の抜けた答えを返せば、どこまでも優しい天才野郎は、善意100%の解釈をしてにっこり笑ってくれた。
うれしい。
うれしかった。
だが、だからこそ――
「それで、この先どうしよう。
アズールとナナっちは助かるの確定として、俺の性格とか、一部いじればなんとかなるかな。それとか、もっと軟着陸的に……」
「サキ」
――ぐっと、腹にチカラをこめて、その言葉をさえぎった。
「そんなことをしたら、それはもうお前じゃないだろう。
俺の自己満足のために、弱く優しく生み出したお前を、今度は強くふてぶてしく?
いくら俺だって、そこまでの外道はできない」
「サク……」
やつが顔を曇らせる。それはそうだ、変える変えるといって飛び出した俺が、結局折れて、ここまでの試行を無にしようなどと言い出すのだから。
それでも、言わないわけにはいかなかった。
「つらいに決まってる。辛くないわけないだろう。
けれど、俺は見てしまったんだ。
不死の運命を呪い、嘆き悲しみ、苦しみぬいた末に死を選ぶお前の姿を!
お前にそんな運命を負わせるくらいなら、俺は……」
『御座の間』は、静まりかえった。
サキ、ルナ、シャサ、イサ、ゆき、陸星、奈々緒、そしてアズール。
イザーク、亜貴、ユー、ジゥ、ふたりでひとりのエリカたち。
みな、沈痛な顔をしていた。
スノーだけは姿が見えないが、気配は感じる。必要となれば干渉してくるだろう。
「……そっか。ま、そんならしかたねえな」
最初に賛同を示したのは、なんとアズールだった。
なにか吹っ切れた様子で、ふっとため息をついて言い切った。
「もともと過去改変とかよ、ムシのいいハナシだったんだ。
俺の罪は俺のもの。償っていくさ、俺自身の手で」
「……そうだね。
友達だなんていいながら、アズの暴走を防げなかった俺にも落ち度はある。
俺も、ともに償っていくよ。どれだけ長くかかっても。
みんなが許して、信じてくれるようになるまで、もう二度と、くじけたりしない」
「おい、ナナ」
それに奈々緒が続けば、アズールはやめろと声を上げる。
しかし、奈々緒は一歩も引かなかった。
「お前からすれば俺も、お前の手玉に取られた被害者かもしれない。
でも、他のやつはそうは見ないよ。
えっと、たしか……『宰相様の飼い猫その2』だっけ?
そして俺にとってのお前は、恩人で親友である男のひとりだ。
あきらめてよ、お前はおっきな迷いネコを餌付けしちゃったんだ。
それも、何年も何年もかけてさ」
かつてサキが奈々緒を説得したときのセリフを口にして、にっこりと笑う奈々緒。
アズールはぽかんと口を開け、亜貴が笑い声を上げた。
「あっはは! こりゃもうかなわないよ、梓!
俺も協力するから、腹くくってセキニンとってやれよ、な?」
……ああ、なんてことだろう。
そもそもは俺が招いたことなのに、こいつらは自らの罪として、それを背負おうとしてくれる。
俺はもう、全力で詫びずにはいられなかった。
「すまない。どこまでも俺のために……!
俺にもその責、負わせてくれ。このとおりだ」
「俺も加えてくれ。
“おやじ”が俺のためにとした選択だ。俺も、一緒に背負っていきたい」
しかし頭を下げれば、サキが俺に並び、同じように頭を下げる。
そうして手を差し出せば、奈々緒が、亜貴が、アズールが手を重ねる。
俺も、と手を挙げかけたときに、その声は聞こえてきた。
「ハナシはまとまったっぽいわね」
満を持して登場したのは、子供の姿のスノーだった。
* * * * *
スノーは初めて現れたときと同じように、ゆるく波打つ白銀の髪を背に流し、シンプルな白のワンピースをまとい、はだしですたすたと歩いてきた。
「わあああスノー! やっと会えたー!」
「花菜恵、大丈夫だった? 一人で怖くなかった?」
「ずっと心配でしたわ、スノーさん!
そちらはどうだった? 大変だったでしょう?」
サキ、奈々緒、ルナ。
この三人を筆頭に、俺も含む全員が、彼女の元に駆けつけた。
気遣わしくないわけはない。この試行がどれだけ過酷かを、俺たちはみな知っている。
それをずっとただ一人、重ねることは、どれほどつらかったことか。
だが、スノーは笑ってこういった。
「ふふっ。もちろんハッピーエンドよ!
もっとも『スノーフレークス』としての尺度で、だけどね」
すっかり女神の顔になったスノーは、慈愛に満ちた笑みで俺たちに告げた。
「わたしはみてきたわ。全部の試行の行方を、さいごまでこの目でね。
みんな、バラバラに死んでいった。
いろいろな理由、いろいろな気持ちでね。
でも、いずれはみんな、ひとつの場所にたどり着くの。
『いま』『ここ』よ。
生まれ変わり、目を覚ましたみんなは、もう一度出会い、手を取り合って――
笑いあって、力を合わせて、歩んでいくの。
どんなにひどい失敗の後でも、たとえ無為無策の後だって、それは一度もかわらなかった。
どんな不運も悪意も、ぜったいに奪うことのできない、かわらぬ幸せを、わたしは見てきたわ!」
そうして、誇らしく胸を張る。
サキがひとつ、うなずいた。
「そっか。
つまり俺たちはもう、とっくにハッピーエンド、だったんだな。
――そして、この先に待ってるものも」
誰からともなく、顔を見合わせあっていた。
明るい諦念と、さっぱりとした笑いが生まれていた。
「ってわけでサキ。
あたしから、みんなに一言いいかしら?」
「ああ、もちろん!」
スノーの美しい緑の双眸は、いたずらっぽく輝いている。
サキは気づいてなさそうだが、スノーは何かたくらんでいるようだ。
……これは『あの言葉』を言ったときと同じ顔だ。ひそかに深呼吸した。




